第二十二話 不気味な視線
お久しぶりです。
今回はいつもより若干文字が多いです。
あと、初のジェイド視点での話があります。
お昼ご飯を食べ終わったらテオ兄様とフェリ兄様と一緒に図書館に行くことになった。
食器はオリジナル魔法の『 清潔』を使う。
みんなの前でこれを使ったら、護衛さんに驚かれたし、テオ兄様とフェリ兄様には魔力の無駄遣いだと呆れられた。便利なのに何故だろう。
テオ兄様とフェリ兄様と手を繋いで、その後ろに護衛さんが2人ついてくる。
まだ道順を覚えてないので、テオ兄様とフェリ兄様が一緒で助かった。
図書館の中に入るとどんな本が何処にあるかを確認して、目当ての本がある棚に一直線だ。
私の目当ての本は殺人鬼の犯罪目録。
私の向かった棚は資料などが沢山置いてある棚だ。
パラパラとページをめくり、目当ての情報を見つけると満足して、パタリと本を閉じて棚に戻した。
その後は、魔術教本や魔法図鑑等の魔術系の本とテオ兄様オススメの『紅蓮の勇者』という題名の御伽噺の本とフェリ兄様オススメの『黄昏の王』という題名の建国物語を借りて部屋に戻ることになった。
魔法図鑑がとても大きく、とても高い棚から取ろうとして逆に押し潰されたのは誰にも言えない秘密だ。
あれは重かった……。
借りた本が重く余りにも私がフラフラノロノロしているのをみかねたのか護衛のエレンさんが持ってくれた。すみません。
両手があくと、またテオ兄様とフェリ兄様と手を繋いで、テクテクと歩いて私の部屋に戻った。
途中、ふとじっとりとした視線を感じた。
私達に向けられた視線の中に、憎悪や嫌悪を感じて思わず立ち止まってそちらを見てしまう。
「……?」
「フィーどうした? 部屋に帰らないのか?」
「……フィー? どうか、した?」
「なんでもないでしゅ。はやくおうちにかえってておにいしゃまとふぇりにいしゃまと、ごほんをよむでしゅ!」
「あ、あぁそうだな」
「……はやく、帰ろう」
「あい!! ………………(ておしゃまたちは、しらなくていい。いまだけでも、きずつかなくて、いい。わたしだけで、いい)」
「フィー? 何か言ったか?」
「フィー……?」
「いーえ、なーんにも?」
何でもないからはやく行こうとしらばっくれて誤魔化そうと、テオ兄様とフェリ兄様を急かして繋いでいる手を引っ張る。
テオ兄様達は知らなくてもいいことだ。
……少なくとも、今は。
彼等は王族だから、いつかはこの視線の意味に気付くだろう。
その時に何を思うかは分からないが、自分に負の感情を向けられて傷つかない者はいないだろう。
きっとテオ兄様達も嫌なはずだ。
この思いも、余計なお世話なのかも知れないが、これは私のエゴだから、少しは許して欲しい。
だから、今だけは知らずにいて欲しいと、にっこり笑って誤魔化した。
ぐいぐいと手を引けばテオ兄様とフェリ兄様は苦笑しながら私についてきてくれて、ついでにそんなに急がなくても俺達はどこにも逃げないぞとテオ兄様に言われた。
フェリ兄様はテオの言う通りだとでも言うように私の頭をぽんぽんする。
…あれ、誤魔化されてくれたのはいいけど、なんか釈然としない……。
ただ、目を見開いてこちらを見たエレンさんともうひとりの護衛さんの顔が面白くて笑いをこらえるのが大変だった
……そんなたわいのない話に埋もれて、こちらを見つめていた男の事など忘れてしまっていた。
その視線の中に、害意や悪意が含まれていたことに気付かずに。
✳✳✳✳
幼さに隠れる心 (ジェイド視点)
夜、俺、レオ、ロンドの3人で一緒に酒でも飲もうとレオに誘われ、彼の部屋に行くと既に2人は部屋にいて酒を飲みながら俺を待っていたらしかった。
ドアを開けると部屋の中はうっすらと酒のにおいがする。
部屋には二人しかおらず、いつもなら給仕をしているアコニットは追加の酒でも取りに行っているのか姿は見えなかった。
「遅かったな」
「あぁ、少し気になる報告があったからな」
「気になる報告、ですか?」
「あぁ。テオドール殿下とフェリドール殿下についていた護衛の報告なんだがな。どうも、昼にテオドール殿下とフェリドール殿下がフィオーネのところに遊びに行っていたらしいんだが、流れで図書館に行く事になったらしい」
それにしても、テオドール殿下はともかく、オッドアイのせいで余り他人に心を開くことがないフェリドール殿下までフィオーネに懐き、それどころか互いを愛称で呼び合い、兄様呼びを許しているとは一体何があったのか。
テオドール殿下にしても少し我侭であまり周りの事を考えない性格だったが、フィオーネが城に来てからは率先して彼女の世話を焼きに行っている。
こんなことになるとは思いもしなかった。
「それで、図書館の帰りにフィオーネが立ち止まったらしいんだ。そうしたら、視線の先にはこちらをじっとりと悪意や害意といった負の感情の篭った目で見ている男がいたらしい」
「……フィオーネはその視線に気付いたのか」
「あぁ。立ち止まった後急いでテオドール殿下とフェリドール殿下には何でもないと誤魔化していたらしいが、呟いていたそうだ。『テオ兄様たちは知らなくていい。今だけでも、傷つかなくていい。私だけで、いい』と。本人は口を動かしただけで声に出さなかったから護衛していた近衛兵が気付いているとは思っていないだろうが」
一体、どんな育て方をしたら僅か30余りの子供が負の感情の篭る視線に、あれ程敏感になるというのか。
近衛兵も気付かなかった視線だ。
それを気付けるほどに悪意になれているというのか。
どれほど、彼女は傷ついて来たのだろうか。
幼さに隠れた彼女の心は痛みも苦しみもすべて隠して。
フィオーネのことを考えていると、ふと、自分たちが気付かない間に、いつの間にか取り返しのつかない程に傷ついていまいかと、自分らしくも無く不安にかられる時がある。
「その視線の主は前国王派の者だそうだ。護衛をしていた近衛兵の話ではオダマキ侯爵だったそうだ」
「……オダマキ侯爵か」
オダマキ侯爵は、あまり評判の良くない貴族だ。
気に入らない貴族を人々の前でわざわざけなしたり、あてつけに根も葉もない噂話で相手の評判を下げるなど影でこそこそとしょうもない事をしている。
ただ、最近はどうやら自分たちの浪費した金額が領民から集める税で賄えなくなったのか、借金のカタに領民を売り払ったり、現国王派の貴族の暗殺を企てたりと段々と見逃すことが出来なくなってきている。
もし、彼等がテオドール殿下とフェリドール殿下に危害を加えるような事があったら。
「……護衛の人数を増やすか」
「……そうだな。それがいいんじゃないか?」
「念のため毒味をする者にも注意するように言っておきますね」
「あぁ。……ロンド、あと念のための解呪の魔法薬も頼む」
「勿論です」
レオは帰ってきていたアコニットに急いで命令を伝える。
アコニットはなるほど、と少し考えた後、畏まりましたと言って部屋を出ていく。
「……」
部屋に静寂が満ちた。
ロンドがついた溜息が部屋をひっそりと照らしている蝋燭の火をゆらゆらと静かに揺らした。
「……どうも、あの幼子……フィオーネといいましたか? ……は聡明すぎるようですね。それゆえに自らを傷つける諸刃の剣となる」
「……そう、だな」
「まだ幼いのに気づかない方が楽なのに、気付づいてしまうから、その先を理解できるから」
その先が、自分を傷つけるとも知らずに。
彼女は聡い。
子供なら気づけないことを理解出来てしまうから余計に傷ついてしまう。
本来であれば傷つく必要が無いにもかかわらず。
そして、余り人に頼ることを良しとしない性格でもあるようで、図書館の件でもたくさんの本を借りたが彼女には重く、明らかに無理をしているのに護衛が無理やり彼女の本を取り上げて運ぶまで悪いからと渡さなかったそうだ。
そして、おそらくだが彼女は余り自分を大切にしないだろう。
報告の発言を聞く限りテオドール殿下達が傷つかなければ、自分は傷ついてもいい、と言っているように感じる。
「彼女に一般的な常識が無いにも関わらず中途半端に物事を知っていたりするのはおそらく彼女が感じた恐怖にリンクするを思い出と知識を全てをひっくるめて忘れてしまったからだ。彼女の記憶喪失は心的なものの可能性が高いだろう」
「なるほど……」
取りあえず、今は見守る事に決めたけれど胸のうちに溜まるもやもやと気持ちは、結局どれだけ酒を飲んでも消えることは無かった。
皆さん、ロンドを覚えていますか……?
『私のステータス』で、ちょろっとだけ出てきた美青年さんです。
メインキャラの予定なんですけどなかなか出せなくて……(反省)
頑張ります。
ちなみにオダマキ侯爵の名前の由来は花のオダマキの花言葉の『愚者』からきています。




