75.待っていた友人達
黒いグールは振り向きさまこちらにゆっくりと歩き出した。
・・歩き出したかのように見えた、が・・もう既に目の前・・。闇の青年の顔面を横振りの右手の平で吹き飛ばしていた。
黒いグールはもう一歩進むと同時に左手の平を横にバットのスイングが如く俺の顔を狙って来たのだ。
俺は咄嗟に腕を持ち上げて防ぐ。
が、その防いだ右の腕は弾き飛ばされ足腰のバランスごと横に持っていかれた。
そして黒いグールが横でピタリと静止しグルんと首だけこちらに回し目が合う。
「ヴォォォゥ・・」という小さな声紋の音が目の前で聞こえ俺の体を震わせ一瞬思考を停止させた。
黒いグールは直ぐに身体ごと振り向き、手の平を横に振り切った。
俺はそれを避けることが出来ず脇腹に痛恨のダメージを受け、そのまま力任せに飛ばされる。
飛ばされた俺の身体はドンと激しい音で木にぶつかり、べしゃりと泥の上に落ちた。
防護服のお陰でHPの減りはそこまでない。
頭だったらヤバかった。恐らくHPは残るが気を失う可能性が高い。木にしがみ付き体を起こしポケットに手を突っ込み回復の瓶を取り出し一口だけ飲む。これはマーサさんから貰ったやつだ。
すぐさま傷口が塞がり防護服の破れも塞がっていく。
俺はゆらゆらと近づいてくる黒いグールを睨みつけ回復薬を全て口に含み口角を上げ待ち構える。
黒いグールは真っすぐ立つ俺の肩に掴みかかり紫色の口を大きく開いた。
まばらに残ったオレンジの歯と真っ白い蛆虫がびっしりと口の中を蠢き大量の歯のようにも見え、俺は一瞬で鳥肌が立つのを感じる。
その口を開いた黒いグールの顔を両手で掴み押さえたが力で敵うはずもなく顔は少しづつ近づいてくる。
ここまで近づけばいけるか・・。
俺は黒いグールの濁りきった両目に向け回復薬を口から吹き出す。
俺の肩を掴んでいる手がビクリと震えるのが伝わる。
効果は顕著に現れ、濁った目玉は腐った卵のようにどろりと眼孔から零れ落ち僅かに残っていた鼻や皮膚もドロドロと溶けていく。黒いグールは一瞬怯んだのか・・堪らず顔を上にあげ俺の肩を掴んでいる手を少し緩ませた。
その僅かなチャンスを逃す手は無いと手を振り払い黒いグールの頭に銀製のナックルで一撃入れる事に成功する。倒れさまに黒いグールは手をブンっと振り上げるがもう俺はそこにはいない。
ドシャっと倒れる黒いグールに俺はもう1本の俺が持ってきた水を、割れた頭蓋骨に流し込んだ。
俺は大きく目を見開く。ほんの一瞬で脳や骨ごと地面に溶けて行ったのだ。
そのままビクンビクンと身体を2回震わせ大量の瘴気を霧散させながら消えていった。
俺は1つ息を吐き、更に奥に進むべく歩を進めた。
少し奥に進むともうほぼ青いアンデットの巣窟だった。左右のポケットには水の瓶を入れてある。
青いグールも様々だ。水色がかった青から暗い青まで、勿論レベルに応じて黒に近づいている事がわかる。レベル14の暗い青のグールは苦戦はしたもののそれ程ではない。
黒になったと同時に一線を画すのだろう。
俺のレベルが黒を討伐した時に2も同時に上がったのも納得がいく。今日はひたすらここで青いグールを狩ることに決めた。俺は初めてここでの戦闘の死線を越えた感触を得た。
瓶に入れた水は飲んだり、敵に使ったりしながら数を減らす。驚いたのが、囲まれた敵にこの水を口に含んで吹きかけるだけで一掃できるという優れモノだったのだ。
闇の青年も★が2つとなってステータスが1ずつだが上がっている。
★が5になればGからFのランクに到達するのか・・今はまだ想像の域をでない。
ゼストの大量に現れた狼には星はなかった。相手からは見えないとかそういうのだろうか。
まあいい・・1日目はこれで終了としよう。
俺は踵を返し戻りだす。方位磁針が無くて南に向かえば即アウトだな。
「結構歩いた。3km程か。」
帰り道も瘴気を喰らいアンデットは湧いてくる。俺は湧いてきたスローモーションのように動くアンデットたちを狩りながら、しかも歩調を落とさず帰っていった。
夕暮れ過ぎ、まだ前線でカレンとリカルドは立っていた。
「・・・・・」
何も語らず拳を握り只々黙って待っている。
2人にとっては数日会話をしただけの相手に過ぎなかった。だがそれでも腑に落ちない気持ちと友人に対する思いもあったのだ。
日が落ち始め明るさが鳴りを潜めるその時だった。森の中から1人の影が姿を表した。
リカルドは剣の柄に手を置き森を睨みつけるが、その表情は直ぐに笑顔へと変わる。
カレンがまず走り寄り優に抱きつく。リカルドは目を大きく開けたが、頭を掻き苦笑いを見せた。
優も抱きついたカレンに驚いたがリカルドを見て表情を緩める。
カレンは我に返り直ぐに優から離れる。
「あ・・・えっと・・あんた、かなり臭いわよ。」
自分の臭いを嗅ぐ優を見てリカルドが大きく笑い出した。
「優、まずは身体を洗え。それから飯を食いに行くぞ。」
リカルドは優の肩を叩き「おつかれさん。」と呟いた。
俺はリンドバル侯爵邸に向かうと扉の前でリノさんに出会った。
リノさんも驚いた顔をしたが、すぐに顔を顰める。
「外の水場で水浴びをしてから屋敷に入って下さい。」
と、一言いうと中に入っていった。臭さはあまり自分では気付かないものでそこまでの臭いは感じなかった。
邸宅の玄関扉から右側通路に井戸と洗い場が設置しておりそこで体を洗うことにした。
「おお、おお。ええ体じゃのう。」
「こら。よさんか。マーサ。いい年して。」
リンドバル侯爵とマーサさんが水浴びをしている俺に向かい手を振っている。
「着替えだ。これを着るといい。」
俺は頷いた。
「ありがとうございます。」
少し豪華なズボンとシャツに上着だ。
「すみません。カレンさんとリカルドにご飯を誘われていて・・。」
リンドバル侯爵は優しく頷いた。
「ああ。行ってくるといい。私もマーサも今日は家にいる。後で尋ねてきなさい。」
「それじゃあの。」
そう言うと2人とも屋敷に戻っていく。
俺は急ぎ着替えをして、今まで来ていた服を洗い部屋に持っていき服を干した。




