09
陽光に白金が輝くビーストマシンが、空高く舞い上がる。
ティナが駆るマシンは、バイクモードからビーストモードに変形をすると丸太が幾重にも積み上げられた複雑な構造体に向かって降下していった。張り出した突起物を支柱にして、そのままくるりと回転すると、一本の細い道を形成している高い雲梯の上に降りたち、バランスをとって端から端へ見事にわたりきっていった。
「やるなあ!あの銀色の山猫。ティナかな?去年はあまりパッとしなかったけど…」
エステート・スクールのビーストライド部についたビフ達三人は、ピットインスペースの上の客席スペースで、練習風景を眺めていた。ビフ、クラン、カルラの三人は、練習用コースを値踏みするように見つめる。ビフは、次期キャプテン候補のレギュラーだが、8thの主力は一人も参加しない。エステートは、レギュラーメンバーには全く相手されていないところに、レイチェルの申し出にお情けで相手をしてあげるといった感覚だろうか。ビフは、ふんっと鼻を鳴らすと「2人だけか?」と面白くもなさそうに言った。
クランが双眼鏡でコースを確認する。走っているマシンは二機しか確認できない。
「もう一機は、走りがあまり慣れてないな…ユアンじゃあないな?奴は何処だ?」
走りの記録をデータと照合しながらクランが答える。
「さあ、コースには2機だけだな。ティナのマシンのほうは、今年はどうして、少なくともシングルではいい成績が期待できるかもしれないね」
クランの後ろで、ポケットに手を突っ込んで、ビーストライドの練習をじっと見つめるベル。カルラは、ガムを取り出して口の中に放り込んだ。身を乗り出したビフはフェンスに手をかけてにやりと笑う。
「どうだかな。でも、さすがの身のこなしは変わってねえなあ」
嬉しそうにビフがつぶやき前に出ると、コースからでも視察に来ているのが分かるように、ピットインスペースの上に仁王立ちになった。
ラップタイムを計測しているテムジが、おや?と観客スペースから見ている三人に気が付いた。
あの制服、ユニバース学園の制服だ。朝先生が言っていた対戦相手がゲームの視察に来ているのか?
朝練でユアンがけがをしてしまったために、レイチェル先生とユアン、カインは一緒に病院に行っていて、部活をしているのは、ティナとエンディの2人だけだ。これはティナに知らせたほうがいいのかな?と思案に暮れていると、ビーストモードで加速してきたティナが、テムジの頭上を大きく越え、くるりとバイクモードに変形すると、ピットインスペースに向かって大きくドリフト煙を上げて横付けした。
濃く高く舞い上がる土煙が、観客席の三人に向かって覆いかぶさる。
「げほっげほっ!」
「うわっ!ひでえ!」
大きくせき込むクランとカルラ。
「あの女!わざと!」
口をハンカチで覆って思わず向きなおるベル。煙がはけてくると、ビフはその場所に、腕を組んで仁王立ちになったまま立っている。口にはいつ巻いたのか、ギャングのようにバンダナが巻いてあった。おもむろにバンダナを外すと、土煙をはたいて綺麗に四角折にするビフは、そのまま胸ポケットに丁重にしまった。
「よぉ!ティナ!久しぶりだな!相変わらずいい腕だ。さすが、ポケットライドでアマゾネスを名乗っただけのことはあるぜ!」
ティナがぴくっと眉を動かす。
アマゾネス・ライダーは、幼少のころ、ジュニアでポケットライドをしていたころのティナのあだ名だ。山野やジャングルが中心のアスレチックコースが得意だったティナは、小さいころそのようなあだ名が与えられた。それはそれで、ティナが注目される選手だった証拠だが、当時も今も、ティナはその称号は気に入っていない。むしろ返上したいが、エレメントスクールから知り合いの多いこのエステートでも、ティナのことをそのように呼ぶ(ユアンのように)失礼な輩は多い。
ティナはマシンをヒューマノイドに直してスタンドさせると、ヘルメットを脱ぎ、ジロリとビフを見つめる。
「やっぱりビフ、あんただったのね。シルエットが違うから一瞬わかんなかったけど。ベルト締めすぎじゃない?内臓忘れてきたの?」
ティナの買い言葉にやや顔を赤らめつつビフが、
「バッカ!やせたんだよ!いつの話をしてんだ!」
とムキになったように返し、かるく咳ばらいをすると、
「名門チームのユニバース・スクールの部長候補!ビフ様が!直々に、今週末の練習試合の相手の視察に来てやったんだ。感謝しろ!」
ふん!っと鼻息荒くふんぞり返るビフ。シラッとした目でビフを見ているティナとの様子をおろおろしながら見ているテムジ。眉をひそめてティナは、
「……今週末の練習試合の相手…ユニバース学園って、やっぱり、あんたのガッコウ!?」
と聞くと、ビフはにやりと笑った。
「今日は、お前ひとりなのか?こんなんで試合できんのか?」
「できるわ…、他の部員は、今日は休んでいるだけ…」
「あのいかさまライダーの息子はどうした?」
不意にビフの口から出た言葉に、ティナが口ごもる。
「この学校にいるんだろ?どうしたんだ?あの鉄くず野郎は?」
ギリっと歯を食いしばると、ティナは喉の奥から絞り出すようにビフに答えた。
「マガネは、…あんたとのレースでクラッシュして以来マシンには乗ってない…」
驚いたテムジが、ティナのほうを振り向く。
ビフ「…?」
ポカンとして一瞬目を丸くするビフだったが、しばらくすると、腹を抱えて大きく笑い出した。
「アーハッハッハッ!あいつ、ビーストライド諦めたのかよ!そいつぁ残念だ!」
そんなビフの様子を睨みつけるティナ。
「まぁ、でも、名前通りの鉄クズのスクラップになる前に引退して良かったぜ。で、お前は続けてるんだな…ティナ」
ビフは、見下すようにして一呼吸置くと、にやりと笑ってティナに、
「楽しみにしてるぜ…」
と言って背を向けた。
「今日の視察は終わりだ!帰るぞ!」
ビフは、クランたちに向かって目配せし、ティナに背を向けて、客席スペースから出口へ向かった。
あっけにとられつつ後を追いかけるクランたち。カルラは、ぷーっとフーセンガムを膨らませてティナを流し見すると、おでこに指を立てて、軽く会釈をして、プイっと振り返ってその場を後にした。
去っていく三人の背中を見つめるティナ。突然のやり取りに困惑するテムジ。
「マガネ?インチキライダーの息子?」
テムジは、ビフ達が去った方向と、ティナを交互に見直していた。




