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私は一つ溜め息を吐き出した。もう済んだことだし、遥か昔のことだ。それに当時気がついていたとしても、私が夫を好きなことに変わりはなかったのだろう。


うちに婿入りすることを決めてくれた夫に、私はずっと済まなく思っていたの。まだ15歳だったのに覚悟を決めてくれた夫。


『昔は15歳といったら成人していたんだよ。だからね、俺は決めたんだ。一生を久美子と過ごしたいと思う。だから、高校を卒業したら俺と結婚してほしい。』


そう言ってプロポーズしてくれた。

父に言われたあの日から、ずっと頭の片隅にあったこと。


『私が婿を取って家を継ぐ』


だから、夫の交際宣言はうれしかったけど、いつかは別れないといけないと思っていた。夫の言葉に返事が出来なくて私は泣きだした。場所は夫の家のリビングだった。夫の弟たちは友達のところに遊びに行っていて、二人っきりだった。


夫は泣きだした私を抱きしめて落ち着くのを待ってくれた。私が泣き止んで、そして、夫の言葉を受け入れられないと言ったら、理由を聞いてきたの。私は父に言われたことを正直に話した。私の言葉を聞いて夫は少し考えてから、ニッコリと笑った。


『それなら俺が久美子のところに婿入りすればいいだけだろ』


事も無げにそう言ってくれたの。私はそんな簡単な話じゃないと言ったけど、夫に重ねて聞かれた。


『久美子は俺と結婚するのは嫌かな』

『もちろん、できることなら明宏君と一緒にいたいよ。でも・・・』

『それならなんの問題もないだろう。俺と久美子の気持ちが決まっていれば、親を説得するのも簡単だよ』


そうして夫は両家の親を説得した。うちの両親も知らない相手に跡を継がせるより、小さい頃から知っている夫ならと快諾したそうだ。


「久美子?」


返事をしなかったからか、夫が心配そうに聞いてきた。私は思い出すのをやめて夫のことを見つめた。あれから長い年月が経った。結婚をして子供を産み、今は孫までいる。髪も白くなり、お互いに染めていることを知っている。いつも穏やかに微笑んでいるから、目尻にはしわが刻まれていた。


でも、昔から変わらない笑顔が私を見つめていた。


「ごめんなさい。少しあの頃を思い出していたのよ。確か私達が入学した年から、ベストカップル賞が出来たのよね」


そう言ったら、目に見えてホッとした表情を夫はした。


「そうだったね。そう考えると30年以上続いているのだね」

「ああ、去年もコンテストをやったと聞いたよ」


息子がこう言ったのにも理由がある。息子の同級生の子が教師になり、あの学校に赴任したそうなの。だから、たまにその子と飲みに行き、彼の愚痴を聞かされているらしい。若い彼は、若いという理由で生徒会顧問という立場を押し付けられたとぼやいていたとか。


「じゃあ、陽菜が高校に入った時もまだコンテストはあるんだよね」


陽菜が勢いこんでいった。陽菜は今小学5年生の10歳だ。あと5年後に高校に入学する。きっとその時にもまだ続いていることだろう。


「多分な。というか、今は凄いことになっているらしいぞ。(キング)女王(クイーン)王子(プリンス)王女(プリンセス)を決めるんだと。他に、ミス ミステリアスとか、ミスター クールとか、わけわからんことになっているんだってさ」

「まあ~。なんでそんなことになっているの、あなた」

「う~ん、確か生徒から、『今は価値観はいろいろだから一人づつ選ぶのはおかしいだろう』ということを言われただったかな」


息子が首を捻りながら答えていた。確かに価値観はいろいろあるものね。でも、物は言い様だと思うの。


「じゃあ、陽菜もベストカップルを目指すの!」

「・・・その前に陽菜。相手を見つけないとね」


陽菜の宣言に朱美さんが冷静にツッコミをいれたのでした。


私はその様子に笑いながら、ページをめくっていった。学校の行事以外にも、友達と出かけた時の写真や家族との写真もあった。


服装で季節の移り変わりがわかる。秋を過ぎ冬になり、年を越したのか着物を着て友人達とおみくじを結んでいる写真があった。もちろん夫を含めた男の子たちもいた。


そしてまた春になり夏に向かう。また私のスタンドでの応援している写真と夫の野球をしている写真が並んでいた。


それから体育祭の写真。夫は2年の時も応援団員に選ばれていたから、前に出て応援の手本を見せていた。私達は2年と3年で一緒のクラスになった。それで、私も応援の時にチアリーダーの恰好をして前に出ていたの。最初夫は私がチアリーダーになることに反対した。けど、クラスの皆が私の味方になってくれて私はポンポンを持って応援をすることができたのよ。


文化祭はうちのクラスはお化け屋敷だった。吹奏楽部のほうは、外でポップコーンを売っていたの。毎年どの部活が何を売るのか決まっていたの。野球部はフランクフルトだったかな。私が買いに行ったら、夫が手渡してくれたの。お金を取ってくれなくて、軽い言い合いになったら周りから冷やかされたのよね。結局夫のおごりということになったのだったわね。


そのあと就学旅行の写真があった。うちの高校は2年生の時に行ったの。場所は九州だった。博多に着き大宰府天満宮に寄り、そのあと長崎に行った。そのあとは熊本の阿蘇山を眺めて大分に行ったの。帰りは寝台特急だった。皆寝台車に初めて乗ったとかで、興奮して眠れなかったの。


そして、また年を越したのか家族が集まっている写真があった。おせち料理はあるけど華やかさがない。私達姉妹が着物を着ていないのも大きいだろう。


着物を着なかったのには理由があった。写真にはなかったけど、高2の時に祖父が亡くなった。4月のことだった。あの日は授業中に突然校内放送が流れて、私は名指しで職員室に呼び出されたのだった。

職員室に行くと母からの電話だった。祖父が亡くなったという連絡だった。早退して家に帰るようにと言われたの。

学年主任の先生が先に母と話していたようで、電話が終わるとすぐに早退するように言ってくれた。


教室に戻り帰り支度をして教室を出たのは覚えていた。だけどそのあと、どうやって自宅に帰ったのか覚えていない。気がつくと自宅の居間で夫がそばにいてくれた。私の様子が心配で早退してくれたそうだ。震える私の手をずっと握ってくれていた。


しばらくしたら妹達が帰ってきた。そこで我に返った私は、床の間の部屋の片づけをした。と言っても、もともと散らかっていたわけではない。そこにある仏壇を忌が明けるまで閉じておくのだと、前に聞いたことがあったのだ。なのでお供花を出しておこうと思ったの。


妹達は私達がいることに一瞬喜んだけど、いつもと様子が違うとおとなしくしていた。


それから程なくして、祖父を連れて父達が帰宅したのだった。



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