52.とりあえずの決着
その言葉にチャフが切れ、立ち上がり俺の胸倉を掴んだ。
「おいガキ。言わせておけばいい気になるなよ。」
チャフは俺を鋭く睨みつけている。リンダはそれを見たが薄気味悪く微笑んでいるだけだった。
ホークはただ黙ってこちらを見ている。
「本当にイライラする。」
俺はその言葉を皮切りにチャフの腕を掴んで捩じ上げ顔面に一撃を食らわした。
チャフはリンダの座っているソファの右後ろの壁にぶち当たり壁にヒビを入れた。
俺は更にチャフに近づき鉄の鎧を着こんでいる胸に蹴りを入れた。
死にはしないだろうが鉄の鎧は拉げ足の裏の跡をしっかりと鎧に付けた。
ホークはしっとりと額に汗をかいている。
リンダはチャフを一瞥して溜息を吐き出し話を続けた。
「その兵士とは?」
俺はチャフの横に立ったまま、水を家族の為に運んだ兵士とその家族、犯され殺された妻の事まで詳細にリンダに伝え、名前は伏せたがエリンとその姉の事も話した。
リンダは笑顔を絶やさず聞いていたが、殺された妻や子の話や姉妹の話をしだす頃には目は笑っていなかった。
「そう。ホーク貴方は関与してるの?その兵士の件に?」
ホークは狼狽えたが首を振る。
「いやその件は俺じゃない。」
間髪置かずにリンダがホークに話を続ける。
「じゃあ知ってるのね?誰かしら?」
ホークはちらりとチャフを見るが、ホークも返す。
「だが・・水を盗んだのはその兵士だろう?どういう理由があったか知らないが?」
そこでチャフを放ってソファに座り俺が口を出す。
「1ついいですか?その西の湖はアンタ等のですか?」
2人は黙って俺を見た。シンと静まる。黙秘している感じではない。
ダメだ・・・こいつ等、馬鹿なんだ。・・たぶん。
「西に湖があるのは知ってますよね?ホークは盗んだと言った。それで湖はアンタ等のか?と聞いているんだ。」
俺の普段使っている敬語も消え失せる。ホークが俺を睨み付け話し出す。
「湖も鉄鉱山もギルドが管理してる。だからそいつは罰せられたんじゃないのか?」
・・何故か必死に取り繕おうとするホークに違和感を覚えたが、俺は頷いてホークを見る。
「だったら魔獣の肉を捕ってきた西下層の人が罰を受けて殺されるって話はなんだ?外をうろついてる魔獣もアンタ等の管轄か?魔獣もアンタ等の物なのか?」
ホークは黙ってしまう。俺は言葉を続ける。
「水と鉄鉱石は解った。魔獣を狩って食うのは罪なのか?と聞いているんだが?」
俺は更に問い詰めた。リンダがそこで口を出した。
「魔獣はギルドの管轄ではないわ。」
リンダはホークとチャフに目をやる。
「そうか・・・。」
俺は溜息を吐いた。
「うぅぅ・・・ん」
と、チャフがそこで意識を覚醒させた。だが痛がり動けないでいる。
「チャフ。西の兵士で水を・・盗んだ男とその家族を殺したのはアンタなの?」
リンダが痛がるチャフに質問をした。チャフはリンダの方を見てから俺を見る。
「・・・その件か・・・ああ。水を盗んだから・・な。制裁は必要だと思った。」
チャフがそう答える。リンダは更に質問をする。
「それで、その家族も全部アンタが殺したのかしら?」
チャフは顔色を変えず頷いた。
「ああ。それがどうしたんだ?」
リンダは立ち上がりチャフに近づいた。
「西の人間が魔獣の肉を外から捕って来たのは覚えてるかしら?」
チャフは下卑た笑みを浮かべながら話し出す。
「ああ・・あの時の事か。西の豚共には贅沢品だからな。それも家族諸共殺してやったかな。そういえばあの時の女は凄いよかっ・・・・!?」
リンダはホークを見た。ホークは首を振って下を向いた。
リンダは、もう喋るな。と、チャフの口に掌を当ててチャフを睨みつけると、チャフの目は大きく開かれた。そして直ぐにその開かれた瞼から目玉がドロリと落ちていく。
鼻や耳から黒い煙が出始め血液が噴き出すが沸騰して火山のようにドロドロと流れ出した。
口は塞がれていた為、それ以外の穴から沸騰した血液が流れ出る。
バタバタと暴れる足が痙攣へと変わる。
胸部から順に腹部が膨れだし手足の毛穴から赤黒い湯気が濛々と立ち、肉の焼けた臭いが鼻を突く。
チャフはもう既に絶命していた。・・リンダはゆっくりとチャフから離れた。
眩暈でよろめくリンダを優しくホークが支えようと動くが、リンダは手を振り払いそれを拒否する。
「その兵士と家族の件はこれで手打ちとしてくれないかしら?・・・そうね。姉妹の件は・・・また今度話しましょう。」
そう告げるリンダは先程の余裕はなく店の中に消えて行った。
「・・・アンタ。今日のところは帰ってくれないか?」
ホークの威勢も消えていて俺も頷くしか選択肢がなかった。
そこから3日間何もなく平和に過ごすことが出来た。
水を汲む係を設け、魔獣を率先して狩るエリンさんと兵士。テントは次々に潰されていき、あばら家は雨漏れを無くす補修をしていく。
レナさんも魔獣狩りに巻き込まれレベルを上げ、MPを上げることで水魔法の使用回数を増やしていく。
魔獣装備も続々と完成していき、まずはエリンやエリク、マリン、それ以外の住人の靴が出来上がる。
それから兵士や俺の装備が出来ていった。
レイチェルさん達は更に回復していった女性達を巻き込んで嬉々として装備を作っていく。
俺はそろそろと盾をお願いした。
レイチェルさんは木を丸く削り青い魔獣の革を縫い付けて作ると約束してくれる。
小鬼の革ではないみたいだ。
そして3日目の夜だった。
俺は教会でザックさんとエリンさん達と焼いた魔獣の肉を囲んで食事を摂っていた。
「ホークだー。ホークがこっちに向かってきてる。」
と兵士の1人が慌てて教会に駆け込んできた。
俺とザックさんは慌てて教会から顔を出した。
エリンさんはエリクとマリンを抱き教会の外を睨みつけている。
ホークとリンダ、2人だけだ。取り巻きや雑魚は連れてきていなかった。
「何しに来た?」
ザックさんが口を出したが、リンダの顔を見て固まった。
「・・・リンダなのか?・・どうして・・」
リンダにいつもの不敵な笑みはない。
「ザックさん。久しぶりね。・・・私が東下層の代表よ。」
リンダとホークは教会の前で止まりエリンに目が行く。
「エリン・・・生きていたのね・・?」
エリンさんはリンダとホークを見て驚きの表情になる。
「・・何故・・リンダさんが・・ホークと・・。」
エリンはリンダの方に詰め寄るが、リンダは下を向き、悲しげに目を伏せた。
そして顔を上げ教会の入口に立つ俺を見上げる。
「明日、南の鉱山に来てくれないかしら?真剣な話しがあるわ。」
リンダの真剣な・・それでいて悲痛な表情は、今までの顔は仮面であったかのように思わせた。
「断ったらどうするんだ?」
俺はリンダに問いかける。罠かもしれないのだ。慎重にもなる。
リンダは教会の裏、高い壁を見上げてから俺たちに告げた。
「西も東も滅ぶ・・・かもしれないわ。」
リンダはそれだけ告げると踵を返しゆっくりとホークと東に向かって歩いて行った。
エリンは涙を溜め、教会の中に入っていく。
ザックさんはリンダ達が帰った方をずっと寂しげに眺めていた。




