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ビーストライダー・マガネ【鋼】  作者: 時波彷徨
2章05~カイザーファウンテンエリア~
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 天地の逆になったまま、エンディは憎々しげな様子でモニタに顔を近づけた。


「ちっくしょう…!オセロット!このエリアを抜ける推奨ルートの候補を」

「了解」


 オセロットAIが返事するや否や、モニタ上のデータが再度読み込みなおされ、レストポイントとエリア走破のルートが直線で結ばれていく。


「このマップデータはまともなんだろうな!」

「先行するティナの走破データと、過去のエリアデータから算出された予測データです」

「それじゃわかんねーよ!」とエンディは舌打ちした。


 カインに借りを作っちまった…。


ビーストライドの経歴じゃ、私のほうが先輩なのに!

 心の中でざわつく気持ちを抑えながら、ぎりぎりと歯を食いしばる。


 練習走行じゃ、初心者丸出しの危うい操作で、いつも私の後ろを走っていたカイン。

 エンディの脳裏に、練習風景がよみがえる。ビーストライダーとしては、やや長身が目立つカインは、元はバスケットボール選手だったらしく、持久力に飛んでスタミナがあった。長い耐久走行でも、スタート時とさほど変わらないドライビングと冷静な判断を維持していたことが、エンディとしては印象的だった。


 対して自分はやや小柄な体形で、軽い体重と、機敏な動きが売りのアマチュアライダーだったが、体力面は克服課題だと感じていて、日々それなりに努力を積み上げているつもりだ。だから、こんな何時間も連続走行を強いられるビーストライドエンデューロにもなんとかついていけている。


 しかし、ピットインブースでは平気な振りをしていたけれど、内心、走破することが出来るかどうか、エンディは不安で仕方がなかった。


「やばいと思ったら無理せずリタイアなさい」


肩に力が入ったエンディに、レイチェルはいつもそう言って指導していた。そのことは、エンディを冷静さに保つ心構えになっていた。だから走れる。周りのチームメイトが走っているうちは。


 それなのに、カインの奴は、自分をレース場に残してリタイアしやがった。


 エンディは、心のどこかで、リタイアしたカインのことをうらやましく、疎ましく思っている自分を感じていた。


 あのまま、相手チームに嵌められて、レースから外れていれば、リタイアできる言い訳ができたのに…


 小さい頃から、勝ち気だけど臆病で、活発だけど小柄で、体力には自信のないエンディ。


 ビーストライドを始めたのは、マシンライドの力を借りて、アウトドアで飛躍的な運動能力を発揮できることを知ったからだ。


 アレルギーが強いエンディは、あまり外で遊べない子供だった。外気に触れ、激しい運動をすると途端に気管支炎や発疹などに見舞われ、エレメントスクールでは、特別に室内授業のカリキュラムを組まれていた。インドア中心での学校生活。エンディは、外で遊ぶ同学年の子たちをうらやましそうに眺める内気な女の子だった。


 そんな時、屋内のモトクロスポケットライドに出会った。ポケットライドながら、目まぐるしく変化するコースとその視界に、エレメントスクールの初めから、身体免疫を上げるために器械体操をやっていたエンディにとって、マシンの力を借りて、自分の身体能力を倍加させるそのダイナミックなアクションと、まるで室内に閉じ込められていた自身の体を、一気に解放してくれるかのような感覚は、今でも、自分の精神を解放してくれる特別な経験だ。


 エレメントスクールの高学年へ進級するころから、免疫能力の向上もあり、普通学級での授業に切り替わった。ミドルスクールに入るあたりから、ビーストライドで野外走行も可能となった。


そんな自分が、いまや。泥と湯気と硫黄の刺激臭にまみれ、逆さまで岩場のくぼみに落ち込み、こうして反撃の機会をうかがっている。


 アレルギーも発疹も出てはいないが、きつい連続走行で四肢があらゆるところで悲鳴を上げている。明日はきっと、ベットから起き上がることはできないだろう。


 徐々に下がってくる水しぶき。


本当なら、足止めを食らっているファウンテンエリアは抜けて、今頃は最後のファウンテンエリア、オールドフェイスフルに向かって、ファイヤーホール川を下っているところだ。それなのに、相手チームの計略にはまって、こんなところで、こんな不格好な姿勢で足止めを食らっちまっている。


 むかむかとする気分がエンディの胸を焦がす。


 あの青い狼だけは絶対許さねえ!


 エンディは心臓のあたりをつかんで大きく深呼吸した。

 カイン!この借りはきっちり返してやるからな!

 と心の中で念じるとエンディは、


「オセロット、最短推奨ルート!次のトライアルでこのエリア抜けるぞ!」


と言ってハンドルを握りなおして、次のスタートに備えた。


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