53.魔獣装備一式
俺たちは教会の中に戻り、奥のテーブルの前の椅子に腰を落ち着けた。正面にザックさんが座っている。ザックさんはテーブルを見つめながら語りだした。
「さとし君、リンダはな・・俺の妻、エリンの姉なんだが・・エメラダの友人でな。
ホムラという男が領主になる前だったか・・。嵐の夜、西の湖の畔で倒れているリンダを見つけたそうだ。
兵士だったエメラダは連れ帰ったリンダを介抱し、元気になったリンダはそのままエメラダと親友のように付き合うようになっていった。リンダはとにかく喧嘩が強い女でな・・・。
今思えば、エリンはリンダに憧れていたのだろう。
だが暫くして悲劇が起きた。
突然現れたホークという男がリンダを攫って行ったのだ。
俺は門衛で詰所で寝泊りしていてな・・・。
リンダを男が攫って行ったという報告を受けた。
急いで帰ると、エメラダはそれを追いかけて行って、兵士に憧れていたエリンも剣を持ちエメラダを追いかけて行ったそうだ。
俺達も捜索したが足取りさえ見つからなかった。
エリンだけがホークという名前だけ情報を持って帰ってきた。
俺達兵士たちもエメラダとリンダの捜索を続けたが、見つかる事はなかった。
それから暫くしてホムラという男が城主に座ったという話を聞いた。
それから少しずつ状況は変わっていった。
・・・西と東と分けられてな。
北の壁の建設が始まり、暫くしてギルドという新しい組織が出来。
そのギルドという組織が我々の雇用主となった。
その雇用主に兵士となったエリンも何度も攫われてな・・・。」
ザックさんは力強く拳を握る。が、拳を緩め蝋燭の炎を眺め、話しを続けた。
「まあ・・・どういう事情で産れたかは・・アレなんだが、エリクとマリンには、俺もエリンも救われている。まあ・・なんだ。さとし君、ここまで世話になっておきながらなんなんだが・・・
アンタは部外者だ。俺はリンダの誘いは、アンタは断ってもいいと思っている。
その後どうなろうとアンタが気負う必要はないと思っているんだ。」
俺は今回の誘いは、なにかしらのリンダの覚悟を感じた。
この誘いは乗らないといけないものだ。
それよりもホムラが男というのが1番引っかかった。
焦炎の女神だろう。まあ・・偽物なのだろうとは薄々思ってはいたのだが、本格的にそう思うと気は楽になる。
・・リンダは何処からきて湖に倒れていたのだろう・・それを追ってきたホークという男。
そもそも、ザックさんの奥さんのエメラダやエリンさんはホークに攫われた訳ではなかった。
いや・・まだ解らないが・・リンダとホークを追って行ったのだ。
・・・もう考えても同じことだ。明日はその鉱山とやらに行ってみよう。
しっかり話し合うべきだろう。
「ザックさん、その鉱山は南にあるんでしたよね?」
ザックさんは「行くのか?」と少し驚いていたが息を吐きしっかり椅子に腰かけこちらを向き話し始めた。
ここから真南にあるシルバータートルという鉱山だという。
ザックさんも遠くからしか見たことはないそうだが、一際大きな山で直ぐに目につくそうだ。
魔物やモンスターもここより少し弱くおとなしい獣も生息しているとの話だった。
教会の中ではまだ女性達がせっせと防具を作っている。
何か出来ることはないか、と尋ねたがニコリと微笑み、やんわりと断られた。
邪魔をするといけないな。と思い、俺は辺りを見回した。
神台に腰かけているエリンさんと心配そうにエリンさんを見ているエリクとマリンを見つけた。
俺は3人に向かって歩いて近づくと、俺に気付いたエリクが手を振ってくれた。
「やあ。」とぎこちなく俺も手を上げエリクに答える。
「ああ・・さとしさん。先程はすみません。取り乱してしまって・・。」
俺はエリクの横に腰かける。
「いえ。そんな・・。」
と俺は首を振った。ザックさんの話だと、リンダはエリンさんの憧れの女性だったのだろう。
「俺は明日、朝から鉱山に行きます。リンダに誘われましたので。」
エリンさんは下を向きながら話し出した。
「・・・そうですか。・・その・・私も連れて行って貰えませんか?」
俺はエリンさんの真剣な顔を見ると断れないとも思ったが、危険であるのも拭いきれない。
「ですが危険かもしれませんよ。」
エリクは心配そうに見ていたが俺の顔を見て話し出した。
「あんちゃん。母ちゃんを連れて行ってくれよ。それであんちゃんが守ってくれよ。俺達を守ってくれたようにさ。」
俺はエリクの頭を撫でる。
「ああ。そうだな。エリク。解った。」
「そりゃあ聞き捨てならないなぁ。」
ザックさんが横から突然話に入ってきた。ザックさんは話を続ける。
「甥と姪の人気を総取りしやがって。俺もついていく。エリンは俺が守るから安心しろ。さとし君。」
俺は強く頷いた。いい人達でいい街だ。
「そうと決まれば・・」と俺は出来上がってきている魔獣革の防具を見に行こうと立ち上がった。
レイチェルさんは黙々と作業を続けていたが、俺達が近づくとこちらを向いて笑顔で奥の方に指を指した。
「幾つか出来上がってますよ。行くんでしょ?明日。」
俺は奥の棚を見て小さく驚愕した。
ようやく俺の防具が・・。それは青い魔獣の装備だった。
革の鎧やレガース、籠手も全部、青い魔獣の革で制作されていた。
青い魔獣の革鎧は全ての兵士に配られるようだ。
だが籠手やレガースは足らずにGランクの魔獣革となるそうだ。
兵士長であるザックさんはフル装備で青のFランクが支給された。
今回、シルバータートルに行くエリンさんも特別に支給されることになった。
それに関して、他の兵達の文句も無く、自分で狩った魔獣で作ってほしいと考えている者が多いようだ。
それと俺が捕ってきた他の革装備に関してだが、全員の靴や集合住宅やあばら家の住人の敷布にしたいとの申し出もあった。靴は既に幾つか出来上がっている。断る理由もない。
是非活用して欲しいとレイチェルさんに伝えた。
エリン達はもうしっかり靴を履いている。
レイチェルさんの横に転がっている木製の丸い盾が気になった。
木の盾の持ち手に魔獣の革が通されベルト式になっている。俺の要望通りの盾が出来上がりそうだ。
俺がそれを手に取って笑顔で眺めているとレイチェルさんが声を掛けてくる。
「そんな感じでいいかしら?それに残している魔獣の革を貼り付けようと思うんだけど・・。」
俺は強く頷いた。だが、1つお願いをしておく。
「そのまま、木の状態で置いておいて貰えませんか?黒い魔獣をたまに見かけるので、ちょっとチャレンジしようかと・・。」
横にいたザックさんとエリンさんが驚く。
「黒はヤバくねえか?昔、1度だけ遭遇した時に俺はなんとか逃げれたが、捕まった兵士が1撃で鎧ごと爪で叩っ斬られるのを見た。」
ザックさんは恐怖で身震いしている。俺も倒せるかわからない。
言ってもレベル15以上の魔獣だ。ステータスをしっかり見て無理なら青い革で作って貰おう。
とりあえず俺はFランクの革装備を腕と足に装着してみた。




