02_02_04
河を渡り切ったライダーたちが、土と泥と石灰岩が混じる不整地の丘を走り抜けていく。
この場所は地面の高低差が激しくバイクモードだけでは走り切れない、時にビーストモードに変形をして、スピードを維持し、この先に待つ、イエローストーン、グラウンドキャニオンを目指す。
ビーストライドでは、各エリアごとに走破ポイントが設定され、そのレースの順位によって点数が加算される。最終的なビーストライドポイント総合得点で、個人、団体、それぞれの順位が決まる。
先頭は変わらずウルフブラックのビフ。その斜め後方にオセロットシルバー、ティナ。そして、右斜め対角線後方を正確に位置取りしながら、ウルフピンクのカルラが続く。
ティナはウルフブラックのコース取りを観察しつつ、自分も一定のペースを保ちながら、予測進路のルート取りを行っていた。
先頭集団からやや遅れて、オセロットイエローのエンディがいた。彼女もウルフブブラウン、ベルとウルフブルー、クランに左対角線で囲われながら走っていた。
エンディは、わざと高低差の激しい丘陵地帯をルートに選び、スピードダウン気味にジグザグなライン取りを行った。前後のマシンは、一定の間隔を保ちながら、陣形を崩さずエンディについていく。明らかにエンディのマシンのペースに合わせて、隊列を作っていた。
どうやら、スピードを上げてトップのマシンに合流するつもりはないようだ、と、エンディはちらりと後方を見る。
カインとマガネはずいぶん後方に位置しているようだが、幸い、視界に入らないほどには距離差は離れていない。
この先に待っているイエローストーン、グラウンドキャニオンは岩石がむき出しいなった渓谷地帯だ。なるべくなら、もしもの時のためにサポートしあえる距離感で攻略を進めたい。
エンディはそんなことを考えつつも、前後のユニバースに気取られないようにスピードを調整し始めた。
この地帯は、不整地だが、グラウンドキャニオンまではほぼ一直線の道のだ。激しいうねりの高低差をきっちり超えることができれば、ペースは維持できる。カインとマガネは、どちらもオセロットナビに従ってビーストモードとバイクモードを併用しつつ、前方を走る先頭集団に引き離されまいと必死に走っていた。
オセロットが表示する変形タイミングとジャンプタイミングに合わせての正確な操作。
カインもマガネも、まずは己の未熟さをかみしめながら、突き進んでいく。
1・2・3ジャンプ!1・2・3・4・ジャンプ!
完全に練習モードに入っている二人。自己流だとラップを離されるだけだと実感したマガネは、少なくとも、ラップの離れを最小限にするため、せめてミスを少なくしなければ…とハンドルを握る。
データを後で見たときに、いじられるのも嫌だしな!
高い丘と、盛り上がった石灰岩の岩肌を超えると、まばらに生えた、巨大な針葉樹地帯が見えてきた。斜面に切り立った石灰岩の岩肌を挟むように、飛び地で生息している森を越えた先にグラウンドキャニオンがある。
先頭を走るビフ、ティナ、がドリフトしながら針葉樹の幹の合間を滑るように避けて進んでいく。ビフがややペースダウンの気配を見せる。ティナも合わせて、ルートの確保を後方で伺っていると、後方からワイヤーが射出されティナの視界を端をかすめていった。そして、ピンク色の機体が空中に舞い上がり、背後から矢のように追い抜いていく。
ユニバースのルート取りが変わった?
ティナがその様子とらえると、前方のウルフピンクが針葉樹の枝から枝へ、交互にワイヤーを絡ませ飛ぶように空中を進んでいく。
すごいテクニック。
地上の幹を避けながら走るビフとティナを、空中で並走するかのように突き進んでいくウルフピンクを見上げると、前方で空中回転して、さかさまになったカルラと目が合った。コクピットのライダーが、ティナに向かって二本の指を立てて軽く敬礼のような挨拶をすると、くるりと前方に回って木と木の間を振り子のように超えていく。
あの子は、あの時、見学に来ていた!
ウルフピンクが見せるマニューバのテクニックに背筋をぞくぞくさせたティナは、勝負に出たい欲求を刺激された。しかし、まだ序盤戦!と思い直して、ペースを抑えた走りに徹する。
ウルフブラックが激しく蛇行しながらスピードダウンすると、ティナの後方にその機体を滑り込ませた。その瞬間、針葉樹の林が途切れ、石灰岩の岩肌に差し掛かる。ビーストモードに変形して一気に駆け上がる、カルラ、ティナ、ビフ。加速するティナのオセロットシルバーをウルフブラックが追走すると大きな窪地に滑り込み、再び針葉樹林帯に全員潜り込んでいった。
次いで、ウルフブルーのクランとオセロットイエローのエンディ、ウルフブラウンのベルが針葉樹林帯に差し掛かる、三機のマシンは散開するかのように、各々のルート取りを行っていった。ウルフブルーもブラウンも、無茶なスピード勝負を挑んでは来ない。距離を取りつつエンディと並走して、あくまで先頭集団のサポートに徹している。エンディは、並走している彼らの挙動には気を付けつつ、自分はなるべくミスが少ない走りを目指していた。焦りは禁物だし、オセロットシルバーのティナ何かあった時、カバーに入れるのは自分だけだ。
「うちの男共ときたら…」
と自嘲気味につぶやくと、バイクモードでマシンを傾けて、迫る木々を避けて先を急いだ。
カインとマガネはさらに後方を走っていた。マシンサポートを最大限に受けながら、ビーストモードで針葉樹林帯を抜けていく二人。バイクモードで走るよりも平均ラップが期待できるとのオセロットの教えを忠実に守りつつ、二人とも走っていた。
先頭とのラップ差はそれでもじりじりと離されつつある。せめて、カインとの距離は離されないよう!とマガネは前方を見つめ、右へ左へ、針葉樹林を抜けていくが、ビーストモードでの連続走行が結構体にこたえる。加重操作が思った以上に体力を削っていく。前方のカインを見つめるマガネ。カインのペースが下がっている。このままいけば、せめて、カインを抜くことはできるんじゃないか?とつい考えるマガネの頭に、レイチェル先生との約束が頭をよぎった。
「チーム全体のペースはあなたにかかってる。全員完走できるように…お願いね」
こんなところでビリ争いをしたって、結局試合には勝てないし、そもそも、試合後に、皆からくそみそにたたかれるのも目に見えている。マガネはそんな考えを振りはらって、
とにかく完走。今はそれだけ考えよう…。
ミスを少なく、カインのペースに合わせて走り続けることに専念するマガネ。
カインはちらりと後ろを見た。マガネが自分を抜くことなく、もくもくとその後ろをぴったりつけるように走っている。カインは、激しい高低差に足がすくむ自分を感じていた。ビーストモードでの操作はバイクモードでの操作に比べて、判断の遅れからマシンのバランサーの性能に助けられることが多い。高低差の激しい場面では、恐れが先行して判断が一瞬おくれてしまう。カインは、焦る自分を落ち着かせて、とにかく今は、先頭の集団に追いつくようにと前方を見つめた。
しかし、最後まで走れる自信のほうは、じわじわと二人の心の中でぐらつきつつあった。




