36.兄妹 さとし編 2部
「ハア・・ハア・・・マジでキツい。」
どれだけ歩いただろうか・・・遥か西に見える赤い光はやはり遥か西のままだ。魔獣も多い。瘴気のせいか腰から下は空気も暗く淀んで見える。
倒せたのはウサギや青いウサギの魔獣と荒野を徘徊している普通の小鬼と青い小鬼程度だ。
それ以上の敵は隠れてやり過ごす他ない。
最近は狼率が増えてきてそれも狩っている。場所によって生息地域が違うのだろうと推測する。
とりあえず倒した敵の革は剥ぎ魔法の袋に入れておく。この袋は革と言えば全ての革が出てくるのだ。
・・・それもどうかと思うのだが。
なにより俺には防刃服以外の装備が全くないのだ。戦闘のたびに手足や顔まで傷だらけになりその度に干し肉を齧る。腹も減ってないのにだ。
そういう理由で剥いだ革はどこかの町で籠手や膝当て、帽子などに加工して貰おうと思っての事だった。
しかし・・なんなんだよ青いウサギって。歌かよ。マジでいたよ・・。しかも強いし・・
先程も遠くの方で赤い大型の亀に黒い大鬼が一口で食べられているのを見かけた。
直ぐに砂に隠れて見えなくなるまで30分くらいうずくまっていたのを思い出す。
俺はアランの祠を出て3日目の野営をする場所を探していた。
こそこそと隠れながらだが砂地を50kmは歩いたはずだ。
万歩計を持ってくるべきだったと後悔したが、持ってきたところで距離が変わるはずもなかった。
だが見渡す限りの荒野、レベルもあれから2つ上がり青い奴なら何とか倒せる感じになっているが上には上がいる。
魔獣やモンスターの名称は同じだが色分けされレベルが違うらしい。
分かりやすい世界だ。普通の奴と青い奴以外は逃げようと決めている。
もう空も青からオレンジに変わった。すぐに夜になるだろう。その前に寝床を探さないといけない。
確かにあちらから持ってきた水や干し肉を食べるだけで疲れや膝の痛みが取れるのだが・・病は気から・・・?・・ではないが、そういう事だ。
実際に心が疲れている訳だ。荒野を更に歩いていると少し離れた場所に高い岩山が見える。
大きな夕日に影のように見えるのだ。
岩山の前に到着して地面が赤い砂地から黒く硬い岩場に足場が変わった。
俺は岩場を更に進み、そそり立つ岩山を躊躇なく登りだす。
切り立った岩と岩の隙間に休憩場所となりそうな場所があるのだ。
10m程登った所に漸く寝袋を敷ける程度の隙間を見つけ寝転がる。
もう空は地平線のオレンジを少し残し星が空一面を敷き詰めた。
「空の景色だけはいいのな。」
俺は頭の後ろに手を組み枕にする。空を眺めているとパラパラと石が落ちで来た。
「ん?上は脆いのか?」
シンと静まりかえる岩山で何かの声がした。
直ぐに起き上がり岩肌に張り付き息を殺し聞き耳を立てた。
すぐ上だ。
「兄ちゃん。もうここ宝石ないよ?」
小さい女の子の声だ。
「いや・・あるはずだ。見つけないと帰れないぞ。」
次は男の子っぽい声。その先程の声の兄なんだろう。
「・・・で・・でも、もう暗いし町に戻ろうよぅ。」
泣きそうな女の子の声を聞いた、次の瞬間、ワォォォォォ―――ン・・・・遠くから狼の遠吠えが聞こえてきた。俺は慌てて岩肌から顔を出し岩の山肌の上を見上げた。
俺のいる岩穴の更に20m程先に燃え盛る松明の炎と小さな人影が2つ確認できた。
「マジかよ・・・!」
俺はその2つの影に向かって叫んだ。
「おーーい!その松明を消せぇー!」
このタイミングで叫びたくはなかったが致し方ない。
「だ・・誰だ?誰かいるのか?」
男の子の方が叫び返す。
「いいから早く松明を消せ。消したらこちらに降りてこい!急げ―。狼達に感づかれてるぞ!」
バサバサっと音がして上で灯っていた炎が消え暗闇が岩肌に落ちた。俺はポケットからLEDのライトを取り出しピンポイントにその2人を照らした。
「おわっ眩しい。」
「こっちだ。穴倉がある。早く降りてこい。」
ガザガザと2人はゆっくりこちらの方に降りてきて狭い岩穴に入ってきた。10歳程度の男の子と女の子だった。俺はその2人を狭い岩穴の奥に押し込み岩肌から外を確認する。
狼達は何匹かこちらに引き寄せられて下の岩場近くまで来ている。
きょろきょろと周りを見まわしていた。
静かにしていれば大丈夫だろう。とりあえずお守りにジッポライターと殺虫剤を準備しておく。
これが今の俺の最大のチートアイテムなのだ。
とにかく夜の狼はヤバいのだ。多くの数を引き寄せる。
レベルと強さはピンキリで極端に弱い奴もいればアランの祠にいた奴より強い奴もいる。
奴ら狼達は平気で崖も登ってくる。俺が崖上に寝床を張るのは狼以外の対応なのだ。
ただ狼に対しても平地で囲まれるよりは幾分かマシだと判断したからである。
属性を持つモンスターの狼もいれば魔獣の狼もいる。夜はダークウルフというモンスターが現れる。
ゲームだと弱い魔物から順に出てくるのでは?と思ったがまあ俺が弱すぎるのもあるのだろう。
実際レベル4〜15程度の魔獣が殆どなのだ。たまに別格もいるが、低いほうなのだろう。
ところでだ・・・俺は振り向き2人に話しかける。
「大丈夫?何してたの?君たち子供だよね?」
突然の俺の口調の変化にびっくりしたのか2人は面食らった顔でこちらを眺めていた。
「・・・えっと・・ありがとう。俺はエリク。こいつは妹のマリン。」
久しぶりの人間の出現に込みあげる嬉しさを隠し、岩穴の奥にLEDランタンの光を抑えて置いてから会話を始める。
「俺はさとし。東の方からきたんだ。」
兄妹は更にびっくりした表情を作る。表情豊かな兄妹だ。
だが2人ともこの付近で生きていけそうな恰好ではない。ボロい服に小さな錆びた果物ナイフのような物を腰にぶら下げて足は素足なのだ。
「・・・それは何?」
妹の方のマリンがランタンに指をさした。
「ああ。これはランタンだよ。明るさの調節も出来るんだ。」
おおーっと感嘆の声をあげ、マリンは不思議そうに眺めだす。
「ところで君たち兄妹は何をしてたの?」
エリクは下を向き座り込み地面を指でなぞり始めた。
「実は俺達の母ちゃんが病気なんだ。それでギルドの奴らにこの岩山に宝石があるって聞いてきたんだ。」
「病気?・・・って町があるの?この近くに?」
病気もあるのか?まああるのか・・・俺は驚いたがエリクも驚く。
「ここから3km程西に歩いた所にあるけど・・・あんちゃん本当にどこからきたんだ?」
さすが日本人の素人が作ったゲームだ。しっかりメートル法を採用してるのがありがたい。
「まあ・・東からとしか言えないんだけど。その町を案内してくれないか?ひょっとしたらだけど・・・お母さんの病気を治せるかもしれない。」
たぶんこの世界は大丈夫だろう。病気とかもあるんだな。
「本当か?本当なんだな?案内でも何でもするよ。」
「やったね。やったね兄ちゃん。」
涙目で喜ぶ兄妹。
「でも確実とはいえない。実際会ってみないと・・・。」
エリクは下を向き小さく頷く。
「分かってる。大きな期待はしない方がいいんだ。大丈夫。・・・でも俺達、金はあまり持ってないんだけど・・。」
エリクはまた下を向く。小さな体で堪えてきたんだな。
「金なんて要らないさ。ただここのお金の事とかも教えてくれないか?」
エリクとマリンは首をかしげる。
「ここのお金?教える?」
エリクとマリンは更に首をかしげる。
「そう。これだけあれば何が買えるとか・・まあ・・そういう事だよ。」
エリクは不思議そうな顔をする。
「ホントにどこから来たんだよ・・。」
その言葉はもう3回目だ。まあ確かにそうなるよね・・。




