85章 墓参り―――六百七十五年・十月八日(八)
ぱさっ。「遅れて済まないね。相変わらず悪い姉だな、私は」
例の『適合者』の経歴は昼前にFAXで届けられた。確認後、娘に留守を言い渡して外出。そして今に至る。
身長の低かった彼女らしい、小さくて可愛らしい十字架だ。数日前にも訪問者があったのか、墓碑には萎びた百合の花束が添えられていた。
「まさか、墓の下のお前にまで迷惑掛ける羽目になっちまうとは……御免よ」
籍を抜き家を出ても、彼女は紛れも無く大切な家族だ。勝気で哀れなルーシーと同じく。
彼女に対面するため、無粋な変装は墓場の前で解いていた。幼い頃と同じ、何処か埃っぽい空気が素の頬を撫でる。
―――寒いね。ほら、これ着な。
―――ありがとう。
―――そろそろ帰りましょう。―――の身体に障るわ。
性格の全く違う私達は、それでもいつも一緒だった。家庭の事情で私が、続いてルーシーが実家を離れるまでは。
「……大丈夫だよ。私の命に代えても、あの子は必ず助ける……だからゆっくりお休み、おチビちゃん」
背後に人ならざる者の気配を感じ、私は振り返った。無言のまま隣を通り抜け、墓地の入口へ向かう。
「与えられた使命を全うするのです、“赤と舞う者”よ」「ケッ!仮令殺されたって御免だね」
初対面の時と一ミリも変わらないシスターへ下向きに親指を突き付け、足早に安息の地を後にした。




