02_01_04
ピットエリアに戻ってきたマガネとテムジを、ビーストライド部の面々が出迎えた。
「さあ、スタートまで時間もないから、マガネ、急いで」
レイチェルに促され、メンバーが待つスペースの奥へ小走りへ向かうマガネとテムジが円状に並ぶレイチェル、ユアン、ティナ、カイン、エンディの横に続くと、
「改めて。ちゃんと紹介しておくわね、彼らはエンディとカイン。6thのペアライダーたちよ」
とレイチェルが、エンディとカレンを促した。
「6thエンディ。宜しく。マガネ!」
「同じく、か、カインです。宜しく」
不意のあいさつに戸惑いながら、「ああ、よ、よろしく」と返すマガネにエンディがずいっと近づくと。
「なんかびっくりしちゃった。アメフトのユニフォーム着た変なライダーが現れたと思ったら、うちの生徒だったなんて」
「え?」戸惑うマガネにちょっといたずらな笑みを浮かべてエンディが「でも、あのカッコのほうが話題になるんじゃない?アメフトライダーって」と、からかうように言うと、ユアンが「いいねえ、このレースが終わったらマガネ用に特注する?」
と、相づちを打った。
急に恥ずかしさで耳まで真っ赤になるマガネ。そんなマガネを見てエンディが
「もしかして!カッコつけた?つけた?」
マガネは口をとがらせて、すねたようにもごもごと、
「あ!あの時は、ライダースーツがなくて、無理やりライドに体を慣らすために仕方なく…」
と、言い訳気味にうつむいて言うと、ちらっとティナのほうを見た。
ティナは目も合わせてくれない。
あきれたようにレイチェルが、
「まあ、なんにせよ、あとで厳重注意だからね!でも、とにかく、今はレースに集中してね!集中ってのは、調子に乗らないってことだからね!あなたは一番後輩なんだから,皆のペースに合わせて安全運転!」ときつめに言うレイチェルにマガネはしゅんとして「は、!はい…!」と答えると、ティナがため息をつき、テムジが「マガネ、どんまい!」と声をかけた。
「改めて、今回走る、イエローストーン・コースの説明を行うわよ」
レイチェルが、円陣状に並ぶ皆の目の前に、3次元ホログラムモニタを展開した。
投影された立体の地形マップデータが盛り上がり、大きな火口カルデラを形成されていく。火口近辺の窪地が広がって、細かい地図データが生成されると、マガネ達が逗留しているピットインスペースがあるイエローストーン湖が出来上がっていいった。
「スタート地点はここ。今、私たちがいるエレファントバックの山のふもと、ウエスト・サムのほとりのブリッジベイキャンプエリアよ。そこから、イエローストーン湖を巡るループロードに沿って、マッドボルケーノのカルデラの周辺外周、おおよそ160kのグランドループを走破する。とっても過酷なエンデューロコースよ」
レイチェルの言葉と指さす動きに反応するかのように、モニタ上に示された矢印が、ブリッジベイのスタート地点から、湖の外周に沿ってぐんぐん伸びていく。
「まずは、スタート地点からイエローストーン湖を半周して、入江から通じる川に沿って北上。そのままマッドボルケーノを抜けるまでの道のりは、舗装されたコースを中心としたスピードエリアよ」
イエローストーンの湖に続く道路を川上に向かって伸びていく矢印。この辺りはバイソンやクマ、狼のような動物が多く生息する平原が続く。地図上にポップアップされた様々な生息動物のアイコンが赤色の線でくくられ、自然保護地域ピンで止められると、立ち入り禁止の警告文が表示された。それらの合間を縫って矢印が伸び、ロードマップ上にビーストライドコースエリアが点線化されて表示された。
「未舗装のエリアは、保護地域が飛び石で設定されているから気を付けて、下手にショートカットを狙うと、制限区域に引っかかって引き返すことになる。基本は舗装されたコースをバイクモードで走り抜けて」
ビーストライドのコースは、基本的にはライドマシンのメモリ上にあらかじめエリア設定が共有され、走っていい場所と悪い場所を、各ライドマシンのAIが自動で判定する。そのため、もしライダーがルートを誤まり、マップ上でエリア設定されていない場所に迷い込むと、マシンの立ち入り制限がかかって、それ以上先には進めなくなり、結果的にタイムロスにつながってしまう。
ただ、エリア内を走れる場所であれば、どのルートを選んでも、コースとしてはOKである。
回り道ながらも平坦な舗装路を突き進むのも、高低差が激しい場所を乗り越えてショートカットするのも、エリア設定の範囲内であればライダーの自由に選択できる。
「川沿いの渓谷を越えると、高低差の激しいグランドキャニオン地帯。その谷底を越えるエリアに入っていく。ここは、ビーストモードとヒューマノイドモードを活用して、岩棚を超える必要があるから注意を払って。最大の難所は…」
レイチェルがマップで示すと、渓谷の高い高低差を激しく落ちていく滝に矢印が向かって行く。
「グラウンドキャニオンを流れ落ちるロウワー滝。両岸に立ちはだかる岸壁はほぼ垂直よ。場面によって、アンカーワイヤーやボルダリングテクニックを組み合わせて、ほぼ垂直の岸壁を越えていかなければいけない」
マップ上では、急こう配の渓谷地帯に激しく流れ落ちる滝が映し出される。激しく水しぶきを上げる滝つぼの両脇に黄金の岸壁がえぐられたようなすり鉢状になってそびえ立っている。
「ライダー同士で渓谷越えのルートを見極めて、協力して走破を目指すこと!いいわね!」皆が固唾をのんで見つめる中、長く伸びた矢印が、険しい渓谷を乗り越えて、針葉樹が生い茂る一帯を突き進んでいく。
「そして、その後に続くのは巨大針葉樹林帯」
ランダムに生えた巨大な針葉樹の森の中を、木々の隙間を縫うように矢印が枝分かれをして、複数のルートをジグザクに突き進んでいく。
「ここからは、巨大針葉樹の合間を縫いながら、枝と幹を利用しての空中のルートを見極める必要があるわ。決まった道がない針葉樹林帯を抜けるためのルートは、矢印で示されたように無数の可能性が存在します。各自、更新されたルートデータを確認して、最適のルートを見つけ出すように」
針葉樹林帯を抜けた矢印と、コースエリアの範囲マップが収束していくと、大小さまざまな岩が隆起する地域に差し掛かっていった。エリアを示すバンド幅が収束する先にカイザーカントリーエリアの文字が現れると、高低差の激しい岩場を越えて幾重にも分かれた矢印が突き進んでいく。
「針葉樹を抜けた後は、石灰岩の岩棚が隆起した地帯に差し掛かる。ここは熱水が常時噴き出す危険な地域よ。今は、マッドボルケーノの火山活動が活発化していることが確認されているので、間欠泉が観測されていない迂回した制限区域が今回のコースリアになるから、気を付けて!」
岩場地帯の端のほうを迂回するように矢印が進んでいくと、再び針葉樹の森に入っていく。しかし、次は、森の中に、穏やかに蛇行する舗装された路面が存在し、道路―を進む矢印と、分岐して森の中を突き進む矢印が存在していた。
「カイザーエリアからイエローストーンまでつなぐコースは、スピードが出せるサーキットコースとショートカットができる針葉樹林を組みあわさったエリアよ。そこを超えて、この場所、イエローストーン、ウエストサムのピットインエリア前までくればゴール…。マッドボルケーノを丸っと一周する約160k超のオンタイムエンデューロが今回のビーストライドのコースよ…」
マップ上に円環で結ばれた、ビーストライドの長大なエンデューロコースを目の前に、言葉に詰まったマガネは、喉の渇きを感じた。レイチェルが言った160Kという走破距離が重くのしかかってくる。
マガネがかつて参加していたポケットビーストライドは、主に10歳以下くらいの子供が行う、いわばゴーカートのようなものだ、レースと言っても、山林や公園内に設置されたせいぜい一周1~2Kにも満たない、やや整備されたアスレチックレース場で走ることが多く。今回のように、険しく長い道のりを連続して走破することは無かった。ネット上のワールドマップで、脳内シュミレーションもしたものの、厳しい悪路を走り抜けなければならない恐怖がマガネにのしかかる。
まじか…やれんのか?俺?
さっきまでの威勢はどこへやら、弱気になっている自分に気が付き、くそっ!っと心の中で気合を入れつつ、集中しようとするマガネ。隣で聞いているエンディとカインに目をやる。エンディもカインも真剣なまなざしでコースを見つめていた。そうか、言っても二人とも6thだもんな…。
マガネはティナに目線を送った。ティナは動じることなくコースを見つめて、レイチェルの説明を聞いていた。
オセロットグリーンは自分のレベルは低いと断言した。途中でへばれば容赦なくリタイヤ扱いにするかもしれない…。
よぎる不安を払いのけようと、マガネは少し頭を振った。
とにかく今は、ライドに慣れることのほうが先決だ!それに、ライドは続けてはいなかったが、基礎体力だけは、十分付けてきたつもりだ。
そんなマガネをよそに、レイチェルは説明を続けた。
「今回のビーストライドのランニングポジションは、フロントラインはティナ。オンタイムでの総合成績が勝負の要になるから、エンディとカインはミドルポジションで、ティナのサポートを行う事!」
「は!はい!」
返事するエンディとカイン。カインは思わずボソッと「だ…大丈夫かな…僕…」と漏らしてしまうと、はっと口を手で覆った。
「弱気になることないわよ、コースパターン自体は、メモリデータの蓄積があるから、最悪、マシンのオートナビに沿ってライドすれば、予測時間くらいにはつくっしょ!」
ビーストマシンはAIが搭載されたオートマニューバ機能が自身のコントロールの安全を常に監視し、いざというときにはライダーから強制的にコントロールを奪い、自動運転へと移行、セーフティが働くようにセットされている。
不安げなカインにエンディが答える。ユアンもカインに向かって「要領は、先週の練習を思い出せばいいさ、肩の力を抜いていこうぜ…」
「あ…ありがとう…、ユアン…」
ユアンの言葉に、申し訳なさそうに答えるカイン。
そうか…こん中じゃ…俺が一番初心者なのか…と、その様子を見つめるマガネにレイチェルが、
「そして…マガネ!」
「えっ!」
突然レイチェルに名前を呼ばれて、少しきょどり気味に反応するマガネに対して、
「あなたはラインバッカ―よ。まずは最後尾で、三人についていくこと。」
レイチェルに言われると、マガネは、ㇵっ!と顔を上げた。
「チーム全体のペースはあなたにかかってる。全員完走できるように…お願いね」
静かに深呼吸をしてマガネは、ホログラフのマップを見つめると、むしろ弱気になっている自分の気持ちにあせりながら「は!はい!」と返事をした。
そんなマガネにレイチェルはくすっと笑うと、
「どうした?マガネ、さっきとは売って変わって弱気じゃない?」
と茶化すように言った。すると、マガネは気を取り戻したように、
「んなことねーよ!これでもチームじゃ、ワイドレシーバーで、スタメン候補だったんだ!」
と強がったように身を乗り出す。
「ああ、そうだな!期待してるぜ、アメフトライダー!」
「ライダースーツで走るよりも、あのコスチュームのほうが成績が良かったりしてね!」
ははは!と笑うレイチェルとユアン、テムジもつられて、吹き出してしまった。
マガネも強張った笑いで応じるが、心の中では、
ちきしょう!と悔し紛れに歯を食いしばった。
、
ラインバックで上等だ!きっちり160K完走してやるからな。
ティナは、そんなマガネをジトッと不審な目で見つめていた。
そんなみんなをしり目にレイチェルがホログラムのポップアップウィンドウを広げると、データ転送の指示を出しつつ、皆に声をかけた。
「今までのエステートの部員たちが走破したときのデータを渡しておくわ。今回の目標はまず全員完走。タイムアタックにこだわってクラッシュや、リタイア減点を生まないように気を付けて…。無理は禁物!あくまで練習試合だから、慎重にベストを尽くしましょう!」
と声を上げると、みなが大きな声で
「おう!」
と拳を上げて答えた。




