02_05_06
勢い突っ込んでいったマガネは、急制動でマシンを押さえつけた。高さが10mはあろうかという巨大な熱水泉が壁となって、マガネの前に立ちふさがっている。
「すっげー、さすがにこれは飛び越えられないや」
ゆっくり収まっていく間欠泉。低くなったところを飛び越えると、棚田のような段差から、細いあぜ道のような岩場の上を走っていった。推奨ルート上には、無数の警告表示が瞬いている。いつ、熱水泉を噴き出すかわからない間欠泉は、まるで敷き詰められた地雷のようだ。
「みんなよくこんなところ通っていったなあ!」
と半ば感心しながら慎重にオセロットグリーンを進ませいくと、目の前の水蒸気が濃くなって、マガネの視界を奪っていった。さっと白い靄が通り過ぎると、その先の岩場の先に待ち受けていた間欠泉が、ブクブクとあぶくと煙が噴き出していく。危険を感じたマガネは一瞬手綱を引くように、オセロットグリーンを制動させると、横付けにマシンを減速した。
その瞬間、ルートを覆い隠すように勢いよく水しぶきが舞い上がった。
間欠泉から距離を取ろうとしたとき、マガネの後方からも警告が鳴った。
やばい!
マガネは迂回路を回って、距離を取ろうとするも、あちこちから警告が鳴り響いていく。どこに行けばいいのか、と混乱し躊躇した瞬間、後方から熱水泉の飛沫が噴き出しマガネを襲った。
「うわあ!」
叫び、大きく横っ飛びにそれをよけるマガネ。転がりながら体制を立て直すと、落ちくぼんだ茶色の細い岩場のあぜにはまった。そのまま前方に向かって飛び出そうとするも高い岸壁に囲まれ前方が見えない。焦るマガネに新たな警告音が響く。モニターのナビは、間欠泉の警告表示で一杯出し。まるで見えない敵にそこら中取り囲まれているようだ。
「とにかく、走破ルートが見える場所までたどり着かないと!」
走るマガネの前方から、道を遮るように水しぶきが沸き上がった。マガネはとっさに側面の岩場に蹴り上げ、大きくルートを迂回していく。そして、マガネが高く飛翔すると、その視界一杯にカイザーファウンテンエリアが広がった。
荒野のように広がる石灰岩の岩場に、沸き上がる水蒸気。ところどころに立つ枯れはてた白い木が骨のように立っている。
これがカイザーファウンテンエリア。俺が走るフィールド。ふと目を奪われるマガネにとって、そこはまるで別世界のようだ。しかし、警告表示は今もモニターを埋め尽くし、沸き上がる白い蒸気が広く漂い、遮っていく。まるで自分のルートを遮るゴーストのようにマガネには見えた。
なんか、この風景見たことがある…
大きくバウンドするオセロットグリーンが、ビーストモードからバイクモードに変形した
そうだ、この風景!
新たに警告表示。前方の間欠泉から白い蒸気が噴き出し始め、そこここから激しく泡立つ地下源泉が、マガネを待ち構えるようにその勢いをためていた。モニタ上に、前方を遮る警告表示がずらっと現れる。まるで、でフォーメーションを組んでマガネを待ち受ける相手選手のように。
そう思った瞬間。マガネの頭の靄が晴れるかのように目の前が鮮やかに冴えていった。
アラートが鳴った瞬間、立ちはだかる水しぶきがマガネを襲う。その大きなシルエットは、小柄なマガネを襲う巨漢のセンターバックのようだ。
「おおおお!」
襲い来る白い幻影のような熱水泉をバンクして越えていくマガネ。
さらに新たな警告音。
同時にオセロットグリーンをビーストモードに変形させて、横へ飛び越していく、目の前のエリアの段差が広がり、左右のエリアがコバルトブルーの湖に遮られた。細いルートに追い込まれたマガネの前方に複数の警告表示が出現する。顔を上げるとブクブクと熱源の水蒸気が立ち上がっていくのが見えた。目の前に立ち上がる白い靄が、マガネをとどめようと、ラインを組んで立ちはだかっている。そして、それと同時にマガネの目の前に相手選手を出し抜くための道筋が浮かび上がった。
ルートが見えた!
マガネは、バイクモードに変形すると最大加速で前方に突っ込んでいった。それを追うように、襲い掛かる水しぶきがマガネの周囲を取り囲んで行った。熱水泉にあおられ左右に大きく振られるマガネ。横殴りのGに耐え、水しぶきの嵐を抜けていくが、前方にさらに大きな警告音が鳴り響いた。体がGに触れて傾いていく。
「うひょおおおおお」
マガネはとっさにヒューマノイドモードに変形すると、右手でワイヤーを撃ちだす。そんなマガネを覆い隠すかのような大きな水柱が立ち上がって、その姿を隠していった。ルート一帯が間欠泉の飛沫と水蒸気で覆い隠されていく。
そんな中、オセロットグリーンの姿は、蒼穹の空に浮かんでいた。打ち出したワイヤーを枯れ木に括り付け、大きく右に飛び上がっていったグリーンの機体がくるりと回転して、虹色の湖畔のほとりのぎりぎりに着地する。その瞬間、ワイヤーを支えていた白い古木がバキンと折れた。
「うおおおおっととと!」
バランスを崩しあわやエメラルドの湖に落ちそうになるマガネはオセロットグリーンをバイクモードに変形させると、アクセルを全開にして後輪を急加速し、湖の淵に沿って一気に加速していった。そしてその先の段差に乗り上げて陸上の岩場に乗り上げると、エリアの脇を抜けて間欠泉の少ない草地のエリアにルートを取った。
「はあ!はあ!はあ!」
一瞬の出来事に、息をつくマガネ。
抜けた!
そう実家下マガネは、ファウンテンエリアをつなぐ比較的安全な草地地帯へ向かって行った。木陰に身を隠していくオセロットグリーンが慣性に推されて流されていくと、トレッキングロードの観客たちが驚いたように歓声を上げた。その声を聴いたマガネの、激しい息使いが笑いに代わっていき、腕を上げてガッツポーズをとった。
「どうだ!ぬけたー!ぬけたぞー!」
そんなマガネに、オセロットグリーンが、ティナとのルートとの比較図を示した。
「無謀な運転は事故のもとです。次は慎重なルート踏破を推奨します」
冷ややかなオセロットグリーンの返答に、思わずマガネがむっとなり、
「でも、越えられたじゃん!ラップ的にはどうなのよ!」
「走破ルートは当初予定から、未だ20%ほど乖離があります。予定を見極めてのルート踏破を推奨します」
冷たく言い放つオセロットAIにむむーっとした表情を浮かべるマガネが、フンと鼻を鳴らして言った。
「ラップ差は縮んだんだな!」
するとオセロットAIは
「いつでもビギナーズというわけにはいきませんよ。マガネ」
オセロットAIはほんとに素直じゃないな。と、顔をしかめるマガネは、ちょっと、もやもやした気持ちを抱きつつ、口をとがらせた。
「わかったよ!オセロット!推奨ルートのナビ頼む」
「承知しました!」
オセロットグリーンがモニターに推奨ルートを表示した。それは、トップ集団、ティナにつながるファウンテンエリアルートにつながる中央ルートだった。




