41.細切れの干し肉
「ではレナさん・・教会をお借りしてもいいですか?」
レナさんは驚いた顔をしてオロオロしているがエリクがレナさんのスカートを掴みレナさんに笑顔で頷いた。レナさんも頷いて俺を見る。
「・・・はい。では中へ。」
俺は3人で教会に入った。小さな教会の正面には小さな台座が置いてあり、更にその上には龍の置物が置いてあった。・・これがサラマンドラ?
「台所は右の方です。どうぞお使いください。」
龍の置物に不思議な感覚を覚えたが、俺はレナさんの言う台所に向かいリュックを下ろした。
リュックと魔法の袋からすべてのお徳用と書いてある袋を取り出し数を数える。・・・28袋。
・・いっぱい買ったなー・・俺。
袋を1つだけ開け中の10本入ったビーフジャーキーを取り出す。
まな板に1本、それを乗せナイフで1cm角に切っていく。
大量にあるが使い切る訳にはいかない。1cm角で俺でも充分回復するはずだ。
ましてや子供たちと、か弱い女性・・・全然いけるだろう。
「蓋の付いた瓶はありますか?」
「あ・・はい。ここに。」
と言い、レナさんは洗い場の後ろの棚の上から片手で持てる程度の瓶を下ろし、埃を手で払い俺に恐る恐る渡してきた。親指に鈍く光る指輪を付けている。どこかで見たような・・・。
俺は指から目をそらし、その瓶を受け取って礼を言う。
「ありがとうございます。」
レナさんは頷き下を向いた。
「いえ・・。」
しかし瓶の中も埃だらけだ。俺は瓶の蓋を開けてハンカチを取り出し中を拭く。ちょうど手首まで入る容量だ。
「・・・すみません。」
か細い声でレナさんが謝った。俺は手を前に出し首を横に振る。
「いいえ。大丈夫ですよ。これでレナさんたちも元気になるはずです。」
レナさんは少し笑って頷いた。
10本の干し肉を1cm角で全て切った。1本から20片程の欠片が出来る。約200本の欠片だ。
肉の繊維がポロポロと落ちるが仕方ない。
それを全部瓶に入れていく。
「エリク。子供達を教会の中に呼んできて。」
エリクは大きく頷き走り去る。
エリクが連れてきた子供たちがゾロゾロと教会の中に入ってきた。
「これで全員?重病者はいない?」
レナさんは頷く。
「はい。全員です。重病者は・・・もういません。」
亡くなったんだろう。簡単に察しはついた。
「・・そうですか。では、ここで約束して下さい。ここでの事は、今は内緒にして下さい。」
レナさんは頷き、子供達は虚ろな目でこちらを見やる。他にもいっぱい重症者はいるのだろう。
それはエリンさんのいるあばら家やテントの数を見れば一目瞭然だからだ。
だがこれを皆に伝えてしまうと、恐らく大変なことになるだろう。西側でなく東側が、だ。
15m級の壁の向こうにも伝わるかもしれない。
「では皆に1粒ずつで悪いんだけど・・」
と言い俺は配り始めた。みんなは指でちょこんと掴み首を傾げる。
「魔法を掛けた食べ物だ。少ないけど食べてみて。」
子供達は迷わず口に入れていき、レナさんは目を閉じ口の中に入れ噛んで飲み込んだ。
・・・毒ではないんだけどな。俺がここに馴染むまではこんなものだろう。
レナさんはポワァと光る。半分閉じていた瞼が開き自分の掌を見て握ったり開いたりする。
大きく開いた瞼に涙が溜りだし開いた掌を顔に当て泣き出した。
子供たちは一様に飛び跳ねたり走り回ったり、まあ・・・少量なんだけどね。
・・・今からが本題なんだよな。これだけだと一時しのぎの偽善者だし。
エリクとレナさんに頼み子供たちを集めさせ俺は話し始めた。
「元気になったみたいだね。良かった。」
子供たちは一様に喜び、レナさんは信じられないという顔をしていた。
「この事はまだ内緒にして欲しいんだ。解ってるとは思うけど、この食べ物は知られたらいけない人達もいると思う・・。」
レナさんとエリクが頷く。俺は話を続ける。
「レナさん・・・下っていた最大MPが回復して水魔法をもう使えるはずですよね?」
レナさんはまた大きな目の瞼を更に大きく開き口に手を置き驚いた。
「・・・!」
俺は話を続けた。俺の事は今はいい。
「水魔法の事を俺は知らないんですけど、その精霊の水って魔法は只の水を出す魔法ですか?それとも回復魔法ですか?」
俺は光の魔法しか回復魔法は無いと聞いていた。だが、その精霊の水という単語は回復魔法っぽい気がするのだ。
「はい・・。只の水ではありませんが・・回復魔法と言うよりは薬草などと調合することで薬草などの効果を増大させる。という感じです。ですが少量のHPは回復させられます。HP3程度ですが・・・。」
レベル1の時の俺だったら結構回復する。でもレベルが上がって行くに連れ、おそらく擦り傷程度になっていく。
・・・確かにアラン程にもなれば蚊にさされた程度を治すくらいだろう。回復魔法とは言えないか。
「そのHP回復で西下層の人を助けられますか?」
「はい。・・・瀕死の方の延命にはなります。ですが最大HPの回復までには至りません。」
だったら最大HPを回復させるしかないのか・・・。
俺は手にもっている瓶の蓋を開けようとした。が、そこでレナさんに止められる。
「レナさん・・?」
レナさんは首を横に振る。
「それを確かにみなさんに使って欲しい。ですが今のこの街の状態でまだ使う訳にはいかない食べ物です。おっしゃってましたよね?私もそう思います。私は最大値まで回復させて頂きました。MPが切れても暫く時間が経てばまた魔法は使えるようになります。」
そうなのか。俺はまだ魔法を使えないからよくわからないのだが・・・。
俺は干し肉の瓶を魔法の袋に仕舞いレナさんに話しかけた。
「ですが、暫くはいいかもしれませんが、結局それでは、すぐに同じ状況になると思うんです。」
レナさんは頷く。
「このままだとそうなるでしょう。・・・この街の直ぐ西に小さな湖があります。そこに白い薔薇が咲いているんです。それが回復力の高い薬草で前はよくエリン達と採りに行っていたんですよ。まずはそれを使ってみます。」
そこに行けるようにすればHPに関しては俺が居なくなってもなんとかなるのか?
薬草で空腹は満たないはずだ。ゲームで言えば毒状態でHPは減り続ける。
薬草を多く採取出来ても一時凌ぎにしかならない。
・・だけど精霊の水の効能だけよりは大幅に進歩すると言える訳か。
「その薬草採取は俺も協力しましょう。それと、食料の確保を優先して何とかしないと。」
レナさんは下を向く。
「狼や蛇はなかなか狩れません。青い奴らがいつも共に行動しているからです。兵達で取り囲んでも青い魔獣は苦戦を強いられますので・・・。」
ん?魔獣は食べれるの?それは知らなかった。兵達では青い魔獣は倒せないのか?
この特殊な壁に張り付いてヒット&アウェイでいいのではないのか?
「だったらどうやってレナさんは西の湖まで行くんですか?」
「はい。外の壁伝いを西に歩くと500m程先に湖は見えますので、前はいつも警護をつけて隠れて向かっていました。」
・・・外壁が安全なのはみんな知ってるのね。
ふと外を見ると教会には影が落ち遠くはオレンジに染まっていた。
子供たちは火打石で火を起こし蝋燭に火を灯していっている。
「俺は戻らないと。ザックさんの所に泊めてもらう事になってたんです。」
レナさんは頷き、地面に寝てしまっていたエリクを起こした。
「ザックさんにはいつもお世話になっています。よろしくお伝えください。」
レナさんはそう言い、エリクが起き上がる。
「じゃあ、あんちゃん。ザックおじさんの所に送っていくよ。」
目を擦りながらエリクは言う。俺も頷きエリクについていく。
「明日また話し合いましょう。」
レナさんはまた頷き手を振って見送ってくれた。




