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今と違うことに改めて驚いている息子一家を、私は目を細めて見つめた。思うところはあったみたいだけど、息子も朱美さんも何も言わずに話を続けるように、私の事を見つめてきた。


「そういう事情で、母は最初の子を失ってしまったのよ。そのあと、またそれほど待たずに妊娠したけど、その子も流れてしまったそうよ。私の妊娠が分かった時も大変だったと聞いたわ。切迫早産しかけたそうでひと月安静にしていたと言っていたわね」


でも、その後は酷いつわりもなく、予定日より2週間ほど早い出産になったこと以外は順調だったと聞いている。


「じゃあ、母さんと叔母さん達の年が離れているのもそれが原因だったりするのか」

「ええ。私の後に二人妊娠したと聞いているわ。一人は死産で、一人は生後1週間しか生きられなかったそうよ。そうしたら父の方が怖がって、しばらくは子供を作らない様にしたと聞いたわ」

「そんなに何度も子供を失っていたのですか。お義祖母さん(おばあさん)はいつも穏やかに笑っていらっしゃったから・・・」


朱美さんが言葉を詰まらせた。息子が朱美さんの肩を抱いて自分にもたれさせるようにした。


「ええ、母は強い人だったわ。どうしても跡継ぎを残したかったみたいなの。だから父を説得して妹達を授かったのよ。でも、望んだ男の子を授かれなくて、酷く落ち込んだそうよ」

「どうしてそこまでして男の子を欲しがったのですか」

「うちが商売をしていたからでしょうね。この辺りはね、娘があとを継ぐなんて考えられない風潮があったのよ。だから跡継ぎを産めないと肩身の狭い思いをしたのよ」

「それっていい迷惑だよな。誰が好き好んで女の子ばかり産むかよ」

「ええ。本当にそう思うわ。だから私が中学に入る時に父に言われたのよ。ゆくゆくは私に婿を取ってこの家を継がせるとね」


そう言ったら皆して夫の顔を見つめてきた。夫は穏やかに微笑んだままだ。


「じゃあ、逆玉の輿狙い」


息子の言葉に私は拳を握るとポカリと頭を叩いた。


「母さん、痛いんだけど」

「あなたはお父さんのことを何だと思っているの? そんなわけはないでしょう。明宏さんはうちのことを考えて婿入りを決意してくれたのよ」

「えっ? もしかしてこの時にはそういう話で結納したのか」

「そうよ。だからよく見なさい。結納品は明宏さん達の方を向いているでしょう」


場所は本当なら夫の家に行って行うはずだった。でも、普通の住宅で結納が行えるような部屋がないということで、我が家で行ったのだ。この写真は祖父が撮ってくれたもの。父はそれを少し残念そうに見ていたのよ。


「父さんはそれでよかったのか」

「私から両親にお願いしましたよ。婿入りすることを」

「おじいちゃんの両親は何て言ったの?」

「しばらく考えてうちだけの問題じゃないと、久美子の家に話し合いにいきました」

「それで?」

「言わなくても解りますよね」


夫はニッコリと笑ったのでした。そうしたら陽菜が夫と私の顔を見比べて聞いてきた。


「えーと、おばあちゃん。その結納をした後、どうしたの」

「どうもしないわよ。普通に高校生活を送っただけよ」

「え~。デートは~、ファーストキスは~」


と言いだしたら、また朱美さんに睨まれて、陽菜は慌ててアルバムをめくったの。

次の写真は高校の制服姿の私達だった。中学の卒業式から三週間。少し髪が伸びたけど、まだ坊主頭の夫と相変わらずおさげに髪を結んでいる私の写真だった。


「高校の制服は、私達の頃と違っていたのですね」


写真を見た朱美さんがしみじみと言った。朱美さんと息子も私達と同じ高校に進んだ。息子たちが入学する三年前に制服の改変が行われたの。私達の頃は紺のブレザーに紺のスカート。胸元はネクタイだった。今はネクタイなのは同じだけど、もう少し明るめの紺色のブレザーにチェックのフレアースカートだ。このデザインをしたのが卒業生の少し有名なファッションデザイナーだとか。ポケットと衿に縁取りがされていて、この制服になってから志望者が増えたと聞いた。


陽菜がページをめくるとフルートを持った私の写真があった。


「おばあちゃん、これは?」

「これはね、フルートよ。私は高校で吹奏楽部に入っていたの」


夫は中学の時と同様に野球部に入ったの。うちの学校の野球部は毎年県のベスト4は当たり前の学校だったわ。おかげでマネージャーになりたがる女子が多かったそうだ。私はマネージャーもいいかなと思ったけど、野球部は部員とマネージャーの恋愛を禁止していると聞いて、マネージャーになることを諦めたの。それなら少しでも応援したいと思い吹奏楽部に入部したのね。


隣のページには私がスタンドでフルートを吹いている写真と夫がバッターボックスに立っている写真があった。


「これはもしかして高校野球の応援の写真ですか」


朱美さんの質問に私と夫は笑顔で頷いた。


この年の野球部は県大会で準優勝だったの。そして夫は1年ながら活躍をしたのよ。準決勝で代打で出てホームランを打ったのよ。


夫は中学の時は真ん中くらいの背の高さで、目立つことはなかった。それが高校に入学してしばらくすると、急に背が高くなったの。それに合わせるように体格もよくなっていったわね。顔も特別にハンサムと言う訳ではなかったけど、いつも穏やかに微笑んでいるような様子に、親しみやすさを感じていた女生徒は多かったの。


それが、県大会で活躍したことで注目を浴びるようになってしまい、私は少しやきもきしたわ。差し入れを持ってくる女子は当たり前にいたし、中にはラブレターを渡したり告白する子もいたのよ。もちろん夫は全て断っていたわ。付き合っている人がいると言ってね。だけど夫は相手が誰か言わなかったそうなの。


私達は高校の1年の時はクラスが別れてしまったの。同じ中学から何人か来ていたけど、私達がつき合っていることを吹聴するような人はいなかった。彼らにとっては私達のことは辺り前だったから。


けれど、夫が注目を浴びたことで、同じ中学の彼らに夫の彼女のことを聞いてくる人が増えたそうなの。でも、彼らは私の事を話さなかったと聞いたわ。それで女の子達はいろいろと調べて相手が私だと知ったのね。私は女の子達に呼び出されて一方的に責められたわ。そして夫と別れろと理不尽なことを言われたのよ。


結局は私の様子がおかしいことに気がついた夫に問い詰められて、私の友人がなにがあったのか話してしまったの。おかげで高校でも皆の前での交際宣言をされてしまったのよね。


これもいい思い出なのかしら?


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