02_05_22
「さて、どうでるかな?」
クランは、エンディが逃げこんだレストポイントをじっと見つめて、飛び出す機会をうかがっていた。
一機リタイアを受けて、後続に甘んじてでも慎重に安全走行に徹するか?加速して、先頭集団に合流することを優先するか?
あのイエローが戦略的なら、リタイアのマイナスをポイントを押して、なおリスクを取るようなことはしないが、現状までの割と短絡的で場当たりな走りの印象からすると、
「あのイエローは、一旦、最速クリアを目指すかな?」
あたりをつけるようにぼそっと言うと、ウルフブルーのモニタに、オセロットイエローの予測ルートが表示された。
そのルートを眺めながら、クランはメッセージを送った。
スタートのタイミングを計るベル。そこにクランからのデータリンク要請がメッセージ付きで表示された。
「予測ルートデータ確認。黄色の山猫を狩るぞ」
間欠泉の勢いが弱く、低くなったのを確認すると、エンディは、オセロットイエローの体をぐっと小さく屈伸させて、その機体をレストポイントから跳ね上げた。空中でバイクモードに変形させると、マーブル模様が広がる地平の先でゆるやかに蛇行するファイヤーホール川に向かってマシンを加速させた。
「はい!ビンゴ!」
その黄色い機影を確認したクランのウルフブルーが飛び出すと、オセロットイエローを追い、マシンのスピードを加速させていった。
エンディは、バックモニタに移る青い狼に気が付いた。自分を追うように、マシンのスピードを上げてくる。そして、右側から、先行していたウルフブランも、自分と距離を詰めるように期待をバンクさせてルートを近づけてくる。
囲い込む気?
エンディは、ウルフブラウンと距離を取るように、左にバンクして、盛り上がった石灰岩の足場を超えて、なるべく2機を引き離そうとした。エンディの周りに警告表示が膨れ上がる。
「その先は、ランダムに噴出する間欠泉が集中している。逆にスピードが出せないエリアだ」
クランは、モニタの表示範囲を詳細にして、マップ上のエリアルートを確認すると、自分を含めた三つの光点をシンボルラインで結んで距離差をどんどん縮めていくように機体を操作していく。
「お前の攻略ルートはバレバレなんだよ」
エンディは、突如吹き上がった水しぶきをよけつつ、激しい段差を超えていった。機体が思うように進まず、自身が進むべきルートを見失っていく。
「くそう!スピードが上がらない!」
最初に決めたルートから外れ、間欠泉の警告表示に翻弄されるエンディのオセロットイエロー。一旦、レストポイントに逃げ込むか?でも、それだと、また足止めを食らってしまう…
再び間欠泉に阻まれ、混乱するエンディ、モニタを見ると、自らの光点がどんどん予定ルートから外れていくのがわかる。
このままだと、このファウンテンエリアから逃れられない!もう一度、推奨ルートに戻らないと!
慌ててエンディは、コース取りを変えていく。立ち込める湯気にまみれながら、目の前に飛び出してきた間欠泉を大きくジャンプして超えると、そこに、ウルフブラウンが現れた。
「うわ!」
慌てて急制動するオセロットイエロー、体制を崩した機体の腹部あたりに向かって、体をひねったウルフブラウンがその足を叩き込んだ。
「きゃあああ!」
吹っ飛ぶオセロットイエロー。跳ね上がるように反対側へ跳躍していくウルフブラウンが、間欠泉の白い湯気の中に消えていった。地面を大きくバウンドするオセロットイエローが転がりながらもなんとか機体を立て直す。
「ぐうう!」
とくぐもった息を吐きながら周りの様子を確認するエンディ。視界は湯気で覆われ、少し先もはっきり見えない。くすぶるように周りを取り囲む間欠泉の警告表示と、それに紛れて、エンディを中心に対角に距離を取り走る二つの光点が見えた。
「取り囲まれている!」
思うや否や、ファイヤーホール川があるであろう方向に向かって飛び出すオセロットイエロー。
「いかせるかよ!」
クランは、オセロットイエローが向かう先に合流するかのように走りこんでいくと。オセロットイエローと同じタイミングでジャンプして、オセロットの側面部にこすりつけて跳ね上げていった。
「うわあ!」
たまらず脇にそれて体制を崩していくオセロットイエロー。ウルフブルーは一旦その場から離脱すると、その軸線上に存在するレストポイントに収まった。クランは一度大きく深呼吸すると、再びその場から飛び出して、オセロットイエローの光点を追っていく。
足を滑らせ、ビーストモードで再び走り出すオセロットイエロー。エンディは激しく息をつき、その場から何とか離脱して、エリアを抜けるルートに戻ろうとマシンの方向を転換した。しかし、白い湯気で作られた分厚い霧に囲まれ、効かない視界に混乱していく。
「お!オセロット!推奨ルート!」
光点から伸びる線がいくつか結ばれ、攻略ルートが提案される。
激しい動機と息切れにさいなまれ、周りの様子を必死でうかがう。
このエリアから脱出するには、どのルートがベストなの?
オセロットイエローの光点から一定の距離を取る二つの光点が常に視界に入ってくる。エンディのルートにいつでも合流できる距離を取る、ウルフブルーとウルフブラウンの姿。まるで、二匹の狼が、迷い込んだ山猫を追い込むように機会をうかがっているようだ。
現状に混乱するエンディ。
どうする?どうする?どうする?
跳ね上がる水飛沫。再び一帯が吹き上がる間欠泉で覆われる時間も近い。そんなさなか、先ほどウルフブルーとレストポイントを取り合った時のことが、ふと頭をよぎった。
そうだ!別に、最初の関係に戻っただけじゃん!イエローストーン渓谷の借りを返すんじゃななかったのか!エンディ。
足を滑らせながらも慌て走るエンディは、ラフプライも覚悟して、ビーストモードのまま、推奨ルートの一つに加速して行った。脇で距離を取っていた青い光点も、その動きに呼応するかのように近づいてきた。あの憎々しいウルフブルーだ…でも…、
「勝つのは私!エンディ様でしょ!」
気を取り直して、前方を見つめて走るエンディ。次々沸き上がる間欠泉の水しぶきを右に左によけながら、岩場を駆け上がっていくエンディが大きく跳躍すると、舞い上がった上記の向こう側に、ユニバースの機体のシルエットが見えた。
違う!ブルーじゃない!
ウルフブラウンは並走するかのようにオセロットイエローの脇に並ぶと、先ほどと同様に体をひねって自分の足をオセロットイエローに向けてきた。慌て、オセロットも同様に体をひねってウルフブラウンに向かって、自分の足を向ける。
思い切り放った蹴りが同時に炸裂して、二機のシルエットが上空で弧を描いて離れていく。体制を崩して着地に備えるエンディ。
もう一機の青いやつは!
機体を操作しながらモニタに目をやるエンディ。見ると、青い光点は自分の黄色い光点と重なるように明滅している。
落下軌道に合わせて、自分の視界の裏側にいる何者かの気配が明確になる。
ウルフブルーが、自分の背後にいる!
ぞっとして振り返るエンディの視界に、あの青い狼の姿が映る。こんな近くで!と恐怖にかられたエンディは、機体を急反転させた。
「うおあああああ!」
と叫び声をあげるエンディ。オセロットイエロの上体をひねって、ウルフブルーに向かって蹴りを見舞い、反転して大きく跳ね上がった。
その蹴りを受けて後方へ離れていくウルフブルーがエンディの視界に入った。
直撃させた!
その感触を本能的に受けて、恐怖と驚きの表情を浮かべるエンディの顔に、ひきつった笑いがこぼれた。腕をクロスさせてその機体を守りつつ遠ざかっていくウルフブルーの姿が瞬間スローモーションのようにエンディには見えた。機体を駆るクランの顔は冷静な笑みを浮かべて、何事かつぶやいた。
「残念だったな…」
エンディにはそう聞こえた。ハッとモニタを見るエンディ。落下軌道の先にくすぶる警告表示がどんどん大きくなっていく。肩越しに落下する先を見るエンディ。その先は最初に迷い込んだ間欠泉エリアだった。もうもうと白い湯気を噴き上げ、今にも噴出しそうな間欠泉の群れに向かって、自分の機体はなすすべもなく落ちていく。
「しまった!」
その時エンディは、自分がこの二匹の狼に、二度も嵌められて狩られてしまったことを認識した。




