02_04_05
トップの機体が、針葉樹林帯を抜けた。瞬間、ポイントゲットのコールと共に、ビフのウルフブラックが空中に舞い上がった。
トレッキングエリアの観光客が手を上げ歓声を送る中、ガッツポーズをして、宙返りをして見せるビフ。そして、後続にチェックポイントを続々と抜けていくビーストマシン。トップはウルフブラックのビフ、二番手にオセロットシルバー、ティナ、三番手にウルフピンク、カルラが続いた。
背の高い樹林の密度が薄くなり、広大な草原と川面が続く下りの傾斜へと景色が変わっていく。三人はバイクモードに変形をすると、草原を川べりに従って下っていった。その最中、ずっと後方に付けていたカルラが、ティナを追い抜くと、ビフと並走して、ティナを先導し始めた。なだらかな傾斜を走り抜ける三台だったが、ビフとカルラは、ティナの行方を阻むようにややスピードを落とすような動きに転じていた。
ティナも、無理に仕掛けるそぶりは見せず、二台のペースに合わせるようにマシンの速度を調整した。
「予定通り、チェックポイントを通過したな」
針葉樹林帯エリアを抜いてきたウルフブルーとブラウンのマシンが、観光客の声援を浴びながら、トレッキングスポットをビーストモードで飛び超えた。クランとベルはバイクモードに変形して、草原の傾斜をドリフトして体制を整える。
「さて!これから追いつくぜ!」
クランがベルに合図をすると、一気に首位グループまでの距離を詰めるため、アクセルを全開にして加速していった。
徐々にペースを落とすビフとカルラ、前方左右に阻まれたティナは、後方から迫ってくる、ウルフブルーのクランとブラウンのベルを背中に感じながら、スピードをあわせていく。周りを伺い、自身のポジションを確認するティナ。ルート攻略のナビを見つめ、脇にそれるようなそぶりを見せるも、ビフとカルラがその進行方向にマシンを移動し、ティナの進行を阻んでしまう。加速して抜くことができないティナは、徐々に距離を詰められ、前後左右をユニバースに阻まれ自身のマシンが囲まれる形となった。
左前方はウルフブラック、ビフ。右前方はウルフピンク、カルラ。
左後方をウルフブラウン、ベル。右後方をウルフブルー、クラン。
その真ん中で、まるで護衛されるように走るオセロットシルバーのティナ。 このままユニバースに囲まれていると、不利なルートへ誘導され、最悪クラッシュ、リタイアエリアに追い込まれてしまうかもしれない。
「さて、エステートのエース。どうする?離脱して後方に逃れるか、仕掛けてトップでペースメーカーになるか?」
クランが現ルートを確認しながら、今までの観測データからティナが選ぶ予測ルートをはじき出す。事前の打ち合わせで、カルラとベルは「ティナは後方へ順位を落として、無難なルートとペースへシフトチェンジする」パターンにチップを賭けてきた。ビフは、「勝ち気なティナのことだ、俺たちの出方を伺って、ぎりぎりまでチキンレースをするだろうぜ」と笑って言った。
しかし、クランは別の可能性を考えていた。
クランがモニタをチェックしながら、ティナの後ろ姿に視線を移す。丘陵地帯ながらややなだらかな草原がメインのエリアだが、たまに走行困難な不整地が現れる。
「誰の予想が当たるか、見せてくれよ!」
ティナの包囲網を維持しながら、方向転換を図るユニバースのウルフマシン。ティナもそれに無理に反抗することなく、ペースを合わせて移動していく。まるでマスゲームのように、右に左に蛇行する首位グループ。不整地エリアに入った瞬間、全員のマシンがビーストモードに変形して、窪地を大きくジャンプして乗り越えていった。ユニバースの動きに難なくついてくるティナのシルバーオセロットは、四方を囲まれたまま互いの距離詰めることもなく正確に中間地点を維持してきた。
ここまでは、ビフが言った通りだ。ペースメーカーのユニバースに対して、動じることなく走りを追跡しているティナ。クランも後方から、その高いジャンプを目の当たりにして思わず感心してしまう。そこにベルが、
「ビフ!後ろ!」
とクランに向かって叫んだ。チェックポイント通過の通知が同時に輝く。
オセロットイエローのエンディとパールのカインが、トレッキングスポットを飛び越えてきた。大きくジャンプした両機は、彼ら同様斜面に着地をして機体をドリフトさせると、バイクモードに変形をして、一気に加速した。
「にゃろー!見えてきたぜ!」とエンディがアクセルをふかすと、合わせてカインもその後を追った。
「追いついてきやがった」
自身の計算よりラップ差を詰めていることに驚くクラン。まさか、その他のエステートのメンバーが、このラップ差で食らいついてくるとは予想していなかった。不敵な顔で後ろを伺うビフ。カルラも、歩調を合わせて、ティナ、ベル、クランも包囲網を狭めながら走り続けていた。
その瞬間、ティナのマシンが横道にそれてユニバースの陣形から脱出を試みた。
「くっ!」
とっさに進路を阻むために追いかけるビフとベル。ティナはブレーキをかけてスピードを一気に下げると、陣形の中央から後方へ逃れようとした。
「させるか!」ベルがその後方からガードに入る。
一瞬ティナのマシンがスラロームしたかと思うと、盛大に土煙を上げて、ビーストモードに変形した。
「なっ!」
一瞬視界を奪われたベルも、ビーストモードに変形した。しかし、ウルフブラウンの目の前に、ぽっかりとあいた窪地が現れ、足を取られ、滑り落ちていく。
土煙を巻き上げて転がるウルフブラウン。ビーストモードに変形して体制を立て直す。
「ベル!」
ビフが叫ぶと、煙の中からオセロットシルバーが飛び出し、切り立った窪地を急角度に滑り落ちて、一気にルートの迂回に入っていった。
「ちいっ!」
一瞬の出来事でルートを妨害することもできないビフとカルラのマシン。
「大丈夫か!ベル!」
呼び掛けるクランに応え、立ち上がり再び駆け出すウルフブラウン。
「つっー…、大丈夫。マシンも体も平気だよ」
それぞれルートが散ってしまい陣形が広がったその先を、大きく迂回したオセロットシルバーが加速して、元のルートへショートカットして戻ってきた。
「くそっ!首位を取られる!」
カルラとビフが急ぎ追いかける。合流しようと走るベルのもとにクランが近づき「やられたな」と声をかけた。
「ごめん!あたしがトチったばかりに…」
ベルは悔しそうに「仕掛けると見せかけて、ルートの罠に誘い込まれちまった…。あんたの言った通りになったよ!くそっ!」
そう、クランは打ち合わせで言っていた。
「ティナがしかけるなら、ルートの不整地で罠を張る可能性が高い」
ルート情報をリンクで共有している状態で、それは、難しいのじゃないか?とカルラもベルもいぶかしんだが、ビフは「まあ…注意するに越したことは無いな…」と慎重な姿勢を見せていた。
クランは「賭けは俺の勝ちだな」そうベルに言うと、先導するようにピッチを上げた。
「…これもデータ収集のたまものってことね…肝に銘じるよ」と悔しそうに舌打ちをするベルは、一瞬の油断でここまでペースを落とされたことに悔しさを感じていた。
いや、あのオセロットシルバーの腕が良いってことだ…。
クランは、腕のいいライダーならそうすると思っていただけだが、今はその言葉を飲み込んでいた。気を持ち直してペースを上げるクランとベル。前方に走るビフとカルラのルートとティナのルートを見定めながらクランの後方で、これからティナに挟撃かけるかのように走っていった。
ティナ、ビフ、カルラ、クラン、ベル、そしてその後ろから猛追をかけるエンディとカイン。彼らは、次の難関、カイザーファウンテンエリアの目の前に迫ってきていた。
そんな折、最後の一機、しんがりを務めていたマガネが、トレッキングエリアのチェックポイントを通過して沿道の観光客から声援を受けていた。
やっと、針葉樹林帯を抜けた。
舞い上がったオセロットグリーンをバイクモードに変形させると、後輪の回転を上げて、一気に加速する。
「オセロット!最短ルートで!」
「承知いたしました。ナビゲートに注意してください」
目の前に広がる草原、下り斜面のでこぼこした山の先を見つめるマガネ。最高のスピードエリアに移るそのコースに、気持ちの高揚が収まらない。
「OK!いくぜ!」
オセロットグリーンに答えて、アクセルを全開に吹かすと、ゲレンデのような草地を飛ぶように下っていった。




