31.副隊長ゲオルグ
ミランが門の中に入り塔の魔法兵士のソニアが叫んだ。その瞬間大鬼の1体の首が飛んだ。門から村に入る直前にミランが風の魔法を飛ばしていたのだ。
「ミラン様凄いわね。」
ビビアンが驚愕する。
「弓隊は雑魚を。魔法隊は大鬼を狙え。」
ゲオルグが叫ぶ。
「ファイアボール」
「ファイアボール」
「スラッシュ」
次々に大鬼達に命中するがミランの魔法程の威力は無く、だがダメージは蓄積しているようで何発か当たると大鬼は地面に倒れ伏す。だがとうとう青い大鬼も壁の前に到着し棍棒を振るい始めた。
村とはいえ人が1人上を通れるほどの分厚い壁は簡単には崩せない。
高さは低いが小さな城門級の壁があるこの村は何度かモンスターや魔獣に襲われていた。
この壁を作ったのは現カルナックの祖父である。
しかし壁が崩れれば雑魚がなだれ込む。只でさえ大鬼は2mちょいの壁より頭1つ高い。
弓兵や魔法兵が陣取る門上の壁でさえ3m程しかない。大鬼達は周りに取りつき分散して壁を壊し始めた。
黒い大鬼は正面で少し離れた所で腕を組み、青い大鬼には左右に別れた。それがミランの狙いでもあったようだ。
「ゲオルグ、右壁青い大鬼を討伐出来ますか?」
ゲオルグは頷く。
「お任せ下さい。」
「ではカルナック兵3名と共に右壁へ。弓兵は2名青い大鬼に着いていった雑魚を狩って下さい。」
ゲオルグとカルナック兵3名、民兵弓兵2名は右壁に向かい壁の上を走り出した。
「副長が右ですとじゃあ俺達は左壁ですね?」
リックが笑顔で肩を回す。
「はい。その通りです。リック、ウォード頼めますか?」
「はい。勿論。リック行くぞ。」
リックとウォードも左へと壁上を走り出す。
「カルナック兵2名と弓隊2名も着いていって下さい。」
大鬼達は上手く分散され残り40体程を3つに分ける形となった。
黒い大鬼が1体、青い大鬼が2体左右に。残りの大鬼が2体ともが左に向かった。
魔獣にも友情みたいなのがあるのだろうか。
「魔法隊1名だけ左に向かって下さい。」
魔法隊の3人はキョロキョロとしていたが民兵の女の子が手を挙げ向かうことになった。
「後方から2体の大鬼を頼みます。」
女の子は頷きテコテコと壁の上を走って行った。
青い大鬼が右側面の壁に大穴を開けようと棍棒を振るい壁を壊しに掛かりだした。
民兵の弓隊の1人が青い大鬼の手首に向け走りながら弓を放ち命中させる。腕がいい弓師だ。だがレベルが低くダメージが通らずガキンと音と共に矢がへし折れ地面に落ちた。
「お前は腕が良い。頭上から雑魚を少しでも多く葬ってくれ。」
ゲオルグが民兵の青年の肩をポンと叩く。青年も力強く頷いた。
民兵達も当初は雑魚でも皮膚に傷を付けるに留めていたが戦闘中にレベルが上がり威力が少し増す。
小鬼程度なら腕を貫通させるくらいには至っていた。
「頼むぞ弓兵。俺達も行くぞ、カルナックの精鋭ども。」
ゲオルグが激を飛ばし大剣を構え青い大鬼目掛け壁から飛び降りた。
大剣を上段から勢いをつけて腕を目掛け叩きつける。
ダンッと大きな音がし太い二の腕に命中させ振り下ろした大剣から風が起こる。が、切断にまでは至らず傷を入れるに留めた。
「初撃で棍棒を壊すべきだったか。」
ゲオルグが飛び降りたのに気付いた左右の小鬼が小さな棍棒と槍でゲオルグに向かって走り出す。
だが次々に飛び降りてきたカルナック兵達に長剣で頭を叩き割られた。
カルナック兵は基本レベル3程度だが意表を突くことで同レベルの小鬼を2体撃退する事ができた。
魔獣との戦争は命を守る闘いだ。勿論どの戦争もそうなのだが魔獣に人が殺されると魔獣はレベルを上げていく。負けだすと数ではない圧倒的な差を産み出してしまう。
ゲオルグはその単純なメカニズムにまだ気付いていないが、その逆もまた然りで民兵やカルナック兵達もその恩恵を受けることになる。
雑魚達は弓兵が削りカルナック兵が止めを刺す。といった流れが自然と出来上がり着実に数を減らして人側は経験値の恩恵を受けていく。
腕を斬りつけられた青い大鬼は怒り狂い棍棒をゲオルグに向かい振り回し始めた。
ゲオルグにとって青い大鬼のスピードは脅威ではなかったが攻撃力と硬さがゲオルグの上をいっている。
「当たったら一溜りもないな。大鬼の成長種は一味違うということか・・。」
大鬼は只でさえ強種でギルドの討伐リストにも載っている種でありその成長種はこの何十年もこの森では確認された事がなかった。
「帰れたら会議だな・・これは・・。」
青い大鬼の棍棒が眉間のすぐ横を通り過ぎる。大剣を投げ捨て腰の長剣に切り替え棍棒を握る手の指を斬り落とすべく下から上に剣を振るう。だが青い大鬼も手首を下にずらし指を守る。
だが手の甲から二の腕を切り裂き緑色の血液が吹き出る。指を守り握力を保ったが思わぬ流血に低く唸り怒りを露わにゲオルグを睨む。
今の闘いには片手剣に分があることに気付いたゲオルグは足元の大剣をすぐさまに拾い上げ村の壁の上に放り投げた。大剣を青い大鬼に取られて負けたら末代までいい笑い種だ。
この棍棒を壊すのは不可能となったが、木の棍棒自体の攻撃力が大したプラスになってる訳でもなく恐らく青い大鬼の素手の破壊力そのものも脅威だろう。
実際棒術より素手のレベルが高い場合も魔獣の場合大いにありえる話だ。
棍棒を壊して攻撃力が上がる可能性だってあるのだ。人型の魔獣の怖い所だ。
ゲオルグは怒りで我を忘れた青い大鬼を躱しながら太腿や脇腹を斬り裂きながら少しずつだが着実に追い込んでいく。
出血のお陰か少し動きが鈍くなってきているがそれに全く気付いていない青い大鬼が大振り。それを避けたゲオルグに背を見せてしまった。
そこを見逃さず肩甲骨付近と脇腹を深く斬りつけ更に出血をさせる。
流石の青い大鬼もゼイゼイと息遣いが荒くなる。
「どうした?もう終わりか?」
ゲオルグも落ち着いて軽い長剣を手首のスナップでクルクル回しながら腰を下げ構え青い大鬼の動向を観察する。
「キャーーー。」
だが、突然壁の中から悲鳴が聞こえてきた。ゲオルグは中は見えないがふと壁に目がいってしまった。
その時だ、怒りで振るえた青い大鬼が手に持った棍棒をゲオルグの方に投げつけ目を見開らき咄嗟に避けたゲオルグの横を凄まじい速さで棍棒が通り過ぎ風が巻き起こる。
「ぐはぁ・・。」
残りの雑魚を屠っていたカルナック兵2人と残り数匹の小鬼を巻き込み壁に穴を穿った。
カルナック兵達は見る影もなく壁に棍棒と小鬼ごと突き刺さり絶命した。
「クソ野郎が・・やりやがったな・・。」
ゲオルグは怒りを露わに見せたが青い大鬼は膝をそこでついた。
ゲオルグはツカツカと近づき大量の緑色の血液の上に膝を付いてゲオルグを睨みつけている青い大鬼の頸動脈を長剣で横薙ぎに切り裂き右壁の戦いを終わらせた。
無傷だと思っていたゲオルグだったが棍棒の風圧だけで顔や腕に裂傷が多く出来ていた。
残ったもう1人のカルナック兵は膝を付き呆然と壁に刺さった同僚と棍棒を見上げていた。
ゲオルグはその兵の肩に手を置いた。
「後で埋葬をしてやろう。お前、名前は?」
「・・・リーグです。」
「リーグ・・今は立て。」
カルナック兵のリーグは返事は出来ず小さく頷いた。ゲオルグは壁に刺さった棍棒を眺める。内心、青い大鬼の最後の執念には流石のゲオルグも驚愕し振るえる指を拳を作り抑えるのが精一杯だった。
「弓兵。中で何があった?急いで中央に加勢に走れ。まだやることがあるはずだ。」
弓兵は頷いて後を述べる。
「キロロか?・・・いや、すみません。建物で見えませんが・・・門より左の壁からの悲鳴みたいです。直ぐに応援にいきます。」
「ああ。俺も直ぐに行く。」
弓兵は民兵。この村の兵士だ。ゲオルグの言葉もきかず走り出した。
「頼んだぞ。」
ゲオルグはポーチに押し込んでいた友紀が作り?ミラン様から頂いた黒い丸薬を取り出し口の中に入れそのまま飲み込んだ。身体が薄く発光し傷口が全て塞がった。
それだけではない。身体の体調や疲れ、腰の痛みすらも消え失せていた。それに頭もスッキリとしているのだ。
「ポヤッとした嬢ちゃんかと思ったが凄まじいな。巫女というのは・・・。」
凄まじいのはチョコボールで巫女ではないのだが、この世界の住人でそれに気づくのは僅かだ。
ゲオルグは直ちに踵を返し残ったカルナック兵リーグと中央に走り出した。
ゲオルグはレベルが1つ上がりレベル10に。カルナック兵リーグは2つ上げレベル5になっていた。
民兵弓兵2人も同じく2つずつレベルが上がりレベル4になっていた。




