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Desperado  作者: 汚砂糖
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第一章 第一話魔法が使えぬ魔法使い

 賢暦280年雪も解け木々や花々が活気づき始めるころ、クルク国辺境の村ヴンダー。

 その小さな冒険者協会兼酒場兼宿屋に辺境の村には似つかわしくない、気品を持ち合わせた二人の青年が冒険者へ向けた依頼掲示板の前で真昼間から頭を悩ませていた。

 一人はレオン・ハーン。短い黒髪に堀が深いながらも爽やかな目鼻立ちをしており長身。鍛え上げられた身体は身にまとった厚く古い外套からでもわかるほどに大きく腰には布で巻かれた直剣を携えていた。

 もう一人はクラウス・ディエンテ。顔はレオンよりもさらに美しく正に眉目秀麗。頭髪が一本もない禿げた頭をしていなかったら男ですら振り向く美男子だったろう。身長はレオンより少し低いが体はレオンよりさらに大きい。ただレオンと違いこちらは贅肉が付いていてその贅肉を隠すように白い布が全身を覆っていた。


「草むしりに種まき、犬の散歩、迷いネコの捜索…挙句の果てには粉吹花の収穫。どれもこれも子供のお小遣い程度だな」

 レオンはそう言うとため息交じりに相棒のクラウスを一瞥した。


「仕方ないですね。ここヴンダーに来て一か月、あらかた報酬の大きな依頼は片づけてしまいましたし、もう別の村に行く頃合いでしょうか」

 彼らは一か月前この村を訪れると片っ端から村民の依頼を片付けていった。最初は冒険者ということで彼らを忌避していた連中もあくせく器用に働く彼らを気に入り、木こりや小さな橋の修復、屋根掃除など力仕事を中心に頼っていった。


「もう一回受付のババァに他の依頼がないか聞くだけ聞いて明日の朝にはこの村を発つか」

「そうしましょうか」

 レオンの提案に肩をすくめながら乗るクラウス。

 受付と言っても酒場のバーカウンターと併用されているだけの簡素な受付にババァ、もとい名をレゼという老婆が自分たち以外には飲んだくれのジジイとダラけた冒険者しかいないその建物でグラスの手入れをしつつ暇そうに立っていた。


「バb…レゼさんあの掲示板以外にもっと割りの良い依頼ってないのか?ガキのお手伝いばかりで嫌になる」

 レオンは目の前の醜悪な老婆に悪態をつきたくなるのを必死に堪え尋ねた。


「まーたアンタたちかい、何度も言っているだろう。アンタらみたいな”木板”程度の人間に害獣駆除や魔物の討伐なんて依頼できないんだよ。それで死なれたらこっちにもペナルティが来るんさね」

 皴まみれの肌に異様に高い鼻、くぼんだ眼窩には大きな目がはまっているまるで魔女のようなレゼは答えた。

 そうこの世界の住民には身分証明証として首から下げる”板”を用いたランク付けがされているのだ。貴族階級や大司祭を示す”金板”。国の英雄や国随一の名工を示す”銀板”。大商人や聖職者、豪農を示す”銅板”。兵士や衛兵、自警団を示す”鉄板”。それ以外の職に就く一般平民を表す”石板”。そしてレオンとクラウスが持つ最下級冒険者を示す”木板”。それらには名前と職業を表す印が焼き付けられていた。


「でもよぉ俺らがそこらの冒険者とは違うって分かっただろう?この一か月ものすごくまじめに働いてきたじゃないか。少しくらい優遇したって良いんじゃないか?」

 事実、レゼもこの二人のことは他の冒険者とは違うと評価していた。

「アンタたちが他とは違うって評価してるからこそ、この村で職に就いたら良いじゃないかって思ってるんだよ。農家だって木こりだって皆アンタたちみたいなのが成ってくれたら大喜びだよ」

「レゼさん、何度も言ってるけど俺たちはやることがあるんだよ。職に就いちまったらほぼ定住しなくちゃならねぇ。それだけ避けたいんだ。なぁ頼む。せめて次の村までの駄賃分何とかならないか?」

 悪態をついていたレオンが珍しく懇願する姿にレゼは根負けしたと言わんばかりに大きなため息をつくとこう告げた。

「それなら魔法使いにでも仲間にしたらどうだい?魔法使いが仲間にいるってだけで信用されるし信頼もされる。依頼も融通が利くんじゃないかね」

 そう無茶を告げたレゼに対しレオンが文句の一つも言ってやろうと啖呵を切りかけた瞬間、これはマズイとクラウスが割って入った。

「レゼさん、魔法使いを仲間にって簡単に言いますが魔法協会や魔法庁からの認可を得た魔法使いなんてのはほとんどが騎士団や衛兵、良くても”石板”相当の冒険者パーティにいるのが常です。そんな難しいことをどうして私たちに言ってくるんですか?」


 この世界の住人は生まれ持って魔法が使える。物心ついた子供たちなんかはこぶしサイズ程のファイアボールを撃ち合って遊んだりするほどに魔法は身近なものだった。そんな中で魔法を仕事にするとなると類まれなる才能かはたまた恵まれた血筋を持ち、魔法協会が管轄する魔法学校に入校し卒業、もしくは認定試験に合格しないと魔法使いとして認められないのだ。その狭き門をくぐった選りすぐりの者達がわざわざ”木板”程度の冒険者の仲間になるというのは到底ありえないことだった。


 レゼはクラウスからの問いかけに対し元々吊り上がった口角をさらに大きく釣り上げにやりと笑い言った。

「仲間にするのはアンタら次第だけど居るには居るよ。”木板”程度でも仲間になってくれる魔法使い。しかも下級じゃない。中級の魔法使いがね」




 レゼが言うには彼ら二人がヴンダー村に来る数日前、つまりは1か月と少し前、中級魔法使いを名乗る10代半ばの少女が訪ねてきたという。彼女は色々な冒険者パーティを転々としており”木板”程度でも良いから仲間が欲しいと頼み込んできた。そんな珍しい事態に村を根城としていた冒険者パーティはこぞって名乗りを上げ、その中で一番腕っぷしの良いパーティに彼女は参加すると、粉吹花の群生地に住み着いてしまった魔物討伐という難しい依頼を受理。当日中に向かったきり消息を絶ってしまったという。

 町の自警団や冒険者協会を通じて捜索、救助依頼を出したものの中級魔法使いをもってしてでも行方不明となってしまったその曰くつきの依頼は悉く断られ今に至るという。


「なぁレオン、流石にこの依頼は不味かったんじゃないですか?中級魔法使いなんて町一つを更地にできるほどの実力者です。私たちだけでどうにか出来るとは思えません。しかも一か月以上前ともなると生きているか…」

 粉吹花の群生地へ向かう途中、クラウスはレオンに聞いた。

「確かに危険な依頼かもな。けど中級の魔法使いを仲間にできるチャンスだ。もし死んでいて仲間にできなかったとしてもたかが一つ目狼の複数討伐だぞ?小さいころに剣でさんざ狩ってきているし戦い慣れているから大丈夫さ。しかも報酬が何倍にもなるチャンス付きだ。やらない手はないだろう」

 心配するクラウスを安心させようと腰に帯びた布巻きの剣をレオンは見せつつ元気づけて見せた。

「そのそこまで強くない魔物討伐に中級殿が失敗したところに不安を感じているんですけどね…」

 レオンの楽観ぶりに呆れつつも昔からレオンはこうだったなと達観するクラウス。だが実際この依頼は二人にとってあまりに都合がよかった。まず捜索依頼としての依頼だが公には却下されておりその際に用意した報酬は宙ぶらりん。また討伐依頼の報酬も魔法使い一行が帰ってきておらずそれらより先に討伐し帰ってくればその褒賞は二人に支払われる。また討伐依頼を”木板”冒険者に任せ失敗となると冒険者協会は責任を負わなければならないがあくまで二人は粉吹花の収穫依頼を受けただけなのだ。もし二人が死亡してしまっても誤って一つ目狼の縄張りに入ってしまい死んでしまったと協会側も最低限建前が立つというものだった。だからこそあの頑固ババァのレゼが容認してくれたのだ。

 粉吹花が咲く森を半日ほど歩き日が暮れ始め影が伸び始めようという時、少女の悲鳴が二人の耳に届いた。

「クラウス!今の…」

「女の子の悲鳴ですね」

 二人は魔法使いはまだ生きているかもしれないという喜びと悲鳴をあげさせた何者かに対する恐怖が入り混じった不敵な笑みを浮かべると声のした方へ走り出した。




 レオンが森をかき分け疾走していると目の前に大きな杖を持った少女が飛び出してきた。避けきれないと判断したレオンは咄嗟に少女を抱きかかえ勢いそのまま茂みに突っ込んでしまった。

「レオン!!大丈夫ですか!!」

 クラウスの心配する声が森に響く。レオンは痛みに耐えつつ自身に怪我がないか確認し返事をした。

「大丈夫だ。怪我はない」

 体を起こすと近くまで来ていたらしいクラウスがレオンに手を伸ばしていた。その手をしっかり掴み、立ち上がるレオン。すると少女の体が転げ地面に顔から激突。少女は鈍い呻き声をあげた。


「「あ」」


 レオンとクラウスが忘れていたとばかりに声を出す。すると少女は勢いよく立ち上がり矢継ぎ早にまくしたてた。

「なんですかあなた達は!!失礼ですよ!私をどなたと心得ているんですか!私は魔法協会が認定する列記とした中級魔法使いなんですよ!中!級!魔法使い!!私が本気を出したらあなた達なんて一捻りなんですからね!ひ!と!ひ!ね!り!!!」

 魔法使い然とした暗い色のローブと大きなつばの雪も解け木々や花々が活気づき始めるころ、クルク国辺境の村ヴンダー。

 その小さな冒険者協会兼酒場兼宿屋に辺境の村には似つかわしくない、気品を持ち合わせた二人の青年が冒険者へ向けた依頼掲示板の前で真昼間から頭を悩ませていた。

 一人はレオン・ハーン。短い黒髪に堀が深いながらも爽やかな目鼻立ちをしており長身。鍛え上げられた身体は身にまとった厚く古い外套からでもわかるほどに大きく腰には布で巻かれた直剣を携えていた。

 もう一人はクラウス・ディエンテ。顔はレオンよりもさらに美しく正に眉目秀麗。頭髪が一本もない禿げた頭をしていなかったら男ですら振り向く美男子だったろう。身長はレオンより少し低いが体はレオンよりさらに大きい。ただレオンと違いこちらは贅肉が付いていてその贅肉を隠すように白い布が全身を覆っていた。


「草むしりに種まき、犬の散歩、迷いネコの捜索…挙句の果てには粉吹花の収穫。どれもこれも子供のお小遣い程度だな」

 レオンはそう言うとため息交じりに相棒のクラウスを一瞥した。


「仕方ないですね。ここヴンダーに来て一か月、あらかた報酬の大きな依頼は片づけてしまいましたし、もう別の村に行く頃合いでしょうか」

 彼らは一か月前この村を訪れると片っ端から村民の依頼を片付けていった。最初は冒険者ということで彼らを忌避していた連中もあくせく器用に働く彼らを気に入り、木こりや小さな橋の修復、屋根掃除など力仕事を中心に頼っていった。


「もう一回受付のババァに他の依頼がないか聞くだけ聞いて明日の朝にはこの村を発つか」

「そうしましょうか」

 レオンの提案に肩をすくめながら乗るクラウス。

 受付と言っても酒場のバーカウンターと併用されているだけの簡素な受付にババァ、もとい名をレゼという老婆が自分たち以外には飲んだくれのジジイとダラけた冒険者しかいないその建物でグラスの手入れをしつつ暇そうに立っていた。


「バb…レゼさんあの掲示板以外にもっと割りの良い依頼ってないのか?ガキのお手伝いばかりで嫌になる」

 レオンは目の前の醜悪な老婆に悪態をつきたくなるのを必死に堪え尋ねた。


「まーたアンタたちかい、何度も言っているだろう。アンタらみたいな”木板”程度の人間に害獣駆除や魔物の討伐なんて依頼できないんだよ。それで死なれたらこっちにもペナルティが来るんさね」

 皴まみれの肌に異様に高い鼻、くぼんだ眼窩には大きな目がはまっているまるで魔女のようなレゼは答えた。

 そうこの世界の住民には身分証明証として首から下げる”板”を用いたランク付けがされているのだ。貴族階級や大司祭を示す”金板”。国の英雄や国随一の名工を示す”銀板”。大商人や聖職者、豪農を示す”銅板”。兵士や衛兵、自警団を示す”鉄板”。それ以外の職に就く一般平民を表す”石板”。そしてレオンとクラウスが持つ最下級冒険者を示す”木板”。それらには名前と職業を表す印が焼き付けられていた。


「でもよぉ俺らがそこらの冒険者とは違うって分かっただろう?この一か月ものすごくまじめに働いてきたじゃないか。少しくらい優遇したって良いんじゃないか?」

 事実、レゼもこの二人のことは他の冒険者とは違うと評価していた。

「アンタたちが他とは違うって評価してるからこそ、この村で職に就いたら良いじゃないかって思ってるんだよ。農家だって木こりだって皆アンタたちみたいなのが成ってくれたら大喜びだよ」

「レゼさん、何度も言ってるけど俺たちはやることがあるんだよ。職に就いちまったらほぼ定住しなくちゃならねぇ。それだけ避けたいんだ。なぁ頼む。せめて次の村までの駄賃分何とかならないか?」

 悪態をついていたレオンが珍しく懇願する姿にレゼは根負けしたと言わんばかりに大きなため息をつくとこう告げた。

「それなら魔法使いにでも仲間にしたらどうだい?魔法使いが仲間にいるってだけで信用されるし信頼もされる。依頼も融通が利くんじゃないかね」

 そう無茶を告げたレゼに対しレオンが文句の一つも言ってやろうと啖呵を切りかけた瞬間、これはマズイとクラウスが割って入った。

「レゼさん、魔法使いを仲間にって簡単に言いますが魔法協会や魔法庁からの認可を得た魔法使いなんてのはほとんどが騎士団や衛兵、良くても”石板”相当の冒険者パーティにいるのが常です。そんな難しいことをどうして私たちに言ってくるんですか?」


 この世界の住人は生まれ持って魔法が使える。物心ついた子供たちなんかはこぶしサイズ程のファイアボールを撃ち合って遊んだりするほどに魔法は身近なものだった。そんな中で魔法を仕事にするとなると類まれなる才能かはたまた恵まれた血筋を持ち、魔法協会が管轄する魔法学校に入校し卒業、もしくは認定試験に合格しないと魔法使いとして認められないのだ。その狭き門をくぐった選りすぐりの者達がわざわざ”木板”程度の冒険者の仲間になるというのは到底ありえないことだった。


 レゼはクラウスからの問いかけに対し元々吊り上がった口角をさらに大きく釣り上げにやりと笑い言った。

「仲間にするのはアンタら次第だけど居るには居るよ。”木板”程度でも仲間になってくれる魔法使い。しかも下級じゃない。中級の魔法使いがね」




 レゼが言うには彼ら二人がヴンダー村に来る数日前、つまりは1か月と少し前、中級魔法使いを名乗る10代半ばの少女が訪ねてきたという。彼女は色々な冒険者パーティを転々としており”木板”程度でも良いから仲間が欲しいと頼み込んできた。そんな珍しい事態に村を根城としていた冒険者パーティはこぞって名乗りを上げ、その中で一番腕っぷしの良いパーティに彼女は参加すると、粉吹花の群生地に住み着いてしまった魔物討伐という難しい依頼を受理。当日中に向かったきり消息を絶ってしまったという。

 町の自警団や冒険者協会を通じて捜索、救助依頼を出したものの中級魔法使いをもってしてでも行方不明となってしまったその曰くつきの依頼は悉く断られ今に至るという。


「なぁレオン、流石にこの依頼は不味かったんじゃないですか?中級魔法使いなんて町一つを更地にできるほどの実力者です。私たちだけでどうにか出来るとは思えません。しかも一か月以上前ともなると生きているか…」

 粉吹花の群生地へ向かう途中、クラウスはレオンに聞いた。

「確かに危険な依頼かもな。けど中級の魔法使いを仲間にできるチャンスだ。もし死んでいて仲間にできなかったとしてもたかが一つ目狼の複数討伐だぞ?小さいころに剣でさんざ狩ってきているし戦い慣れているから大丈夫さ。しかも報酬が何倍にもなるチャンス付きだ。やらない手はないだろう」

 心配するクラウスを安心させようと腰に帯びた布巻きの剣をレオンは見せつつ元気づけて見せた。

「そのそこまで強くない魔物討伐に中級殿が失敗したところに不安を感じているんですけどね…」

 レオンの楽観ぶりに呆れつつも昔からレオンはこうだったなと達観するクラウス。だが実際この依頼は二人にとってあまりに都合がよかった。まず捜索依頼としての依頼だが公には却下されておりその際に用意した報酬は宙ぶらりん。また討伐依頼の報酬も魔法使い一行が帰ってきておらずそれらより先に討伐し帰ってくればその褒賞は二人に支払われる。また討伐依頼を”木板”冒険者に任せ失敗となると冒険者協会は責任を負わなければならないがあくまで二人は粉吹花の収穫依頼を受けただけなのだ。もし二人が死亡してしまっても誤って一つ目狼の縄張りに入ってしまい死んでしまったと協会側も最低限建前が立つというものだった。だからこそあの頑固ババァのレゼが容認してくれたのだ。

 粉吹花が咲く森を半日ほど歩き日が暮れ始め影が伸び始めようという時、少女の悲鳴が二人の耳に届いた。

「クラウス!今の…」

「女の子の悲鳴ですね」

 二人は魔法使いはまだ生きているかもしれないという喜びと悲鳴をあげさせた何者かに対する恐怖が入り混じった不敵な笑みを浮かべると声のした方へ走り出した。




 レオンが森をかき分け疾走していると目の前に大きな杖を持った少女が飛び出してきた。避けきれないと判断したレオンは咄嗟に少女を抱きかかえ勢いそのまま茂みに突っ込んでしまった。

「レオン!!大丈夫ですか!!」

 クラウスの心配する声が森に響く。レオンは痛みに耐えつつ自身に怪我がないか確認し返事をした。

「大丈夫だ。怪我はない」

 体を起こすと近くまで来ていたらしいクラウスがレオンに手を伸ばしていた。その手をしっかり掴み、立ち上がるレオン。すると少女の体が転げ地面に顔から激突。少女は鈍い呻き声をあげた。


「「あ」」


 レオンとクラウスが忘れていたとばかりに声を出す。すると少女は勢いよく立ち上がり矢継ぎ早にまくしたてた。

「なんですかあなた達は!!失礼ですよ!私をどなたと心得ているんですか!私は魔法協会が認定する列記とした中級魔法使いなんですよ!中!級!魔法使い!!私が本気を出したらあなた達なんて一捻りなんですからね!ひ!と!ひ!ね!り!!!」

 魔法使い然とした暗い色のローブを身にまとい大きなとんがり帽子からは白く綺麗な髪が流れ落ち幼いながらもどこか大人の色気を醸し出す土まみれ泥まみれの少女からは想像もつかないほど大きく威勢の良い声に思わず面食らう20代男性二人。少女は相当怒り心頭のようだった。

 その時少女の後方10mほどにあった大きな茂みが大きく揺れ体長が2mにもなろう白く巨大な一つ目狼が飛び出してきた。少女はそれを見るなり声にならぬ悲鳴を上げるとまたしても走り出し二人を置き去り駆けていった。それを追う狼もまた一切動かないレオン、クラウスの二人には目もくれず逃げる少女を追う。二人は一つ目狼特有の強烈な獣臭を嗅ぐとすぐさま我に返り一人と一匹を追った。


 二人は思いのほか早く一人と一匹に追い付いた。森が少し開けた粉吹花が咲き乱れる花畑に彼女はへたり込み息の切れた声を必死に上げつつ必死の形相で杖をぶんぶんと振り回していた。

「来ないで!来ないで!食べないで…!」

 どうやら逃げ惑うさなか一つ目狼の縄張りど真ん中に入ってしまったようだった。先ほどの大きな狼のほか十体近くの黒い1mほどの狼が少女を取り囲み今か今かと飛びかかろうとしていた。

 よく見ると少女の体は傷だらけで足にも大きな傷が付いていた。先ほどの追突のせいかもしくはこの一か月、ずっと森の中を彷徨い一つ目狼の縄張り近くで息をひそめ逃げ続けていたからかと思うとクラウスは心が痛くなった。

 少女は杖を大きく振り回し狼たちを威嚇していたが流石に体力の限界が来たのか少しペースが乱れ隙ができてしまった。その隙を野生の狼達が見逃すはずもなく一番近くで隙を窺っていた一つ目狼が鋭い爪と獰猛な牙をもって少女にとびかかった。


「レオン!!!」


 少女を助ける為、クラウスが一番信頼する相棒に助けを求めるより早くレオンは飛び出していた。そして最初に少女へ飛び掛かった一つ目狼を瞬く間に両断した。


「あまりこの剣は抜きたくないが状況が状況だ。クラウス。使ってもいいよな?」

 久しぶりの抜刀にレオンは高揚を抑えられないのか胸を高鳴らせクラウスに目をやる。クラウスは誰よりも信頼できる相棒に頼んだぞ。と小さく頷いた。

 剣を覆っていた布がはらりと地面に触れる。その刹那残りの一つ目狼も全てがレオンめがけて飛び掛かった。


「魔剣、グラム!」


 レオンがそう叫ぶとシュヴァルト家の家紋が刻まれた美しい宝剣が赤く燃え姿を変えた。それはとても長く刃だけで少女の背丈ほどの長さだった。そして空気をも切り裂くほどに美しいく真っすぐな刀身だった。その直剣を使いレオンは小さいころ父親から学び記憶に刻まれた剣舞を舞った。それは見るものを魅了し守るべきものを守り、そして次々に襲い掛かる一つ目狼たちを見事に切り伏せた。その姿は疲弊しきった少女の心に小さくも熱い確かな炎を灯すに足りる十分な美しさだった。


「最後はお前だけかボス犬」

 黒い一つ目狼をすべて片付けると最後に残った一際おおきな個体、最初に少女を追っていた白い一つ目狼を睨みレオンはそう言った。犬と呼ばれ怒ったのか仲間を切り伏せられ怒ったのかはわからないが涎を大量に垂らし先ほどとは比べ物にならないほどの殺気をもってそのケダモノはレオンに飛び掛かる。

 そんな怒りで正気を失った畜生がレオンに、軍事貴族随一の才能、剣技の天才、剣王の再来、とまで言われたレオンに勝てるはずもなく一つ目狼のボスは首と胴を一瞬で分断され少女の目の前に力なく倒れた。




 レオンは元の短い刀身に戻った宝剣を布でぐるぐる巻きにしつつクラウスから治療を受けている少女に問いかけた。

「中級魔法使いさんよ。どうしてこんな雑魚相手に逃げてたんだ?中級じゃこんなやつらそれこそ”一捻り”じゃないのか?」

 少女はバツが悪そうに目を背けると蚊の鳴くような声で言った。

「魔法が使えないの…」

 すぐそばで治療をしていたクラウスには聞こえたらしく信じられないといった面持ちで固まっていたが少し離れたレオンは聞こえず聞き直した。

「なんだって?」

「だから…魔法が使えないの!!」

 それは悲痛にも似た叫びだった。この世界はみな生まれながらに魔法が使える。それが当たり前であり使えないことなどはありえないことなのだ。その告白をした少女にクラウスは問う。

「なにかの影響で使えなくなったとかですか?魔法使いとして働いているということは試験で合格されたか魔法学校は卒業できたのでしょう?この一か月の心労や疲労とかですか?」

 少女は投げやり気味に大きく首を振るとまたしても消え入るようなか細い声で

「記憶があるころにはもう…」

と告げた。

 この衝撃は貴族としてかなりの学を積んだ二人でさえ初めてのことだった。

「ならどうして中級魔法使いになれたんだよ」

 レオンがぶっきらぼうに問う。すると少女は首から下げた中級魔法使いの証となる小さな手帳を外して二人に見せた。魔法使いは板ではなくその知性を表すかのように本をモチーフとした身分証明証を携帯しているのだ。その際、少女の鎖骨真ん中、胸の上あたりに赤い宝石が埋め込まれているのをレオンとクラウスは見逃さなかったが二人ともその異物は見て見ぬふりをすることにした。


「これが中級魔法使いの証です。でもこれは私のものではありません。私の名前と同じ方が持っていた証です」

 そこには中級魔法使いを証明する魔法協会の印とエルシア・ヴァッサと書かれた名前があった。

「エルシアさんね。でもラストネームは違うでしょう?」

 クラウスが聞く。魔法使いの苗字は魔法協会から認められた際に新しく与えられる特別なものなのだ。このエルシアという少女が正規の魔法使いでないならば苗字は違って当然のこと。エルシアはか弱く頷いた。

「私には苗字がありません。物心ついたころには奴隷として働かされていました」

 そういうとエルシアは服をたくし上げ土や泥で汚れてもなお白く美しい太ももにはあまりに似つかわしくない焼き印、モノとして、奴隷としての証を二人に見せた。それを見たレオンとクラウスは天を仰いだ。奴隷に苗字は与えられない。そして奴隷が他人の身分を詐称することは極刑に値する。しかもそれが下級ではなく中級魔法使いとなると尚のことさらだった。しかも魔法が一切使えないのにだ。

見つかれば良くて極刑、好奇心旺盛悪く言えば倫理観の欠如した魔法協会の連中がやることだから死ぬまで実験体として飼われることも容易にレオンとクラウスは想像できた。


「ならどうやってこの中級魔法使いの証を手に入れた?罪人や訳ありの奴らからすると喉から手が出るほど欲しがる代物だ。裏ルートに流すだけで相当な金になる。」

 レオンはエルシアの様子を伺いつつさらに問いかけた。するとエルシアは答えた。

「11年前の大規模魔力爆発事故、お二人はご存知ですか?」

 二人は自分たちがこの境遇に陥った事故を知っているエルシアに危機感を覚えた。なぜならあの事故はレオンの父が起こした”事件”として片づけられたのだ。その為、詳しく知らない一般人はみな”故意的な事件”としか知らされていない。それをこの少女は事故と言った。レオンは巻き終えた剣を無意識のうちに強く握ってしまっていた。クラウスもエルシアの次の言葉を固唾をのんで見守った。二人の張りつめた緊張もいざ知らずエルシアは続ける。

「あれほどではないのですが数年前にも同じことが起きたようなのです。私はその場にいたみたいですがなぜか無事でそれで…」

 エルシアの発言に対し疑問があふれ出るクラウスは思わずエルシアの話しを遮り話し始めてしまった。

「待ってください、その場にいたのですよね?なのにどうしてそんな曖昧なんですか?しかもその魔力事故も無事だったんですなんて信じられません。数年前の事故は残念ながら存じ上げませんが11年前の事故は半径3㎞も焦土と化し生存者なんて誰一人として居なかったんですよ!?」

 エルシアは申し訳なさそうに答えた。

「すみません。気が付いたら何もない焼け野原の真ん中にいて…その時思ったのはやっと自由だって…。それでそこにいた魔法使いやいろんな人の死体を漁って、たまたま見つけたのがこのエルシア・ヴァッサさんだったんです。偽名を使うにしろ慣れない名前で反応できないと困るし、似た名前の人のを借りようかなとは思っていたので同じ名前を見つけた時には絶対これだって思いました。魔法は使えませんが結局この方のお仕事が鍛冶屋だったり大工といった技術のいる仕事だと同じ事になっていたのでそこはあまり気にしませんでした」

「奴隷でも魔法は全員使えるが奴隷は魔法の利用は厳しく制限されているし無断で使用しちゃ厳しく罰せられるから魔法が使えないってのもバレなかったんだな」

 レオンがエルシアをまっすぐ見据え聞く。

 エルシアは「ハイ」と力なく肯定するしかなかった。

「それじゃあその数年前から今まではどうやって過ごしてきた?魔法が使えないんじゃあ話にならないだろう?どうやって誤魔化せたんだ」

 レオンは矢継ぎ早に問いかけた。エルシアはしどろもどろになりながらも答える。

「中級魔法使いって結構すごいらしく、最初は私もあまり分からなかったんですが、堂々としてるだけであれよあれよと事が上手くいって…それであの、最初みたいな態度をとっているだけで大体上手くいっちゃって、それでさっきはあんな態度をとってしまいました。ごめんなさい…」

 今を思うとあの元気な少女はどこへ行ったのやら。見る影もなく小さく小さくなってしまったエルシアに対し本当はこっちが、自信のない、か弱い少女が本当のエルシアなんだろうなとレオンは思った。


「お話はこれくらいにして、暗くなってきましたし長々と話すのもあれなんで夕ご飯にしましょうか!」

 クラウスは重くなった空気を変えるべくかしわ手を打つとレオンとエルシアにそう伝えた。

 あたりはもう黄昏時となり深い森がさらに深く暗く変貌していた。


 


 夕飯も終え森も寝静まり焚き火のパチパチとする音を背に自分たちも寝る準備をしようとするレオンとクラウスに対しエルシアは力なく両腕を突き出した。

「何してるんだ?」

 怪訝に思ったレオンが聞く。

「え?だってお二人は私を拘束するために来られた兵隊さんですよね?だからあんなに強かったし、中級魔法使いって嘘を付いても自分たちのほうが強いから逃げずに追ってきたんですよね?」

 エルシアが不思議そうに言う。

「何を言ってるんだ?俺たちはただの冒険者だ。粉吹花の収穫に来たらたまたまエルシアがいて襲われていたから助けただけだ」

 レオンが一応の建前を踏まえてここに来た経緯を話した。

「そんな。”石板”級の冒険者様がどうして粉吹花の収穫なんかを?しかもここまで入らなくても村の近くに沢山咲いているはずです」

 エルシアは口早に話した。クラウスが答える。

「私たちはただの”木板”冒険者ですよ、ほら、これだってしっかり木製でしょ?」

 そう言うとクラウスは首からかけた冒険者の証をエルシアに見せた。それを見た途端エルシアは何が何だか分からないといった風に焦りや恐怖に顔を歪ませると服のどこかに隠していたであろうナイフを取り出すと猛然と二人に襲い掛かった。

「私は騙されません!あんなに強い方が木板級なんて!!絶対に嘘だ!きっと私を魔法協会に売るつもりなんだ!!この前一緒に来た冒険者たちみたいに!魔法が使えない私を!絶対に嫌だ!殺してやる!!あいつらみたいに!もう奴隷になんて戻りたくない!!戻るくらいなら殺してやる!奴隷以下の生活なんて!絶対に…!絶対に………!」

 か弱い少女を片腕でなんなく抑えていたがすぐに力尽きへたり込んでしまったエルシアに対しレオンは自分の外套を羽織らせる。一呼吸置くとクラウスに問いかけた。

「こいつを信用するか?」

 クラウスは答える。

「同じ極刑の身。信用してもらうためにも落ち着いてもらうためにも必要なんじゃないですか?しかもさっき私としたことが焦って喋りすぎてしまいましたし隠しても仕方ないでしょう」

 極刑という言葉を発したクラウスに対しエルシアは怪訝そうに一瞥すると少しずつ話し始めたレオンを見た。

「俺は11年前、例の魔力爆発事故の原因が父親の国家反逆によるものと国王に断定され一族郎党極刑として家族全員、従者さえも指名手配されたんだ。もちろん親父はそんなことしていないに決まっているしあれはエルシアも言った通り事故のはずなんだ。原因は未だ解明されていないがな。そしてそれをいち早く、処刑部隊が到着するよりも早く親父に知らせてくれたのがそこにいるクラウスさ。もちろんクラウスもそんなことをしたもんだから国家反逆の罪と逃亡幇助の罪に問われ俺と同じく指名手配。命の恩人だが今思うとバカだと思うね」

そういうとレオンは世界で一番信用する相棒に目をやった。クラウスはレオンと目を合わすとニヤリと笑いこう続けた。

「ほんとやらなきゃ良かったと今でも思いますよ。そのストレスさえなけりゃ髪も生えて女の一人や二人抱けただろうに」

と後者は割と本気なようにも捉えられる冗談を言って見せた。

「俺の本当の名前はレオンハルト・ハーン・シュヴァルト。シュヴァルト家11代当主にして最後の生き残りさ」

「そして私がクラウス・ブーフ。ブーフ家の元跡取りですね。私がこんなことをしてしまいましたので貴族階級は剥奪され家族は皆散り散りになってしまいました。きっと恨まれているでしょうね」

そう言うとと二人は諦めたかのようなどこか悲しいそんな表情を浮かべ焚き火に目をやった。

そしてレオン覚悟を決めエルシアに言った。

「俺たちはエルシアを売らない。見捨てもしない。同じ極刑仲間、ならず者同士だから仲間にならないか?俺たちは身分が低い。中級殿がいるってだけで活動範囲も活動内容も大きく変わる。どうだ?悪くない提案だろう?」

焚き火に照らされその美しい容姿が面妖に映るレオンの顔にエルシアは思わず胸が締め付けられるそんな感覚がした。

「私で良ければ…でも本当に良いんですか?私何もできないですよ?魔法も使えないし荷物も持てないし、あんなに美味しい料理も作れないし…」

未だに自身を卑下するエルシアに男二人は吹き出すように笑った。

「中級魔法使い、その肩書さえあれば俺たちは満足なんだよ。何もしなくて良いさ。戦いは俺がやる。荷物持ちと飯づくりはクラウスがやる。それで十分だろ?」

クラウスを煽るようにレオンが見るとその発言に納得がいかなかったのかクラウスがレオンの頭をパチンと冗談めかしく叩いた。

「イテッ」と笑いながらレオンが顔をしかめる。そんな何気ない平和な風景にいつしかエルシアは心を許し人生で初めて心の底から湧き出る嬉しい笑いを決して大きくはないが無邪気なかわいらしい笑い声をあげて笑っていた。

エルシアの心の緊張がほどける中、レオンとクラウスは彼女が事故と言ったこと。あの災害を、小規模とはいえ同じような災害を生き延びていたことへの疑問を確かに感じお互いだけが分かるようアイコンタクトを取っていた。そのことを彼女は知る由もなかった。




第二章 予告

新たな仲間を連れヴンダー村に帰ってきた一行は多額の報酬を受け取ると次の村へ…

レゼ「あんた達何か忘れてないかい?」

またしても頑固ババァのせいで上手くいかないレオンとクラウス。そしてエルシア。

忘れ物を解決しに再び粉吹花の森へ向かった一行の前に現れた強敵とは!?

Desperado第二章近日公開!!

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