63.もう一人の片腕
北門ではザック達が必死に麻袋を開き解体した獣の肉を出していた。それをセーフティゾーンより外、北門の正面にばらまいた。北門は両面開きとなっており内側からしか開けられない。
「ザック、誰も来なかったら獣の肉は勿体ないよな。」
「まあ、そうだな。おっ!中から声が聞こえてきたぜ。」
チンピラ達の喧騒がワアワアと聞こえてくる。だが、暫く待っていると中の喧騒が少しづつ小さくなっていく。
「だいじょうぶかな、アイツら。」
「大丈夫じゃねえか?しかしホーク達が味方で俺達の命の恩人だったとはな・・。」
その話を聞いたザックも、よくよく考えるとホークが悪さをしたのを見た人間は誰もいなかった。それに殺そうとしている割にはずっとパンの配給は続いていたわけだ。
しかも嫁のエメラダを庇い別の地で必死に守ってくれていた。今更ながらザックは恥ずかしさで頭を抱えた。
「どうしたい?ザック。」
「ああ。自分が恥ずかしくてな。貧しくて苦しくて、人を疑ってばかりだった。」
「ああ。そうだな。違えねえな。さとしくんだっけ?何者なんだろうな?」
「そうだな。俺達の街じゃあ、もう英雄だな。」
「だな。」
ザック達は一頻り笑いっていると門の前が騒がしくなってきた。餌に釣られた魔獣達も門の前に殺到している。セーフティゾーンから更に獣肉を投げこむ。
「門から左右に別れるぞ。こっちが2でそっちが3だ。壁からあまり離れるなよ。」
ザック達は門の左右に配備し剣は抜かず構えた。ドンと門が開き6人の脱走護衛兵が飛び出してきた。
ザック達の仕事は簡単だった。飛び出してきた護衛兵達を魔獣達の死地に更に押してあげるだけだった。
慌てて飛び出し大量の魔獣達を見て更に慌てふためく護衛兵達を横から後ろに回り思い切り付き飛ばす。そこで初めて剣を抜くのだが、その付き飛ばされた護衛兵の前に立ち塞がったのは漆黒の鱗を持つサーペントだった。
護衛兵達は運が悪かったのだ。ザック達は青や通常の獣達で負傷した護衛兵と戦うつもりでいた。セーフティゾーンから最初に飛び出した護衛兵は驚いた黒いサーペントに頭から齧られ飲み込まれていく。
更に黒いサーペントはもう一人の護衛兵を尻尾で絡め取り身体に巻きつけた。バキバキと鎧ごと潰されていく身体に、ザック達は目を覆う。
後ろを振り返ろうとした4人は更に振り返らせまいとするザック達兵士に押され、20を越える魔獣達に足や手を噛まれる。確実に数を減らしていく護衛兵達を暫く見ていたザック達は無情にも北門から静かに中に入り内側から北門を閉めた。
ザック達は更に北門の中、裏の詰所に身を潜め、慌てて走り込んできた2名の護衛兵の討伐に成功した。中に入ったザック達5人は残った兵8人とエメラダ、エリンと合流を果たす。
ギル含め倒した外の護衛兵は全部で23名。既にチンピラ達で倒した数も含めた数であるが、チンピラ達も10名の護衛兵を倒していた。街側はこれで宮殿以外の北区を全て制圧。ホークの案は完全に功を奏した。
「ファイアボール」
轟轟と燃える護衛兵。宮殿内1階。2階建ての宮殿の1階でリンダは火の魔法を使っていた。燃えて息絶えた護衛兵の死体を足で踏み消火するホーク。
「もう静かだわね。」
消火しているホークに気にもせずリンダはホークに話しかける。
「・・・ああ。そうだな。アイツらも奮闘したようだ。」
宮殿内1階も4人の護衛兵の死体が転がっており、燃えカスになったのは今の1人だけだった。
「この雑魚共を送り込んだのはお前らか?」
2階から大階段を降りてくる2人の護衛兵。
「バーダ・・。ガルバルは何処よ?」
バーダは首を傾げる。
「ホムラ様は2階でお寛ぎだ。お前らなぞの相手は俺で充分だろう。」
「ファイアボール」
2階に向かう階段にいるバーダに火の魔法を放つ。しかしバーダは隣にいる護衛兵の首を掴みその飛んでくる火の中に投げ込んだ。
火の玉を真正面から受け止め「ぎぃやー」と叫ぶ護衛兵を、階段を駆け上がるホークが斜めに真っ二つに斬り、そのまま剣を返しバーダ一閃入れる。バーダは少し眉を動かし剣を抜きホークの剣を受け止めた。
ホークはちぃと舌打ちしてバックで階段から下に降りた。
リンダとホークは横に並び、広い大階段の中腹にいるバーダと対峙した。バーダは目を細め話し出す。
「お前ら、レベルを上げたのか?・・そうか。」
バーダはリンダとホークを敵と認識し剣を構えた。
「下ももう制圧されている頃だと思うわよ。」
バーダは鼻で笑う。
「それは無理だ。外にはギルさんがいるからな。あんな雑魚たちでどうこうできる人じゃない。ホークそれはお前もわかっているはずだ。」
ホークはそれに同意して頷いた。
「そうかもな。ならお前の首だけでも手土産にしないとな。」
リンダも頷きホークに微笑み掛けた。
「そうね。そうしましょ。」
バーダはより一層の殺気を込め階段を降り出す。
「舐めやがって。ひよっこホークが調子に乗ったか?メリンダ王女陛下のお守りだけしていれば死なずに済んだのにな。」
リンダがバーダを睨みつける。
「バーダ、私はリンダよ。」
「まあ、どちらでもいいさ。今から死ぬんだからなぁ!」
バーダは一歩大きく踏み込み剣を横に振った。ホークはそれを剣で防ぎ、リンダが拳をバーダの顔面に向けて繰り出した。バーダは目を見開き間一髪で避ける。
「私が昔のままの王女様でいると思ってたのかしら?」
リンダが薄く笑う。風圧だけでバーダの頬から血が流れる、それを拭おうとするがその時間さえ与えずホークが剣で足元を狙う。バーダは階段をバックで飛び登る事で回避するがホークは剣を真っ直ぐに突き出した。
それもバーダは剣で弾き、お返しとばかりにホークに剣を向け真っ直ぐ突き刺す。だがその剣の横腹をリンダの拳で払いのけホークを目指していた剣先はホークの横の空気を貫く。
ホークは手首を返し顔の横をすり抜けてくバーダの腕を切り裂き、リンダは、顔を苦悶の表情に歪めるバーダの顔面に腰から抜いた剣を叩きこんだ。
街を救おうと必至に外で鍛えぬいたリンダとホークからすれば、もうバーダは格下に成り下がっていたのだ。
吹っ飛ばされ地面に転がされ、右手の肉は引き裂かれ、顔面は酷く顎は剣で貫かれていた。だが、バーダは起き上がり何よりもズタズタにされたプライドを取り戻すべく剣も捨てホークとリンダに向かって
走り出した。それももう遅かった。リンダの左腕は既に炎を纏っていたからだ。
リンダは向かってきたバーダをするりと右に避け、歪んだ顔面に左の手のひらを押し当て火力を上げ顔の皮膚や目、そして肉を焼いた。
バーダの頭は脳まで完全に焼け焦げ死に至った。
リンダがバーダの顔面を焼いている最中、ホークは何食わぬ顔でバーダの捨てた鋼の剣を拾い上げ、自分の鉄の剣を大階段から投げ捨てた。
「久しぶりに剣を抜いたな?」
「そうね。新しいボスに指摘されたし、仕方ないわ。」
ホークは吹き出す。
「・・そうだな。それは仕方ないな。」
リンダも笑って2人で大階段を登っていく。




