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写真に見入っていた息子が夫に聞いてきた。
「野球部ってさ、父さんがいた3年間で甲子園まで行ったの?」
「私達の代は行けなかったよ」
そう、私達が高2の時も高3の年も甲子園には行けなかった。うちの学校が甲子園に行ったのは私達が卒業した年の、昭和61年だ。テレビで観戦しながら、夫が悔しそうな顔をしたのを覚えている。
陽菜がアルバムをめくった。体育祭の時の写真があった。その中に応援合戦の写真があった。うちの組(各学年2クラスづつで4チームあった)の応援団に選ばれた夫が、学ランに長い白いはちまきと白い手袋を嵌めて、応援の指揮を執っている写真だった。この姿に女の子がキャーキャー言っていたのを覚えている。
次のページは文化祭の写真だった。猫耳としっぽをつけたウエイトレス姿の写真を見た皆の視線が、私に集中した。
「おばあちゃんって」
「言わんといて、陽菜ちゃん」
私は今日何度目かの赤面をしたのでした。
そう、うちのクラスは猫カフェと銘打って、給仕をする子に猫耳としっぽをつけたの。もちろん男の子も。・・・そして公平を期するために、クラスの全員がその姿になったのよ。男子は嫌がったけどね。運動部で体格のいい男の子が猫耳をつけて給仕をする姿にお客様の女の子達がキャーキャーと騒いでいたのよね。
そして意外と好評だったということで『カワイイで賞~!』という、冗談みたいな賞をいただいたのよ。
「ねえ、おじいちゃんのクラスは何をやったの?」
「うちのクラスは校内を使ってビンゴゲームでしたね」
「ビンゴゲーム?」
「校内を使うって・・もしかしてあのゲームですか?」
「もしかしなくても、あれか。伝統の校内ビンゴゲーム!」
朱美さんと息子の言葉に私と夫は目を瞬いた。伝統になっているの? あのゲームが?
「ねえ、どんなゲームだったの、おじいちゃん」
「ああ、あれはね、各クラスと部活の出し物を升目を書いた紙に書いて、それの所に行くとスタンプを押せるようにしたものだったんだよ」
陽菜と裕翔がわからないという顔をしている。夫は紙とペンを持ってきてさっと書きだした。4x4の升目を書いてその中にクラスと催し物、または部活名と催し物を書き込んだ。
「こんなものだったかな。それで、この書かれているクラスに行ってそこの催しに参加したり、売っているものを買ったりするとここにスタンプが貰えるんです。1列でも揃えばビンゴ達成で、生徒指導室にくれば景品と交換しましたね」
「生徒指導室? 自分のクラスじゃなくて?」
息子が素っ頓狂な声を出した。驚いているのは分かるけど、声が裏返っていた。
「うちのクラスは他のクラスが使っていましたね。それにカードの配布と景品の交換だけでしたから、場所は狭くて構わなかったですし」
「ああ~、それでか~」
何故かウンウンと頷きだす、息子と嫁。
「なにか問題でもあったのですか」
「あー、問題ではないんだけど、俺達の時には景品の交換場所がちょっと入りにくいところだったんだよ」
「文化祭ならそんなに入りにくい所はないでしょう」
夫が不思議そうに私の顔を見ながら言った。私もそう思う。生徒指導室でも別に入りにくいことはないだろう。
「その、お義父さん、お義母さん。私達が学校にいた時は、景品の交換場所が校長室か理事長室だったんですよ」
「「はあ?」」
夫と二人で間の抜けた声が出てしまった。
「えーと、冗談ではなくて?」
「ああ。俺達の時の校長と理事長がノリノリで、校長室か理事長室を使えと指名で言ってきたんだ」
その時のことを思い出したのか、苦笑いを浮かべる息子と朱美さんでした。
でも私達の時はこのビンゴのおかげで、どのクラスも部活もいつもより盛況だったと聞いていた。地学部なんていつもは展示物を見てもらえなくて閑古鳥が鳴いていたのに、スタンプのためとはいえ足を運んだ人が少なからず興味を示して見てくれたそうだ。
そういうこともあり、夫のクラスは『企画賞』をもらっていたの。
そして、翌年はそういったことをしなかったら『アンケートにビンゴを復活させてください』という言葉が多かったとかで、私達が3年の時に抽選で1年のクラスにビンゴを担当するようにさせたのよ。というのも、カード配布と景品の交換だけならそんなに人数はいらなくて、部活のほうに多く顔を出せて喜ばれたのよね。
などと懐かしく思い出していたら、陽菜たちと夫は文化祭の屋台の話をしていたの。私はそっとページをめくった。そのページも文化祭の写真。体育館のステージの写真だった。もちろんすべてを見たわけではない。これは写真部の友人から買ったものだ。見ることは出来なかったけど、どういったものをやったのか知りたかったの。
次のページをめくって、私はヒクリと口元を震わせた。その写真を目ざとく見つけた陽菜が叫んだ。
「あー! おじいちゃんと、おばあちゃんだ~。ねえ、なんで冠とマントをつけているの? えーと、ベストカップル賞?」
私達の横にある看板の文字を陽菜が読み上げた。
「まあ~。ベストカップル賞をもらったのですか~」
「・・・まさかさ、3年連続でとったなんて言わないよな。そんなカップルってベストコンテストを始めてから1組しかいないって聞いているんだけどさ」
息子の言葉に、私はまた顔を赤くしたと思うの。夫がニッコリと笑って答えた。
「もちろん頂きましたよ。私達以上のカップルがいるわけないでしょう」
夫の言葉に私は顔を俯けた。皆に見つめられている気がするけど、顔を上げることが出来ない。
でも・・・そうなのね。私達以外に3年連続でベストカップル賞を取った人達はいないと。
・・・というか、まだベストコンテストが続いていたなんて。
このベストコンテストは男女のベストを選ぶものだったのだけど、この年夫の交際宣言が男らしいと、夫と私の二人の名前を書いて投票する人が多くて、運営委員会が出した決断がベストカップル賞を用意するというものだった。おかげでまた学校中に私達のことは知れ渡ってしまった。それどころか、私達がただの恋人同士ではなくて婚約者であるということもバレてしまい、新聞部の紙面をかなりの間賑わしていた。
夫が私の手を握りしめてきた。
「そうですよね、久美子」
夫の晴れやかな顔を見て、ずっと疑問に思っていた答えを見つけたと思った。
そう、あの婚約のことは私達以外に誰も知らないはずだったの。中学の親友にさえ話していなかった。では、誰がリークしたのか・・・。
私ではないのは明白だから、残る答えは一人しかいない。
私の視線に夫は笑みを深くしたのでした。




