02_05_17
ユニバースの二つの光点、ウルフブラックとピンクに挟まれるように、ティナのオセロットシルバーがイエローストーン川を南下していく。目指す先は最後のファウンテンエリア、通称、アッパーカイザーペイズン、最後の間欠泉エリアだ。ドローンで撮影されている映像を見ても、ティナのオセロットシルバーの駆動は、他の二機に引けを取ることなく力強く走っているように見えた。
「いいぞ!この調子で、次のフェイスフルカイザーファウンテンも!」
テムジは無邪気に喜んでいるが、ユアンの表情は少し曇っていた。ティナが連携を組んでいるのはあくまで対戦相手のユニバースである。最後の最後まで、本当に信頼のカードを出し続けることが出来るのか、もし、相手が何らかの拍子に、ティナを陥れるような事態になったとしたら…
考えてみたところで仕方がないのはわかっている。それに、ビーストライド中での、対戦者との協力してのクリアは、技術点のポイントを加算され自身のレース経歴のプラスにもなる。練習試合とは言え、クラウド上の履歴としてはしっかり残るのだ。相手側が高度な判断で実力に応じた協力体制を講じているなら、それに乗らないわけにはいかない。ユアンは、まんじりと考え込みながら、モニターでティナの様子をうかがっいた。
その脇で、レイチェルはカインとエンディの様子を見つめていた。
カインの様子が芳しくない…。
バイタルサインがいい傾向を示していない。激しい動悸と脈拍、呼吸のその反応の在り方で、オセロットAIからの“注意!”項目が出ている。それにカインはファウンテンエリアの途中からセーフティモードをマックスまで上げて走破に挑んでいる。これでは、レースの経験値がポイントとしてほとんどつかない。が、それはカインが、それをわかってなお、走破とチームサポートに徹しているということだ。
もし、バイタルサインに“警告”が出れば、レイチェルは、オセロットパールにレースの“棄権”を命じなければならない。その時点でカインはリタイヤとなる。でもそこは躊躇しない。当たり前だ、生徒の生命の安全が第一だからだ。しかし、番狂わせは、もう、起こっているかもしれない。第二ファウンテンエリアで四人がレストポイントで間欠泉が収まるのを待っている間に、モニタ上で近づいて来る光点が一つ。
オセロットグリーンのマガネのマーク。イエローストーン川を南下しながらジリジリとその差を縮めてくる。
こりゃ面白くなってきたかも。
レイチェルは、モニタ上の各機の様子を伺いながら口の端をぺろりと舐めて、ほくそ笑んだ。
浅瀬を飛び越え、トレッキングルートをまたぐと、赤褐色の岸壁の隙間を駆け抜ける。
「僚機のオセロットAIから、レストポイントと、間欠泉噴出パターンの更新が入ります」
「おう!で推奨ルートは?」
飛ぶように過ぎ去っていく木々のかわしながらのオセロットグリーン。
「セーフティで?それともスピード重視で?」
「んなの!きまってんじゃん!」
聞くや否や、モニタ上のレストポイントマークが確定し、ポイントをつなぐラインが表示された。
「了解です。間欠泉警告位置に注意してください」
マガネが目を丸くしてその位置情報を確認すると、周辺の警告表示が見る見る小さくなっていく。目の前を覆う白い靄が薄くなって、舞い上がる白い火花のような水しぶきが次第に小さくなっていった。目を細めるマガネの視線の先に、巨大な白いシルエットの隙間に空間が開け、自分が攻めるべきルートが浮かび上がる。
相手が守りに入ってスクラムを組み始めている。
マガネは、握ったハンドルのアクセルを全開にした。
「ルート表示確認してくだい」
オセロットグリーンがそう告げるや否や、マガネは、まだ収まりきらないカイザーファウンテンエリアの間欠泉の合間に向かって一気に飛び込んでいった。




