02_03_06
「だめだ!ここから動くことができない」
カインが足元を除くと、ぽっかりと広がった崖の下がぐらりと傾いた。
上を見上げたエンディがチッ!と舌をならした。脇にぶら下がったマガネのオセロットグリーンは、空中にぶら下がった体を持ち上げ、岩の張り出しに足をのせると姿勢を変えた。
「エンディ!マガネ!ごめん…二人は先に行って」
ウルフブルーのクランが下をのぞき込むと、三機ともその場で待機をしているかのように動かない。
「なんか、トラブルっぽいね。クラン」
「ああ、くちほどでもねえ」
エンディが自身のオセロットに向かって呼びかける、
「オセロット、ルート探索!オセロットグリーンとイエローで最短で行ける推奨ルート…」
モニター上にルートがいくつか提示される。
「確実な走破を目指すのであれば、もう一度左側の崖のルートに戻って、単機ルートを中心に攻略することをお勧めします」
足止めかよ…と、顔をゆがめるエンディ。マガネが顔を上げて、頭上のカインに向かって呼びかけた。
「カイン!大丈夫か?」
「崖が高すぎて…体が…」
「体を崖側に向けて!下を見るな!」
マガネの言葉を聞いたカインは、目を固くつぶると。思い切ってくるりと回転した。壁側の張り出しにその体をぴったりつけてしがみつくと、激しく息をついた。
その様子を見たマガネが
「いいぞ、カイン、落ち着いて…」
しっかり目をつぶってはあはあと激しい息を整えるカイン。
「降りることはできそうか?」
「…今は、ちょっと無理」
エンディがため息気味に、「マガネ、カインはあきらめよう…無理にうごかしても事故のもとになるだけだ…」というと続けて、オセロットパールが「バイタル状況が落ち着いてきました。カイン、いかがいたします。棄権しますか?」とカインに尋ねた。
落ち着きを取り戻そうと、自分の呼吸に集中するカイン。崖のほうを向いて下を見ていない間は何とかなりそうだ。しかし、高さを目の前にすると動機が跳ね上がる今の自分にとって、あらゆる向きに向かって、仲間と連携してクライムヒルを続けるのは難しい。
このまま棄権はしたくないけど…
魂胆する頭の中で逡巡するカイン。オセロットのナビに従って。周りの風景を水にただ上るだけなら。
「どうする?カイン?」マガネがカインに向かって問いかけると、ややあって力弱く「壁のほうを向いて動くだけなら…」とカインは答えた。
失望を隠せないエンディ「そうか!わかった!もう無理はすんな…、だめだと思ったら棄権しろ。マガネ!ルートのデータをリンクして。下に降りよう…」
じっと頭上のカインのマシンを見つめるマガネ。
「前を向いてりゃ大丈夫なんだな?」
「うん、今は、周りを見なければ」
「わかった、その場所にしっかりしがみついて動かないでいてくれるか?」
「え?」
マガネはオセロットグリーンの体をかがめて反動をつけると、崖の上のオセロットパールに向かって垂直の崖を登って行った。
「マガネ!」
「しっかり、しがみついていろ!」
マガネの機体が大きく跳ね上がると、崖にしがみついたオセロットパールの背中に足をかけて、思い切り上方へ向かってジャンプした。
「うわああ!」
オセロットパールの頭上でワイヤーを打ち出して岩の突端に絡みつけると、マガネのオセロットグリーンは岩肌にとりついた。
目をつむってぎゅっと固まっているカイン。
「カイン!カイン!」
マガネの声に気が付いて、上を向くカイン。見ると、マガネのオセロットグリーンがさかさまになって上からぶら下がっている。そのコクピットシートからマガネがカインを見下ろしていた。
「わりい!大丈夫か?」
「マガネ」
「要は、崖から外側を見なければ大丈夫なんだろ?だったら、カインは上だけ見て基本のボルダリングルートで進めばいいんじゃないか?オセロット!」
「はい?」
マガネの呼びかけにオセロットグリーンが応える。
「今の条件含めていけそうなルートを選べるか?」
モニター上にいくつか推奨ルートが表示される。
「タイミングはオセロットに沿って、俺たちを踏み台にできる場面でショートカットを目指せるか?」
カインは見上げてさかさまにこっちを見るマガネを見上げた。マガネの後ろには地平線のようにロウワー滝の頂上が見える。白く上がった靄の中から水滴が落ちてくると、はあはあと上がる息を抑えるようにつばを飲み込みカインが応えた。
「下を…見なければ…」
「よし、タイミングをナビに合わせて!エンディ!」
「聞こえていたよ!ルート変更、データリンクを確認してくれ」
下から答えたエンディに向かってマガネが、「大丈夫だ!こっから36Zの張り出しまで向かう、確認できたら、次はエンディの番だ!」というと、エンディがサムズアップを突き出して「OK」と答えた。
ウルフブルーとブラウンが交互に橋渡しをしながら、登頂を目指していると、ロウワー滝の展望エリアから、おおおーと歓声が沸き上がった。
クランとビルが下を見ると、エステートの三機が交互に僚機の位置を上に押し上げながら、どんどん上に上がってくる。オセロットのイエローとグリーンと左右にワイヤーをめぐらしつつ交互にルートを確保すると、岩の突起とワイヤーの足場を使って、まっすぐにオセロッパールが頂上めがけて一気に這い上がって行く。
そして次にオセロットパールを足場にして、グリーンとイエローが挟む形で登頂ルートを確保していった。
「よし!いいぞ!カイン、次、45dだ!」
カインが張り出しを登っていくと、モニター上でマーキングされた突端にとりついた。そのパールを足掛かりに、オセロットグリーンとイエローが次々上に登っていくと、次に僚機がワイヤーを張り巡らせ、ワイヤーを足場にパールが登っていく。
「データリンクだ!」
足場とルートを作ってやがる。しかも、ここにきてイエローとグリーンの動きがよくなっているようにも思える。
「おお!ペースが上がってきているな…」
「クラン!」
のんきな声を上げるクランに、思わずベルが声を荒げてしまう。
「気にするな、ベル、俺たちは予定通りのコースをこなしていきゃいい」
もう、ロウワー滝の頂上は目の前だ。と見上げるクラン。
「さっさと登って、ビフたちに追いつこう」
と言うや、クランが背中越しに崖の張り出しに身を寄せると、下からジャンプアップしてきたベルのウルフブラウンの足を支えて、さらに大きく上にはね上げた。
「おおおおー!」
ウルフブラウン、ベルが頂上に到達すると、ギャラリーから歓声と拍手が聞こえて来た。
跳躍したウルフブラウンが体をひねって下を向くと、ウルフブルー、クランが空中のパールに向かってワイヤーを打ち出す。ウルフブラウン、ベルがワイヤーを受け取って着地すると、ワイヤーを近くの大木に括り付けた。
「クラン!」
崖の上からクランのウルフブルーに合図をすると、ウィンチでワイヤーを巻き上げるウルフパールが垂直に一気に上に上がっていく。途中でバイクモードに変形すると、車輪の回転を上げて崖を走り抜けるように登っていくと、そのまま垂直に上空に向かって飛び上がり、頂上に達した。
まるでバイクが崖を駆け抜けていくかのような姿にギャラリーの歓声が沸き上がる。
オセロットパール、カインが、ワイヤーをほどくと、ワイヤーを回収し、エンディとマガネの二人は、グラウンドキャニオンの渓流を上流に向かって加速して行った。
歓声が聞こえる中、上を見上げるマガネ達。頂上でユニバースのマシンが消えていったのを確認すると、
「くそ!」
と思わず悪態をついた。
「ペースを乱すな!先をいそぐよ!」
マガネは先に行ったティナを思った。あの時、了解したのかどうなのか?でも何も合図もせずに崖の上に消えていったティナは、何を考えているのか?もくもくと登頂を続けるマガネの脳裏に一抹の不安が頭をよぎる。
ティナは、俺たちは戦力にならないとさっさと見限ったのだろうか?




