02_05_09
エステートブースのモニターに緊張が走る。
きりもみ落ちていくオセロットシルバーが映し出されているモニタに、ユアンが思わず身を乗り出した。
その様子を見ていた観光客からどよめきと悲嘆の声があがる。
そのまま地面に向かってたたきつけられようとした瞬間。頭上を越えて大きく跳ね上がった黒い影がオセロットシルバーの手を取った。
ビフのウルフブラックだ。
あっと思う間に、二つのマシンが空中で上下に入れ替わると、ウルフブラックに足をかけたオセロットシルバーが蹴り上げられるように上空へと舞い上がった。
おお!と驚く観客たち。
間欠泉を越えて空中で反転する銀色の機影がヒューマノイド形態にチェンジし、地面に着地すると、後方に向かって赤茶けた岩盤を滑っていく。すると、両脇に広がる水しぶきを横切るようにピンク色の狼が駆け抜けていった。
ハンドルを握るカルラの視線を捕らえるティナ。ふっと目配せするかのようにティナに視線を送ると、ウルフピンクのモニターに警告表示が灯り、その脇を一斉に立ち上がっていく水飛沫が、ピンク色のその姿を覆い隠していった。
リタイアか?と観客から残念そうな歓声が漏れた。
ティナは自身のマシンをビーストモードにチェンジさせると、ウルフピンクが描いた軌道を回り込むように駆け抜けていく。大きく立ち上がる水しぶきの向こうに目を凝らすティナ。
いた!
ピンクの狼は、まだ、白いカーテンの向こうで一直線に走っている。観客から、驚きの声援で迎えられたカルラは、そのまま加速して前方の連続する間欠泉の先にある、大きな白い枯れ木に向かって走っていくと、ヒューマノイドモードにチェンジして木のてっぺんに降り立った。そして、体の方向をティナのほうに向けた。
オセロットシルバーのモニタに警告表示が点灯する。前方のルートに無数の間欠泉が出現し、その穴からごぼごぼと水蒸気と泡が噴き出し始めた。次の瞬間、オセロットシルバーがカルラのオセロットピンクに向かってアンカーワイヤーを射出した。
木上のウルフピンクがそれを受け取ると、腕に巻き付けスタンスを直し、ワイヤーを持って支えるように構えた。
舞い上がる飛沫とともに、アンカーワイヤーに引っ張られ空中に横殴りに飛び出していくオセロットシルバー、ティナが岩場を横断するかのように飛び上がっていく。ジャンプの高度が頂点に差し掛かった時、カルラはオセロットシルバーのワイヤーをほどくと、ティナは、自身のワイヤーを回収して、さらに前方の岩場へと向かって行った。そして、その岩場の中腹にマシンで陣取ると。後ろを振り返ってカルラとビフのほうに向いた。
ティナのマシンを救う形で、後方に退いていたビフのマシンが、うなりを上げて後輪の回転数を上げると、バイクモードで一気に前に飛び出した。そのまま、ティナが走るルートをたどるようにウルフピンクに向かって旋回していくと、ビーストモードにチェンジして、自身のアンカーワイヤーをウルフピンクに向かって撃ちだした。瞬間ビフのモニタに警告表示が点滅する。ビフはカルラがワイヤーを受け取ったことを確認すると、ヒューマノイドモードにチェンジして、ウィンチを巻き上げながら大きくジャンプした。
間欠泉の飛沫を抜いて、岩場を横断していくウルフブラック。その空中軌道はティナのオセロットシルバーが辿ったそれと同じだ。ウルフブラックが、ジャンプの頂点に達すると、ウルフピンクはアンカーワイヤーを離してブラックに戻す。その後、地面に着地したウルフブラックは、ビーストモードにチェンジして、S字に迂回して駆け抜けていくと、アンカーワイヤーを、オセロットシルバーに向かって射出した。
ワイヤーを受け取ったオセロットシルバーが固定して支え、身構えるように腰を落とした。バイクモードにチェンジしたウルフブラックは、ほぼ垂直に切り立った斜面に向かって加速していくと、ワイヤーの遠心力と自らの加速で支えられるように、切り立った断崖をバイクモードのまま走り抜けていく。そして、その斜面の終わりで前方に向かって大きくスキージャンプしたかと思うと、空中で回転して、向かいの岩場に向かってダイブ、ドリフトして、その高台に降り立った。
その瞬間、平地の間欠泉が一斉に噴き出した。
白いカーテンが彼らの姿を隠していくと、おおー!っと観光客たちのあいだに驚きの歓声が上がった。
「すごい!」
モニタを見つめレイチェルは、思わずつぶやく。
「本当に…とっさにあの連携で平地の間欠泉から退避するなんて…」
ユアンも驚きを隠せない。
「三人とも、なんてテクニック…」
三人のいるエリアマップモニターは警告表示で一杯になっている。もし平地を入っていれば、どこかの間欠泉に巻き込まれリタイヤしていただろう。
眼下を埋め尽くす間欠泉の飛沫を見下ろし、ビフは一息つくと、向かいの高台に立つティナのオセロットシルバーを見つめた。
首位で先行して入った間欠泉だらけのこのゾーンで、リタイアの危機に陥った敵機を救わせる。それによって、この俺にポイント加算させる。その流れからの連携に結び付ける、二人のそのテクニックは自分が見込んでいた通りだ素晴らしいものた。
その調子で、最後のカイザーファウンテンエリアのクリアも頼むぜ…ティナ…。
目の前の水飛沫が、盛大な水蒸気を上げながら徐々に弱まって行く。
一旦収まったところから、第二ファウンテンエリアの後半戦が始まる。ビフ、ティナとカルラはお互いの機体を見やりつつ、次のスタートに備えた。
カインとエンディは平地を埋め尽くす間欠泉に阻まれ、動けずにいた。
巨大な虹色の熱水泉、グランドプラグマティックスプリングを越えたあたりから、間欠泉の数がどんどん増えていく。上に噴き出す水しぶきが、仕掛け花火のようなカーテンとなって、エンディとカインに立ちふさがっていた。先行するユニバースの機影も、今は間欠泉と湯気に阻まれて見えない。目の前にまで迫って来たっていうのに…。
「こんなの!こえられるのかよ!」
ルートを探索すため、モニタを見つめるカイン。エンディは確かに下段の平地のルートを進んでいた。
「でも、ティナのペースは上がっているよ」
カインの言葉に、エンディが困惑した。
「どういうこと?」
「わからないけど…、単騎での走破じゃない…、これは…」
カインとエンディがイミングを計って間欠泉を飛び越えるも、予測飛距離とルートの乖離が大きくなり、すぐに目の前に控える間欠泉のトラップに引っかかってしまう。
「ちっ!さっきまで調子よかったのに!」
エンディが地団駄を踏んで、その場に止まった。
「まずいわね!」
レイチェルが、走行記録を確認しながらつぶやいた。
「どういうことです」
「ティナの走行データが、ルート基準にできないってことよ!」
ユアンがㇵっとなって答える。
「そうか!三機編成でルートトライアルしているから!」
ユアンのセリフを反芻しながら、テムジはモニタ上のティナを見つめた。
ティナの走破は今ユニバースとの連携で生まれている。二機編成のカインとエンディにフィードバックすると、走破可能と推測されるルートとの誤差が生じ、推奨ルートからずれてしまう。さらに言えば、カインとエンディは、ビーストライドのカップリングテクニックもあまり駆使できているわけではない。基本は、ティナの単機走破だった第一ファウンテンエリアは、フィードバックされたデータをもとに追跡することで、走破の再現ができていたのだが、今は違う。
答えを聞かせてもらうぜ…
テムジの頭に、ビフの言葉が蘇る。愕然とした表情を浮かべ、モニタ上の三機の姿を見つめるテムジ。
ティナ、まさか君は…




