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ビーストライダー・マガネ【鋼】  作者: 時波彷徨
2章02~イエローストーン川・ヘイデンバレーエリア~
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 針葉樹の林を抜けると、一面金色の平原が広がった。コースを走り抜けるライダー達を、珍しいものを見るかのように、観光客が、手を振り歓声を上げ、次々後方に流れ去っていく。


 ビフは緩やかな体移動でコース取りを確実に行うと、バンク角を利用して、後ろを伺った。

「よしよし…ちゃんとついてきているな、さすがだぜ、ティナ…で?あのスクラップ野郎は?」

ビフの視界からは影も形も見えない。はるか後方で追いかけてきているんだろうが、

「へっ…話にならねーな…、せめて、ティナ、お前だけは期待に応えろよ!」

と一人ごちると、アクセルをふかして、マシンのスピードをさらに上げた。


 ティナは、そんなビフの後ろに付けて、車間距離を一定に保っている。トルクとパワーに勝るウルフマシンにロードコースで勝負に出るほど無謀ではない。今、ティナはビフを無理に抜くつもりはなかった。


 後方に仲間がいる…。


 ペースメーカーとして先行し過ぎないよう、ビフをけん制しているつもりだったが、その後ろには、ヒステリックなピンク色をしたウルフマシンが、ティナをぴったりマークしてスピードを上げている。


…挟撃されている?


 二台のマシンはティナのオセロットシルバーを捕らえながら囲い込んでいる。今は舗装されたコース内での位置取りだから構わないが、不整地となるとそうはいかない。このままだと、ペースメーカーとしての役割は担えない。ティナは後方を走る仲間たちとのラップ差が広がらないことを祈るしかなかった。


 同じころオセロットイエロー、エンディも前方にウルフブラウン、ベルと後方にウルフブルー、クランに挟撃され、コース取りのペースをユニバースに奪われていた。スピードを落とさないよう、ウルフブラウンに食らいつくように追いかけるエンディだったが、同時にエンディの後方から迫るウルフブル―にもプレッシャーを感じていた。


「やばい、やばい!すげーペース!」

 美しいスラロームのブラウン、ベル。エンディもタイミングをまねるも、自分が考えていた以上のハイペースに心臓の高鳴りが止まらない。本来エンディをカバーしてくれるはずのオセロットパール、カインの機影が後ろに見えない。こんなところでラップ差が広がっていくと、次の不整地でルートの追跡も陣形の確保も難しくなる。

「わーーーカイン!マガネ!たのむから追いついて来て!」

 エンディが祈るように心の中叫びながらコーナーを攻めて行った。


 針葉樹の高い幹が両脇にはけて、緩やかな大草原地帯が広がった。イエローストーン川とライドコースが緩やかに蛇行して、地平の向こうまで伸びている。左手側には火山地帯、マッドボルケーノが噴き出す熱水とともに、上空に白い蒸気が舞い上がり、走るライダーたちの鼻腔を刺激し、独特の硫黄の臭気をもたらした。本来なら、おだやかな秋風に吹かれ、バイソンやエルクと言った動物たちが草をはむ姿をのんびり眺めることができる場所なのに…。


 今、ライドコースをひた走るビーストライダー達は、ハイウエイのスピードでヘイデンバレーを駆け抜けていく。


 カインは、前を走るライドマシンのシルエットを見つめていた。コーナーを曲がる度にそのシルエットが小さくなった。遅れている自分を自覚しているが、コーナースピードの加速に心が怖気づいてしまう。このままだと、先頭のティナとエンディのサポートもできなくなってしまう…


「オ!オセロット!ライドサポートお願い!」

「了解、タイミング測ります!」


 その声を聴いて、カインは深く息を吐いた。モニターにマップが表示され、コーナーポイントが表示される。ナビが示すコースの先は、マッドボルケーノを超えたヘイデンバレーの向こう、イエローストーン国立公園の名前の由来となった、深さが300mを悠に超える巨大な渓谷が立ち並ぶ黄金のグランドキャニオンだ。


 ヘイデンバレー中腹までは、舗装されたロードコースだが、途中から道路わきの分岐点に差し掛かり、そこからはイエローストーン川を越えて、高低差の激しいオフロード地帯をに差し掛かる。カインは、オセロットが示すコーナーポイントに合わせて、バンクを攻めていった。加速していくマシンに体のリズムを合わせて、前方を走るエンディのシルエットが遠くならないように集中した。


「リズムが変わった?」

 マガネはカインのペースに遅れないように、必死でマシンを操舵していた。コース取りのタイミングが変わったことを感じ取ると、そのリズムを盗むようにマシンの操舵のタイミングを変えていく。瞬間、オセロットグリーンのモニタにマップが表示され、前を走るカインのコース取りが表示された。


「カインのライン取りのタイミングデータです。彼はオセロットのタイミングサポートの指示に従っています」


オセロットグリーンの言葉に、ぐっ!とマガネが言葉に詰まる。今の自分の操舵テクニックは練習走行にもかなわない…、と、マガネは心の中に一抹の敗北感を感じるものの、いやいやながら頭を切り替えた。


「わかった!タイミングサポート!セーフティレベルはそのままで」

「了解」

「早く!あいつらに追いつかせてくれ!」


 マップ上に、チームメンバーのライン取りデータが表記されると、その中にマガネの推奨コースデータが前面に浮き上がり、コーナーポイントが表示された。その瞬間、マガネの頭の中から、ふっと力が抜けるような感覚が生まれた。一瞬、不思議な感覚にとらわれるも、すぐに前方のカインに引き離されないよう、ライドに集中する。


 今!自分はビーストライドをしている。


 最後尾で自分のふがいなさと、なんだかわからない高揚感がごっちゃになってマガネを包んでいく。歯を食いしばるマガネが体を傾け、これでもかとコーナーバンクを攻めていった。


 そのはるか先、舗装されたコースエリアの終わりに、一番手で到着したのはウルフブラック、ビフのマシンだった。ラップポイントが加算され、その状況が各マシンに通達される。


「予定通りだ」


 ウルフブラウンのベル、ブルーのクラン、そして、ピンクのカルラの口元に笑みがこぼれる。


残念そうな表情を浮かべて走るエンディ。

次いで、ポイント表示を一瞥しながらティナがエリア通過。


 先頭がすでに第一ポイントを通過したことに驚くカイン、そして、悔しそうに舌打ちをするマガネ。モニタにあらかじめ登録されたコースを確認すると、その表示に従って、ビフは、後輪の回転を上げて大きく前輪を持ち上げた。そして、そのまま上空に舞い上がってビーストモードに変化すると、イエローストーン川の紺碧の川面に着水した。


 次いでオセロットシルバーティナ、そして、ウルフピンクカルラ、ウルフブルークラン、オセロットパールエンディ、ウルフブラウンベルが続いた。次々とビーストモードに変形すると、イエローストーン川の水辺に着水して駆け抜けていく。


 盛大に上がる水しぶきを上げ駆け抜けるライダーたち。

 イエローストーン川の水面の光がキラキラ反射して、空中で白く輝いた。


 オセロットパール、カインも後に続く。舗装された路面が視界から消え去り、草と岩場だらけの川沿いの急流地帯に差し掛かかかると、視界の先の地面を見失った


「ひっ!」と思わず声を漏らすカインのオセロットパールが跳ね上がって、バイクもーどのまま、はるか下方の川べりに向かって降下していく。慌ててビーストモードに変形させて、着地体制を整えるカイン。オセロットパールが岩につまづき、前につんのめりながらイエローストーン川の浅瀬に足をつけると、水しぶきが大きく跳ね上げ、カインのライダースーツを濡らしていく。オセロットパールのバランサーが、バランスを立て直し、イエローストーン川を皆の後に続いて横断していった。


 マガネのオセロットグリーンは最後尾だ。


 オセロットの警告表示、マガネも慌て体制を整えながらビーストモードに変形、体にかかる強烈な衝撃に耐えながら、カインのルートを後追いするかのようにして駆け抜けていった。


 手助けするどころじゃねえ…。


 先頭のティナとエンディだけがユニバースのビーストライドと拮抗しているが、そこから一段下がったカインもマガネも後方に押しやられて、ユニバースとのラップ差もどんどん開いていく。


 いざというときにカバーに入るための陣形さえ組めない、追いかけるのがやっとといった自分の無力さをかみしめながら、川を横断していく。


 一人で勝手に走るのと全然違う。自分のスキルの低さに改めてショックを受けるマガネ。


 わざと負けるもくそも、こんなのそもそも相手になってねえじゃねーか!


 ギリッと歯を食いしばると、前方のカインに後れを取らないように、激しい水しぶきをかぶりながら、イエローストーン川の水面を突っ切っていった。


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