32.エルフの少女 キロロ
リックとウォード達は壁の上を走り抜け3体の大鬼が壁を壊している現場に到着した。小鬼などの雑魚も10匹ほど壁が壊れるのを今か今かと控えている。
「マジかよ・・・。ヤべぇな・・・。」
「泣き言を言うな行くぞ。」
「言ってねえよ。」
リックとウォードが飛び出し壁を向いている大鬼の背中に斬りかかった。
ウォードが長剣で飛び降り様に背中を一刀両断。という訳には行かず、リックが槍で脇腹を刺した。
不意を突かれた大鬼は後ろに向け棍棒を横薙ぎで一閃したが2人は3歩後ろに距離をとっていた。
口からも緑の血を溢し瀕死だが目はリックとウォードを睨みつけていた。
だがリックとウォードはその大鬼を睨み返す余裕はなく、その隣の振り返った青い大鬼と目が合っていた。
「うぉぉぉーーー。」
突然カルナック兵が青い大鬼に向かって塀から襲い掛かった。
「おい!やめろーー。」
リックが叫ぶが、剣が青い大鬼の肩に当たりガキンと金属音のような音が響いた。ダメージは全く入らなかったが想定外の事が起こった。
もう1体の横に控えていた大鬼がカルナック兵を殴ろうとフルスイングで棍棒を振るったのだ。
「ひぃぃぃー。」
ドゴーンと棍棒で殴られるカルナック兵と青い大鬼。
大鬼はカルナック兵と一緒に棍棒で青い大鬼の顔面に一撃をいれていたのだ。
青い大鬼の顔面でぐちゃりと崩れるカルナック兵。当然絶命していたが、一番慌てたのは大鬼だった。
次の瞬間、大鬼の頭が弾け飛んだ。青い大鬼の左手の拳が大鬼を死に至らしめたのだ。
「何というか・・・・その・・・殊勲賞だな・・。」
「・・・リック、不謹慎だぞ。」
「スラッシュ。」
血まみれで膝を付いていた瀕死の大鬼も首に風の魔法を受け崩れ落ちた。
魔法使いの女の子が到着したのだ。女の子はキョロキョロと周りを見ている。
そうなのだ。この女の子は大鬼要員としてミランに送られたのだ。
「キロロ。俺達と一緒に雑魚の掃討を頼む。」
そう言った弓兵は引き絞った弓で小鬼の肩を貫き麻痺毒でフラフラと歩きパタリと動かなくなった。
「スラッシュ。」
倒れた小鬼に風の魔法が直ぐに届き切り裂く。・・と、誰もが想像していたがそうではなかった。
青い大鬼の背中に向けて魔法は放たれたのだ。
「ガゥゥゥ・?」
しかもしっかり背中を切り裂き青い大鬼は緑の血を流し出す。青い魔獣に魔法耐性はないのだ。
「・・・よ・よし・よ・・よくやったぞキロロ。」
弓兵は言うとキロロはニコリと微笑んだ。
もう1人のカルナック兵が無言で倒れている小鬼の首筋に剣を突き立て止めを刺した。
突然の魔法の助力に暫く目を丸くしていたが漸くリックとウォードが青い大鬼と向かい合う形となった。
「なんか運がいいな・・・俺達。」
「そうだな・・。生き延びたらさっき死んだカルナック兵と魔法使いの少女の名を聞いておこう。」
「だな。・・カルナックの坊ちゃんから家族に少しでも報奨金は出せるだろう。」
青い大鬼はリックとウォードを目で追い槍を左手で往なしながら剣を右手の棍棒で受け止める。
逆にウォードは利き手の棍棒を抑えるので精一杯なのだがリックの槍では大した傷も与えられない。
だが確実に膝や腹部に傷を入れている。
青い大鬼が傷を受けて怒り時折振るう大振りは風圧だけで顔や腕に裂傷を受けてしまう。
息が上がっているのはこちらの方だ。棍棒の一撃でこちらは沈んでしまうので仕方がない。
緊張感が半端ないのだ。
後ろの雑魚戦は弓隊2人とキロロ、カルナック兵で確実に敵戦力をそいでいる。
こちらは余裕といえるだろう。キロロも青い大鬼との戦闘をちらちら見る余裕すらあった。
青い大鬼とリックとウォード。均衡を破ったのは焦りを出したリックだった。
利き腕の棍棒を抑える役を担っていたウォードが抑えている隙を突き青い大鬼の首筋を狙ったリック。
「リック!まだ早い。」
ウォードが慌てるがもう遅い。
青い大鬼は頭を少し下げリックの繰り出す槍で頬に傷を付けたが首筋を守った。
槍は長物。出したら引っ込める時間が必要となる。リックはそれに間に合わなかった。
青い大鬼が急いで引っ込めようとするリックの槍を掴んだのだ。
ブンっと掴んだ槍を上方に勢いよく振り、リックは顎を強かに打ち付けた。
更にリックから槍を奪い取り横薙ぎでリックの左腕と胸部を叩きリックを吹き飛ばした。
「がふっ」
リックは肺から空気と血液を吐き出し勢いよく草原を、河原に投げた小石の如く飛んでいく。
「リックゥーーー!」
ウォードは叫び青い大鬼に向かい剣を振る。だが棍棒であっさり往なされていく。
青い大鬼は手に持つリックの槍をちらりと確認しウォードが繰り出す剣撃を往なし遠くのリックを見る。
リックは胸の鎧を強かに撃ちウィンドバリアの恩恵もあってなんとか息はあった。
だが息も絶え絶えで咳込み血を吐きヒューヒューと喉を鳴らす。
「・・・く・そっ・・」
左腕の上腕筋がそげ、骨が折れ指すらもまともに動かない。右腕で身体を起こし草の上に座り頭を左右に振る。右手をポシェットに突っ込み巫女様の丸薬を取り出した。
青い大鬼はリックが起き上がったのを見逃さなかった。
左手に握った槍をもう一度確認し投擲の構えを取った。
そこでウォードも初めてリックが起き上がったのを確認した。
棍棒の木に突き刺さった剣を抜きリックの方を見ている青い大鬼に向かって肩に深く斬りつけるが骨にすら到達せずに傷を付けるに留まっている。更に必死に追い打ちを掛けるウォード。
青い大鬼も身体中傷だらけで流血も多いのだがリックが生きている方が面倒くさい事になると肌で感じたようだ。
ウォードをそのままに、槍を持った左手で槍を投擲しようとしたその時、背中に大きな衝撃を受けた。
風の魔法をまたも背中に喰らってしまったのだ。スラッシュの魔法は剣撃と同じく相手の背中を切り裂く。青い大鬼は高く掲げ今にも投擲しようとしていた槍を落としてしまった。
「ガァァァァァァァァ!!!」
青い大鬼は怒りに震え村の壁を一瞥し魔法が飛んできた壁の方に向かい渾身の力で棍棒を投げつけた。
3体の大鬼達の破壊活動によってボロボロになった壁は一撃で大鬼が投げ飛んできた棍棒によって崩壊した。
「キャ――――!!」
キロロが叫ぶ。
下で壁に張り付いていた小鬼達も吹き飛んだ瓦礫にぶつかり絶命する。
余裕を持って戦っていたカルナック兵はそれに気付き「ひぃぃ。」と声を上げしゃがみ込み事なきを得た。
1人の弓兵がキロロを庇いながら一緒に村の方に落下していく。
予想外の出来事にリックは丸薬を飲み込む時間を稼ぎそして一瞬にして腕や胸の回復と頭の回転まで通常以上に戻ったのを確認することができた。
「ヤバいな・・・巫女様って。」
急ぎ早ウォードと青い大鬼が戦っている方に走り出す。だが予想外はまたも起こった。
青い大鬼は棍棒を壁に投げた直後に胸に深い傷を受け血を噴き出したのだ。
キロロは棍棒を投げた青い大鬼に向かってもう2発のスラッシュの魔法を発動していたのだ。
棍棒とスラッシュは交錯し棍棒は壁に当たりスラッシュの魔法は青い大鬼の胸に吸い込まれた。
横に立っていたウォードと走って向かうリックは血しぶきを上げる青い大鬼を見ながら絶句していた。
「がふっ・・がふっ」
血を口から吐きながら青い大鬼は膝を付き失血で意識を失い前倒しに倒れ、そのまま息をしなくなった。
「・・・あの嬢ちゃん・・・最優秀賞だな・・・。」
「ああ・・・・そうだな・・。」
辿り着いたリックとウォードは一頻り笑いあうと踵を返し崩れた壁の方へ走り出した。
リックとウォードは1体も倒せずレベルは上がらなかった。
弓兵は2ずつ上がりレベル4に。残ったカルナック兵も1つ上がりレベル4に。
キロロは雑魚多数と大鬼、それに青い大鬼と快挙を成し遂げレベルが5も上がりレベル7になっていた。




