第十八話 美味しいものは正義。異論は認める
気を使って(というかほぼ無理矢理)護衛さんにクレープを食べる許可をもらい、テオ兄様とフェリ兄様を部屋に招き入れた私は、じゃじゃーんと自分の作ったお菓子をお披露目した。
「うわぁ、スゲェー! これをフィーがつくったのか!? うまそー!!」
「甘い匂いがするー!」と部屋にテオ兄様が駆け込んで机の上のクレープを凝視しながら、エレンさんに早く毒見をしろと急かしている。
フェリ兄様は歩いて部屋に入ってきながら「テオ、恥ずかしい……から…………やめて……?」とテオ兄様に注意している。
ただ、物珍しいのか食べたいのか、フェリ兄様も目線はチラチラとクレープとエレンさんを行ったり来たりしているからフェリ兄様も相当興味をそそられているようだ。
エレンさんがテオ兄様に早く早くと急かされながら、クレープの生地をひとつ取り、そこにササッとよって生クリームとカットしたベリゴとアプルをトッピングしてくるくるとお祭りの屋台で見るようにまいてクレープを手渡してあげる。
エレンさんがぱくりとクレープを食べると隣でゴクンと喉がなる音がした。
いつの間にかテオ兄様とフェリ兄様が私の隣に来て3人してエレンさんを見上げるようにみつめていたらしい。居心地悪そうなエレンさんを見てハッとした私は急いでエレンさんに声をかけた。
「どうでしゅか……?」
「うまかったです」
いや、そうじゃなくてね? 私が聞いたのは毒の有無だよ。
お口にあったようで良かったれけど。
「そうじゃなくて! もうオレ達も食べてもいいか?」
「あっ……、すみません。はい、もう食べてもいいですよ」
「やったー!!」
エレンさんから許可が出るいなや、嬉々としてクレープの生地に手を伸ばすテオ兄様。テオ兄様に続くようにフェリ兄様も手を伸ばす。つくった甲斐があったなーと思いながら眺めていると「ん!」「…はい」とふたりしてクレープの生地を手渡してきた。
うん、私にどうしろと……?
「えぇーと?」
「これ、まいて! エレンのやつみたいに、くるくる〜って!!」
あぁ、なるほど。
自分じゃまけないから、私にさっきのようにクレープをまいて欲しいと、そういう事か。
お易い御用だ。
「はーい。ておにぃしゃま、ふぇりにぃしゃま、とっぴんぐは、なににしましゅか?」
アプルとベリゴがあるんですけどって付け加えて言うと、テオ兄様がベリゴ、フェリ兄様がアプルを選んだ。
私はベリゴにしようっと。
クレープ生地に生クリームをのせてその上にそれぞれ選んだフルーツをのせてくるくるとまいて手渡してあげると「「頂きます」」と声を揃えて言うと、ぱっくりとクレープにかぶりついた。
やっぱり言動の端々で似てるところがあるのは双子だからかな?
二卵生なんだろうけど。
ふたりは「うまー!!」「……おいしぃ!」などと感想を言いあいながら食べている。
因みに言わずもがな、前者がテオ兄様で後者がフェリ兄様である。2人の性格がよく現れているよね。
私も自分の分をとって生クリームとベリゴをトッピングして、くるくるとまいててっぺんにかぶりつく。
ふあぁ〜、うまぁ……!!
ベリゴが新鮮で瑞々しくって、甘酸っぱくってもう最高!
やっぱりフルーツは美味しいよね、美味いものは正義だね!!
「うふふ〜」
「なんだ、フィーはベリゴが好きなのか?」
「ふぇ? ふるーつは、なんでもしゅきでしゅよ?」
「そうなのか?」
「あい!」
だいしゅきでしゅ! って元気いっぱいに答えたら、「そうか」って言われてテオ兄様に頭をなでなでされた。
うん、なんか子供扱いも慣れた。
大丈夫、私も今は3歳児。中身がいくら高校生だって言っても体は3歳児だから!
「そういえば、この食べ物は、えーっと、なんて名前だったっけ?」
「……えーっと、…………そう、確か、……クレープ……っていってた…………よう……な?」
「そうそう、クレープ!!」
相変わらずフェリ兄様の喋り方は行間が長い。
でも、若干短くなっているような…気がしないでもない。初めて会う人には言葉を選んでる、とか? いくら何でも考えすぎかな。
「それで、なんでクレープって名前なんだ?どうして、こんな形なんだ?」
でたよ。この年頃の子供特有の『なんで? どうして?』が発動した。
これくらいの年になると好奇心が活発になるのかなぁ?
みんな、なんで、どうして、って聞いてくるよね。そんなに聞いてて楽しいとは思わないんだけと。
不思議だなぁ……。
さて、テオ兄様の質問に答えるとですね。
クレープはパンケーキの一種なんだそうな。
あんなに薄かったらもうパンケーキとは言えない気がするんだが、すでに別の料理だと思っているのは私だけかな?
もともとフランス北西部のブルターニュ地方っていう所が発祥の料理だ。
そば粉でつくった薄いパンケーキのガレットで、材料は主にそば粉と水、あと塩が少しのシンプルな料理だったらしい。
元々は『そばがゆ』や『そばがき』にして食べていたものが偶然焼けた石の上に落ちて薄いパン状に焼きあがることが分かり、パンのかわりに食べられるようになったのがはじまりらしい。石で焼いたことから、フランス語で小石を意味するガレット(galet)にちなんでガレットと名付けられた。
そこからレシピが変わっていき、そば粉は小麦粉へ、水は牛乳へ、さらにはバターやたまご、砂糖などが加えられて、私の知る現在のクレープになったんだそうな。
クレープっていう名前は、焼いた際にできるこげ模様が縮緬を連想させることから『絹のような』という意味のクレープと呼ばれるようになったんだとか。
まぁ、フランス語やらフランス北西部やらブルターニュ地方やらはこっちには存在しているはずが無いので、ひとまず誤魔化してクレープのルーツやら名前の由来やらをダイジェストでテオ兄様とフェリ兄様に伝えてあげた。
「へぇ、そんな由来があったのか。ところでなんでフィーはそんなこと知ってるんだ?キオクソーシツだって父上が言ってたぞ!!」
「ふぇ? ……うーん…………。なんでっいわれても……。しってるからしってるんでしゅ。なんかわかんないけど、おもいでとかはぜんぜんおもいだせないけど、ちしきはあるってかんじなんでしゅ。わたちも、よくわかんないでしゅ!!」
あ、あせったあああぁぁ――――!?
魔王様にテオ兄様とエンカウントした事、もう伝わってるんだ!?
テオ兄様だからって安心してたら不意打ち食らった……。
私の記憶喪失に関しての設定は心的な方でショックがあってその記憶の大部分が抜け落ちてる、でもいくつか記憶は残ってる、って感じだ。
そういう事にしてある。
罪悪感が物凄いがほんとの事を話すわけにもいかないしね。
どうせ笑われておしまいだろうけどね。
「ちょっと、だめだよ、テオ。……そういうのは、デリケートな話なんだから……!!」
「ふぇりにぃしゃま、わたちはだいじょぶでしゅから、ておにぃしゃまをあんまりおこっちゃら、めっ! ……でしゅ!!」
「…で、…でも……!!」
「わたちがきにしないから、いいんでしゅ」
「……そう? ……フィーが、そういうなら……」
「でも、わたちのために、おこっちぇくれちぇ、あいあとでしゅ!!」
「……えっと、どう、いたしまし、て……?」
よく出来ました、という意味を込めてと顔の筋肉を総動員して、笑顔をつくる。
すると、途端に部屋の空気が凍りついた。
テオ兄様もフェリ兄様も護衛のお兄さんもみんなフリーズしている。
えっ、そんなにヘタな笑い方でしたか……?
どうしようと不安になっていると、たっぷり五秒程かけてフリーズから回復したらしいテオ兄様もフェリ兄様が同時に口を開いた。
「「わっ、笑ったあああぁぁぁ――――!?」」
「ふぇっ!?」
えっと、私が笑うのはそんなに珍しい事ですか?
そんな大袈裟な。
「フィーが笑った!! はじめて笑った!!」
「フィー、笑った……!!!」
どうやらふたりにとっては大事件だったらしく、テオ兄様は興奮して私の両手を握って上下にぶんぶんと振り回しているし、フェリ兄様もあまり感情は表に出さない方らしいのに頬を薄い桃色に染めて笑っている。
そうか、そんなに珍しかったですか。
これしたら筋肉痛確定だから、またしばらく笑えないんだけどね。あ、それでか。ほとんど笑わないから笑顔がレア扱いなのか。納得した。
なんか、筋肉痛覚悟で笑った甲斐があったね。
そこから先は、テオ兄様とフェリ兄様とたわいも無い話をして過ごした。
例えばこんな食べ物が好き、これは嫌い、とか、あの教科を教えてくれる人が怖い、このお城にはどこどこに幽霊が出るらしい、などなど、本当にくだらない話。
それでも3人で一緒にいる時間が本当に楽しくて、結局エレンさんに「帰る時間だから」と止められるまで3人で話し続けていた。
今回はじめて予約掲載設定というやつを使ってみました。
小説を書いている作者の皆様は、何故あんなにも時間ぴったしに投稿できているのか不思議だったのですが、やっとこさ謎が解けました。




