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「ねえ、おじいちゃん。どうだったの」
陽菜の声にハッとした。思い出している間、少しぼーっとしていたようだ。
「別に2人だけで見たわけではないよ、陽菜」
「えっ。じゃあ一緒に星は見たの」
「たまたまだよ。一緒のテントの友達が夜中にトイレに行くのを怖がったから付き添ったら、同じようにトイレに友達の付き添いで来た久美子と会っただけだよ」
「・・・約束して会ったんじゃないんだ~。つまんないの」
「陽菜~、集団行動の中で出来るわけないでしょう。よく考えなさい」
つまらなさそうに言った陽菜に、朱美さんの雷が落ちた。首を竦めた後、陽菜はまたアルバムのページをめくった。次のページは合唱コンクールの写真。それから珍しく妹達と夫と夫の弟たちと写った写真だった。楽しそうにゲームをしているものだった。それからケーキの前に座っている私。多分私の誕生日の写真だと思う。
次のページはクリスマスの時の写真だった。夫の家族と合同でパーティーをしている。
「おじいちゃんの家とおばあちゃんの家は仲が良かったんだね」
そう言って陽菜はページをめくった。次はお正月の写真だった。この年は初めて子供用の着物ではなくて母の若い頃の小紋を着せてもらったのだった。梅の柄の着物に帯は赤い名古屋帯。この着物は今も桐の箪笥の中にある。
次々とページをめくっていた陽菜の手が止まった。その写真を指差して訊いてきた。
「これって就学旅行の写真なの、おばあちゃん」
「ええ、そうよ」
「これって、京都?」
「そうよ。こっちの鹿が写っているのが奈良よ」
「へえ~。お父さんたちはどこに行ったの」
「同じだよ。京都と奈良だ」
「なんだ~、変わらないんだ」
「そうでもないぞ。父さんたちの一つ上の学年は京都と大阪に行ったからな」
「えっ。変わることもあるんだ」
陽菜の言葉に大人4人は頷いた。陽菜は興味深そうに写真をみてから、またページをめくった。
「あれ?」
陽菜が疑問の声をあげた。私もその写真があることに少なからず驚いたの。その写真は夫が野球をしている写真だった。この年、うちの中学の野球部は市の大会を勝ち上がり、県大会に進んだの。だけど準決勝で負けてしまった。多分父が撮った写真だと思うけど、自分のアルバムに入れた記憶がないから首を傾げてしまった。
「もしかして久美子は今までこの写真があることに気がつかなかったのかい」
夫が落胆の声で言ってきた。
「ええ。今始めて気がつきましたの」
「そうか」
肩を落とした夫がいうには、この写真と同じ物を夫も持っていて、私達がお付き合いを始めたと伝えてあった父が、いたずらでアルバムに入れたそうだ。夫もその話を父から聞かされたけど、今まで本当に忘れていたとか。
「ひいおじいちゃんて、おちゃめだったんだね~」
陽菜はそう言うと、またアルバムのページをめくっていった。
そして、また体育祭の写真などがあり、最後のページに卒業式の写真があった。友達と写ったものや、もちろん夫と写った写真もあった。
陽菜は私の1冊目のアルバムを閉じると、さっき途中になったアルバムを開いて、ページを送っていった。そしてさっき見ていたページにくると、ゆっくりと次のページを開いた。学校行事の写真などを軽くみてから卒業式の写真になぜかウンウンと頷くと、次のページをめくった。
「ええ~? これは何をしているの」
と、陽菜が驚きの声をあげた。その写真を覗きこんで同じように驚いた顔を、息子と朱美さんもしたのだった。
その写真は夫と夫の両親、私と私の両親が向かい合って座っているもの。それも私は振袖を着ている。もちろん両家の親も改まった服装だし、夫も高校の制服のブレザー姿だった。事情を知らなければお見合いでもしているような場面に見えることだろう。
「父さん、母さん。俺の見間違いじゃなければ、これはお見合いの時の写真か」
息子が戸惑ったような声をだした。それに夫が穏やかに答えた。
「違いますよ、浩介。お見合いではなくて、結納です」
「待ってくれよ。この時って父さん達っていくつだよ。どう見ても高校生だよな」
「それもハズレです。4月前だったから、まだ中学生でしたよ」
驚いたからって、皆して信じられないものを見るような視線を向けないでほしいわ。
「えーと、何があったのか、差支えなければ教えていただきたいのですけど」
朱美さんがおずおずと言ってきた。私は夫の顔を見た。夫は変わらずに穏やかに笑っている。
「差支えなどないよ、朱美さん。卒業式の前の日に久美子にプロポーズをして、受け入れてくれたので卒業式後に両家の親にそのことを報告したから、こういう形になっただけだよ」
夫はそう言って笑っていたけど、これだけでは絶対意味がわからないだろう。
「父さん、それだけじゃあ、なおさら混乱するだけだよ」
「浩介、事情がね、あったのよ」
「母さん、もちろん何かあったのかは分かるよ。でもこれじゃあ」
「もちろん話すわよ。そのためには私の両親のことを話さなければならないのだけどね」
「じいさんたちのこと?」
「ええ。アルバムに二人の結婚の写真があったのを覚えているでしょう。二人は昭和39年5月2日に結婚をしているわ。でも長女である私が産まれたのは昭和42年の11月18日よ。少し間があると思わない」
「それって、単に子供が出来なかったんじゃなかったのか」
「いいえ。母は結婚してすぐに子供を授かっていたわ」
「じゃあ・・・」
息子は言葉を詰まらせた。
「その前に少し両親のことを話すわね。うちの父は昭和9年生まれだったのよ。7人兄弟の3番目で上二人が女子ということもあり、待望の男の子だったようよ。それなのに中々結婚が出来なかったの。母と結婚した時には父は30歳になっていたそうよ」
「確かばあさんと歳が離れていたよな」
「ええ。9才離れていたそうよ。だから母は21歳で嫁いできたの。それでね、すぐに子供が出来たけど、その子は流してしまったのよ」
「流産なさったのですか。えっ、堕胎ですか」
「ああ、ごめんなさい。紛らわしい言い方をしたわね。流産のほうよ。妊娠に気がつかない状態で車に揺られたせいだったのですって」
「車に揺られた?それだけで流産したの?」
息子が分からないという顔をしている。朱美さんも困惑した表情だ。
「そうね、あの頃のことを知らないと判らないわよね。さっきの写真に外で遊んでいた写真があったでしょ。石蹴りの写真。あれってどこで遊んでいたと思う?」
「神社とか空き地とか?」
「違うわ。道で遊んでいたのよ」
「道? 道って道路のことなの、おばあちゃん」
「ええ、そうよ。あの頃は今みたいにアスファルトで舗装されているところは、凄く少なかったの。土の道で小石がゴロゴロしているところが多かったのよ。それに、土だから弱い所は抉れて少し深く掘れたようになっているところも、たくさんあったのよ」
「じゃあ、車に乗っていても今みたいにスムーズに走るのではなくて、ガタガタ道を走っていたのですか」
「そうだったと聞いているわね」
私は微笑んで肯定した。




