表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビーストライダー・マガネ【鋼】  作者: 時波彷徨
2章05~カイザーファウンテンエリア~
67/95

02_05_16

 岩にしがみついたオセロットパール、カインのマシンのモニタにデータがリンクされ、予測ルートが映し出された。レストポイントが点滅しながら推奨ルートの線が繋がったりほぐれたりしながら、各目標地点がランダムに変化していく。カインは、モニタ上のライン取りを見つめながら、乱れた呼吸を整えようと努めていた。なかなか落ち着かない心臓の鼓動を感じながら、アクセルレバーを握る手に力が入る。


 カインがビーストライドに目覚めたのは2年前だ、それまでは、兄弟たちの影響でバスケットボールの選手として活動していた。長身の兄たちに比べて、体躯は劣るものの、エレメントスクールでも州大会上位に食い込むくらいは活躍していた。しかし、決勝を控えたある日、練習中のラフプレイがもとで、足の靭帯を損傷するケガを負ってしまった。

 その年のリーグには出場することはかなわず。病院でぼんやりと療養する日々が続いていた時、ふと、ビーストライドの試合に目が触れて、それからは、このマシンレースにどんどんひかれていく自分を感じていた。


 自分の身体能力とマシンの力を合わせて、通常では考えられない障害を克服していく。


 そんなビーストライドに魅了されたカインは、自分が入れるミドルスクールに、ビーストライド部があることに心が躍った。


 しかし、最近、世の中では、過酷なオフロードレースを課すビーストライドの活動自体、未成年者に行うことは良しとされない傾向にあり、予算の縮小や廃部などが相次いでいた。カインの通うエステート学園でも、年々部員数は縮小し、カインとともに入部したのは、エンディという小柄な女の子だけだった。


 カインにとっては、ビーストライドを経験してみたいという程度の入部だったので、それでも全く問題なかった。いざ練習を初めて見ると、与えられたコースを走り抜ける度に得られる爽快感は、何物にも代えがたいものだった。この快楽を得ることが、次のビーストライドに向かわせる充分な動機になる。操作をするにも、振り落とされずついていくにしても、とてつもない体力と集中力が必要なことが分かり、レース中何度もカインは精神的も肉体的にも値を上げ、ライドコースを周回する度、味わったことがない筋肉痛にもさいなまれ、明日にはメインライダーから外れたい気持ちに心が折れそうになるが、無事にゴールを迎えたとき、それまでの苦痛が報われる瞬間。次もトライアルしたいという欲求がカインの中に膨れ上がるのだ。


 だが、ある日、高高度での空中軌道を練習しているとき、操作を誤り盛大なクラッシュを経験してしまった。


 マシンAIのセーフティもあり、体は無傷で済んだものの、カインの心の中には一つのわだかまりが出来てしまった。バスケットボールの時とは比べ物にならない、マシンライドによって何倍にも跳ね上がった激しい落下と転倒。更なる悪路でのエンデューロで事故を起こせば、もし、マシンの不具合によって事故を起こせば…、と不意にもしもを想像すると、カインの体は委縮して強張るようになった。


 それは、カインが空中軌道を行うときに波となって押し寄せてきた。最初は小さな波だった。しかし、時を追うごとに反動が振り子によって増幅されるように、大きくなった波が自分の心をざわつかせる。あの時もそうだった。ユアンにけがを負わせたあの日。高高度の空中軌道の練習を何とか終えたものの、カインの体は震え、精神は高ぶったまま、緊張をほぐすことが出来なかった。


 落ち着け!落ち着け!と念じながら、カインは思わず初歩的な操作ミスを行ってしまう。

 結果、急なアクセルによってライドマシンが暴れてしまい、ユアンは傷を負うこととなった。


「気にするなよ!カイン!ビーストライドはアクシデントがつきものだ」


 そう言って、ユアンはカインを攻めることはしなかった。

 もし、この試合、ユアンが出ていれば、もっと結果は違っていたろうか…。あの時のカインの言葉にできるだけこたえて、この試合は結果を残したい。そう思う自分の気持ちは本心からだとカインは考えていた。激しい動機と息切れを抑えつつ、モニタに目をやる。変化する推奨ルートは次のトライアルでこのエリアを脱出できるのは良くて3~2人と告げていた。バックアップに回ってエリアに残存する機体は、ロスタイムを余儀なくされてしまう。


「ウルフブルーが、先行するマシンの選出を求めています」

オセロットAIの声に顔を上げるカイン。

「エステートの先行はエンディで、僕はバックアップに回る。エンディにも伝えて」

「了解」

 カインは一息つく。


 ユアンが怪我をしたあのあと、暴れたオセロットマシンは、プログラムの診断とマシンの点検のためメーカーに引き取られていった。


 何故、あの時、マシンは暴走したのか?


 自分の操作ミス。それはカインもそう思っているのだが、ピットインガレージ内で、完全セーフティで納車を進めていた時に、単純な操作ミスでマシンがあんな暴れ方をするなんておかしい、というのが、ユアンやレイチェル先生の主張だった。しかし、オセロットシリーズのAIはネットのクラウド上でバックアップされ、各マシンに振り分けられたそれぞれのAIは、もともとはネットワークでつながった一つのオセロットAIである。そのAIのミスなら、このマシンだって例外じゃないんじゃないか?そんなカインの心配に、レイチェルは、

「ガレージでのシャットダウン前までは、各ローカルに振り分けられたAIはあくまで個別のAIだから、マシン環境含めて総合的に点検しないとね…」

 と答えた。


 技術的なことはカインにはわからないことのほうが多い。だから今は、このマシンを信用するしかない。セーフティを上げて、サポートを最大限今は受けてなお、大きな不安を感じるカイン。じっと考え込むカインの目の前の視界が次第に晴れていくと、思わず、はっと目を上げた。今はレースに集中しなければ、と考えなおし再び推奨ルートのデータに目を走らせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ