39.城壁都市ホムラ
兵士は門のすぐ左側にある古めかしいレンガ作りの建物に俺を通した。
俺はその建物に触れたが指輪は反応しなかった。後から建てられたのだろう。城門の方が新しく見える。
「そこの適当なイスに座ってくれ。」
12畳くらいの石畳の上に木製のテーブルと6脚のイスが置いてある。
休憩所か何かだろう。左右にランタンが掛けられているが今は灯っていない。
イスに座りテーブルに手を置き兵士を見やる。
「あの・・・俺は・・なにをすれば?」
兵士は革製の兜を外し俺の顔を見て話し出した。
年は40くらいか・・黒髪を短く切り揃えていて精鍛な顔つきをしている。
「俺はこの外門の兵長をしているザックだ。まあ悪いようにはしないと誓おう。まずは俺の甥と姪を救ってくれたことに感謝を。」
ザックさんは頭を下げた。
「いや偶然だったので。俺はさとしです。」
ザックさんもイスに腰掛ける。
「ところでさとし君。君はどこから来たんだ?ここの城壁都市ホムラには何年も旅人などは来ていない。この街は安全だが外は無法地帯だ。そう易々と来れる場所ではないはずだ。」
ホムラ?・・ホムラだって?
「ここはホムラというのですか?」
兵士は頷く。
「ああ。ここは城壁都市ホムラだ。それよりも質問してるのは俺の方だが?」
そうだった。俺は下を向く。
「すみません。エリクとマリンは甥っ子と姪っ子だったんですね。
・・・俺は東の方から来ました。その・・ホムラという人に会いに。」
ザックさんの目つきが変わる。
「ほう。城主にか?知り合い・・という訳ではなさそうだが?」
俺は頷く。
「はい。知り合いというよりも見たこともありません。ですがそのホムラという人に会いに来たというのは本当です。・・信じて貰えないかもしれませんが・・」
ザックさんは腕を組み目を閉じた。
「ああ。信じられん。それと・・だ。例え会いに来た。と言ってもこの街が初めてで面識もないのでは絶対に会えん。」
ああ。マジっすか・・・。いきなり行き詰った。俺は頭を抱える。
「・・・まあ、お前は悪い奴ではなさそうだ。それにエリクとマリンの恩人だ。
それなりにはもてなそう。今日は俺の家に泊まれ。それと外でエリク達が待っている。
エリンの事で約束をしたんだろう?まだ日は高い。期待はしてないが・・その用事を済ませたら俺の家に来るといい。おれの家はエリク達が知っている。・・・話しは終わりだ。」
俺はザックさんに頭を下げ外に出た。太陽が眩しい。昼前くらいか。
「あんちゃん。大丈夫だったか?」
「あんちゃん。大丈夫?」
エリクとマリンが詰所の前で待っていた。
「ああ。ありがとう。じゃあお母さんの所に案内してもらおうか?」
エリクは大きく頷いた。
「ああ。頼むよ、あんちゃん。」
俺たちは詰所から細い裏を通り壁伝いを真っ直ぐ歩いた。すぐにレンガ作りの古い家々が無くなり木製のあばら家が内壁の角から壁伝い、遥か北の方まで数多く並んでいた。
テントらしき家もあり、そこから細い足だけが見え、その足に蝿が集っているのが見える。
すえた臭いが鼻を付く。だが歯を食いしばり鼻を塞ぐ気にはならなかった。
アランはホムラに会うべきだと言った。俺はもうホムラという人間が俺の役に立つ人間とは到底思えなくなっていた。
「ここだよ。あんちゃん。」
ニコリと可愛く笑うマリン。俺は悔しさと悲しさともつかない表情になる。今にも崩れそうなあばら家だ。
「そうか・・ここだね。」
俺は扉もない小さな入口から腰を屈めて中に入った。光源すらもなく薄暗い。
3畳程の砂地の上に少ない藁が乗ってその上に痩せた灰色の衣を纏った女性が寝かされていた。
女性は痩せ細りヒューヒューと肩で息をしていたがエリクが話し掛けると涙を流し細い手を上に上げようとした。その手をエリクが掴む。
「やばい。やばい。」
俺は魔法の袋を掴みペットボトルの水を急ぎ取り出した。HPが1しかないのだ。
直ぐにキャップを開けエリクに耳打ちをする。
「これは内緒だ。守れるか?」
エリクは直ぐに頷いた。一気には飲ませられないだろう。俺はペットボトルのキャップに水を注ぐ。
少量だが多分いける。
エリクにキャップに注いだ水をゆっくり手渡し頷いた。
エリクも静かに頷き寝ている母親の口元に水を運んで少しずつ飲ませる。
俺は緊張しその間ずっとステータスを眺める。HPが・・・2・・3と増えだした。
俺は自分の口を抑え目を閉じ・・・拳を握り息を吐いた。
母親は目を開きゆっくりと起き出す。痩せているのは変わらない。
これから栄養は取らないといけないだろう。HPは回復させたが課題は残る。
干し肉を一定数置いて行ってもその場しのぎだろう。ここの惨状は変わるまい。
だが、とりあえず兄妹との約束は果たせただろう。
座った女性はキョトンとしていたが兄妹に抱きつかれ我に戻り感極まって泣き出した。
3人はそのまま抱き合い泣き崩れていく。
俺は鼻を掻いて小さな出口を出てあばら家に背を預け砂地に片膝を立て尻を置いた。
立てた片膝に手を置き、周りを見まわしここの惨状を深く心に刻みつけ空を見上げた。
脅威はモンスターだけじゃないんだな。俺は日本人だ。受け入れられるはずもない。
「・・・このサブイベントは受けないとな。」
暫くしてエリクがあばら家の前に座っている俺を見つけ横に座った。
「ありがとな。あんちゃん。」
グスグスと鼻を啜り真っ赤に腫らした目で笑顔を作った。
「いや。これが俺の役目なんだろうな。」
俺は空を見ながらそう言い、エリクは首を傾げた。
「あんちゃん。母ちゃんに会ってくれないか?」
母親のこれからの栄養の件とここの惨状、街について聞きたい事もあった。
「そうだな。一言挨拶だけしとこうか。」
エリクは笑顔で頷き俺の手を引きあばら家の中にまた入る。
痩せた母親は既に元気を取り戻していて寝ているマリンの髪を撫でていた。
母親は俺に気付き座り込み手を付き頭を下げた。
「この度は本当にありがとうございました。魔法での治療だとは思いますが・・・私にはお支払い出来るものは何もありません。聞けばエリクとマリンも助けて下さったとの事・・体でお支払いしたいのですが痩せ細り昔の魅力もとうにございません・・・」
母親は顔を伏せる。いやいやいや・・・なんてことを言うんだ。俺は顔を真っ赤にし、俺も顔を伏せた。
「俺はエリクとマリンに約束を果たしたかっただけですから・・・逆にそういうのはちょっと・・。」
「そうですか・・。」
ほんと調子狂うな・・・。
「あの・・ここの街の事を教えてはくれませんか?知ってるだけで構いません。」
母親は顔を上げた。
「その・・私はエリンと申します。」
「ああ・・すみません。俺はさとしです。東から来ました。」
エリンさんは1つ頷いて話し始める。




