23.干し肉水とカルナックの森
「あっ忘れてた。サラン、ミラン手伝って。」
私は部屋に戻りビーフジャーキーの袋から1本の干し肉を取り出した。まだ30袋程もある。さとしめ。・・・何してるんだろう・・・指輪をグッと握り赤い線を出す。下瞼に涙が溜まるが生きてることに
安堵して眼を袖で拭う。
「エリアドルさん台所借りるよー。」
「どうぞ。ですがめぐみ様のうどんが美味しくてお腹いっぱいなのですが・・」
いや夜食ではない。
「サランは道具屋で買った小瓶、ミランは精霊の水の入った大瓶を持ってきて。」
「はいはーい。」
「了解です。」
まな板を置き干し肉を5mm程度に切っていく。
「小瓶に精霊の水を入れていって。5本ね。」
「はいはーい。」
精霊の水が入った小瓶に細かく刻んだ干し肉を入れていく。
「絶対すると思ったわ。成分だけで回復するか試すんでしょ?だったらもっと小さく刻むべきよ。」
お母さんが言うがもう遅い。明日はこれで試すのだ。
「ミラン。これを3本持って行って。怪我した人に飲ませてみてね。」
「了解です。頂いて行きます。」
「サランは2本。兵士にでも使おうか?カルナックの兵士も連れて行こうか?」
「そうだね。明日が楽しみだね。」
お母さんが首を振る。
「私達のレベルが上がるまではダメよ。試したい武器もあるし少数で行きましょ。」
それもそうだ。私達が一番レベルが低いんだった。
「じゃあもう寝てしまいましょ。おやすみなさい。」
私もみんなに手を振り部屋に戻った。ライトの魔法をフワフワ浮かべる。右手からも左手からもフワフワフワフワ・・・・・
コンコン。
「友紀、朝よ起きなさい。」
「はーい。起きてるよー。」
瞼を擦り起き上がる。起きてるよは口癖だ。起きてるわけではない。こちらに来て1週間。まだ1週間。時間はある。スタンピードの話どころではなかったけど・・・
扉を開け歯を磨き展望台へ行く。ただの塔の天辺なのだが私はそう呼んでいる。背伸びをしてブルブルと震えトイレに走る。トイレに座り上のタンクを眺める。
水魔法が使えないとわかり水を常に溜とくようにしないといけない。私も女なのだ。
「友紀様。ご飯置いとくね。」
「ありがとう。」
手を洗い席に着きパンを齧りスープを飲む。立ち上がりお椀を洗って部屋に戻る。
「友紀ぃまだ寝ぼけてるんじゃない?」
「はーい。起きてるよー。」
「寝てるじゃない。」
お母さんがため息をついて部屋から離れる。ちゃんと起きてます。いそいそと着替えを始め槍も持つ。扉を開けると今度はサランが待っていた。
「ミランと5人選抜した兵達はもう出発したよー。」
「そうなの?ところで大鬼って強いの?」
サランは首を傾げる。
「何で?大鬼?」
「ウエストウッドの森に出るんだって、手配書があったってギルドに。言うの忘れてて・・」
サランは少し驚いたがフゥと息を吐いた。
「ミランと今回はゲオルグも行ってるから大丈夫でしょ。大鬼の数とレベル次第だけど・・・。」
「やばいよね?エリアドルさんに伝えないと。」
サランは首を振る。
「・・・伝えなくてもいいよ。ミランにも経験が必要だからね。弱い魔獣やモンスターだとレベルが上がりにくくなるんだ。」
「だろうね。そう思う。でも大丈夫かなぁ?」
「大丈夫。大丈夫。それより私達ももう出発しないと。」
「そうだね。すぐ準備してくる。」
サランはシュルシュルとロープを降りていく。バッグからチョコボールの箱をポケットに仕舞った。が、また取り出し10粒ほどはいった箱の半分を袋に分ける。
「黒騎士君、黒騎士君。」
足の先で地面をコンコンと叩く。地面から黒い靄と共に黒い闇の戦士が現れた。
「お呼びですか?」
「うん。先に出たミランにこれを届けて。危なくなったら食べてって伝えて。」
「・・・・・了解致しました。」
黒騎士君は地面に消えた・・・がチョコボールの入った袋がフヨフヨ浮いている。そのフヨフヨは塔を駆け降り地面を物凄い速度で見えなくなっていった・・・シュールな光景だ。
塔の下には馬車とサランにポール、お母さんが立ち話をしていて御者にも1人座っていた。
「急がないと。」
私は階段を駆け降りる。走ってもシュルシュルでも然程変わらない・・・。ミランに貰った手袋もあるのだが階段に慣れてしまったのだ。
「お渡ししてきました。」
「うおぅ!?」
1階、扉の前で黒騎士君が目の前に突然現れた。乙女に非ざる声が出る。
「あ・・ありがとう。早かったね。」
「・・・はい。」
黒騎士君は地面にスゥーと消えていく。
「友紀、みんな待ってるのよ?何してるの、走りなさい。」
「はーい。」
お母さんの声が響く。自分を待たせることより他人に迷惑を掛けるのが凄く嫌い、との事だが本人も私と似た性格に気付いていない。
「さあ揃ったら行くよー。」
サランが号令をかけ馬車を出発させる。御者に座っている緑のクルクル髪の女の子が後ろを向き頭を下げた。
「巫女様とそのお母さま、お初にお目にかかります。リズと申します。御者を務めます。よろしくお願いします。」
目がクリンとして可愛い。白を基調としたローブを着用していて杖を御者の席の後ろに置いている。中学生くらいか。魔法少女だ。
「はじめまして。友紀だよ。リズちゃんは歳はいくつ?兵士とか凄いねー。」
「はい。今年で21になります。」
リズが首を傾げ微笑む。おっ?!・・と・・年上・・・でした・・・か・・。
「そ・・そっかー、21か。同い年・・くらいだね。リズって呼ぶね。」
私も首を傾げ微笑んだ。対抗している訳では決してないのだ。
「はい。よろしくお願いします。」
「ふふっ」
母よ。何故そこで笑うのだ。
「今日もいい天気ね。サランちゃんこちらでも雨は振るのかしら?」
お母さんがサランに話しかける。
「雨?雨は振りますよー。もう2か月程すれば雨期がきますね。」
あっちでいう梅雨のことかな?
「2か月くらい雨が多い感じの・・・かしら?」
「そうです。雨はじとじとして嫌なんですが、それよりも草原や街道にもモンスターが増えますので注意が必要です。太陽を遮りますので。特にアンデットやゴーストに注意です。」
「剣で斬れるの?」
お母さんがすぐに質問する。
「いいえ。アンデットは大丈夫ですがゴーストは魔法での対処が必要になります。戦ってみればわかりますよ。」
「じゃあ私も早めに風の魔法を習得しないといけないわね。」
「そうですね。」
サランがお母さんに微笑む。会話が弾むと早いもので、もう森に到着するようだ。サランとリズが御者を替わりポールとリズが先に降りる。
森は遠くからは見えなかったが1.5m程の柵に囲まれていてちゃんと入口がある。入口の横に小屋がありレベル2と3の兵士が2人椅子に座り雑談をしていた。サランは馬車で兵士2人に話しかけ1人の兵士が頭を下げ扉を開ける。
「みんなー入ろうか―。」
間近で見ると大きくて、青木ヶ原をイメージする深い森だ。サイズは直径2km程だろうか、方位磁針があれば出られないこともなさそうだ。
「とりあえず木に印がしてあるから迷う森ではないよ。じゃあ私は殿を務めるからサクサク行っちゃってー。」
「では僕が先頭に行きます。」
ポールが剣を抜き前を歩きはじめる。恐らく全ての木の高さが20mを超える。その木達が乱立して枝を思い思いに伸ばし多くの葉を太陽に向かって茂らせている。
空は殆ど見えず、葉を多く与えられなかった下の枝達は湿気で水を含み雫として地面に落とす。大量に降り積もった足元の落ち葉は黄色や茶色に変色しグシュグシュと水気を含み音を出す。
「滑らないように気を付けて下さい。」
ポールの言葉に私とお母さんが頷き更に森の奥に進んでいく。
「くるよ。」




