02_05_07
モニター越しにその様子を観察していたライアンコーチはポカンと開けた口を閉じると、つかんでいたマグカップをゆっくり机に置いた。そして、口の端をゆがめて吹き出すようにふふっと笑った。
一方エステートのブース。
「おおお!」
「すごい!マガネ!」
「いやいや!でもこれって!」
カイザーファウンテンエリアの一帯を一気に超えていったマガネの姿は、モニタ映像越しには、無茶そのものに見えた。まるでドタバタ映画のコメディーアクションのようだ。
「いきあたりばったりって感じね~」
「さすがアメフトライダー…」
呆れたように言うユアンに、レイチェルが笑って、気持ちを入れ替えるように言った。
「飛び入り参加の初心者だから仕方ないじゃない!運も実力のように内よ!」
レイチェルの無責任な言葉にさらにあきれたようにユアンが、
「んな無茶な…」
とつぶやくと、
「今は良いのよ!これで」
そう…今は…、
レイチェルは心の中で反芻しつつ、ライダー達の走破データを集約していた。
そんな様子を見ながらテムジは、あれだけ飛ばしてるってことは、マガネがこのレースにのめりこんでいるってことだ、と一人納得していた。
無謀な走りでラップを縮めるか、慎重な走りで完走を目指すか。たぶん、マガネが選ぶほうは、もう決まっている。失敗してリタイアしても誰も攻めないから…なら、思い切り走ってほしいなと願うテムジであった。
その時、はるか前方を行くティナ達は、次のファウンテンエリアに突入し始めていた。
ティナが、コースエリアの草花や木々を越えて、再び石灰岩のエリアに突入していく。青空の下に地面に這う雲のように、白い水蒸気のもやが濃く重なり、その向こうごつごつとした白と赤茶色が折り重なるような岩石の段差が現れた。
さらにその地平の向こうには巨大なエメラルド色の窪地が見える。淵が虹色の光るその湖はグランドプラグマティックスプリングだ。
三機のビーストマシンがファウンテンエリアに足を踏み入れた瞬間、まるで、彼らを歓迎するかのように、間欠泉から大きな水しぶきが吹き上がった。
ティナの目の前に警告が続々と表示されれていく。肩越しに、後方にいるウルフブラックとピンクを確認する。両機はアタックする気配はなさそうだと判断すると、ティナは、バイクモードからビーストモードにチェンジして加速、警告表示が多く点在するグランドプラグマティックスプリングを左へ逸れて、中央ルートへ大きくハンドルを切っていった。
それを見たビフも後に続く。
「勝負をかけに来た?」
と、ティナのルートを追うように左へバンクしていく。ビフの目には、彼女の走りは安定していて堅実そのものに見えていた。
昔の走りもああだったっけ。
ふと、幼いころの思い出が頭をよぎる。ビフとマガネはポケットライドのレースで競り合ってばかりだった。あの頃は、自分の体も太っていて、あのスクラップ野郎とのビーストライドでは、相当低レベルな争いを繰り返していた…と、懐かしさすら覚えた。
しかし、ティナ、お前はそんな俺たちよりもさらに群を抜いたテクニックでトップを走ってたっけ。俺もスクラップ野郎も、目じゃねえくらい。
そんな彼女が、今も変わらず、高度なテクニックを保って目の前を走っていることをビフは、喜びをもって見つめていた。そして、このエリアでの走りが、俺たちの今後を左右する決定的な瞬間になる。
それはもう目の前だ…。
ビフはマシンをビーストモードにチェンジさせると、ティナと距離を取る形でグランドプラグマティックスプリングを迂回していく。カルラのウルフピンクもその後に続いた。
ビーストモードで駆け抜ける三機は、吹き上がる間欠泉の水飛沫をよけ、大きく蛇行しながらエリアの走破に向かって行った。




