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75章 狼の回想・後篇―――六百七十五年・十月七日(十四)



 ガタン!「「「!!?」」」


 俺は慌てて電源を切り(それはもう念入りにな!)、携帯を閉じて息を殺した。ここで見つかったら確実にヤバい事になる。ひしひしと感じる命の危機に全身の毛が逆立つ。

「め、メアリー……」

 持ち前の聡さで察したんだろう、親父の声は明らかに震えていた。対する女細菌学者は相変わらず飄々と言う。

「どうやら大きな鼠が入り込んだみたいだね、コンラッド。―――まあいいじゃないか。殺生は余り好きじゃない」

「え、ええ……私も全く同意見です。あ、降りて来ました!」


 バタンッ!「ママ!」「キュー!」ぎゅっ!




「ちょ、ちょっと待ってよ!?その時既にキュー先生は今の状態で、しかも自分から『Dr.スカーレット』に抱き着いたって言いたいのか!!?」

「んな事で嘘吐いてどうする。確かに先公はそう言って、自分からリムジンへ乗り込んだんだ。どうも殺人犯とは現地解散だったみたいだな。三人と俺を乗せて、車は船着場へ向かった」

 何て奴だ……こんな大事な事実を、今の今まで黙っていたなんて!!

「睨むなよ。言うに言えなかったんだ。どう言い訳したって、結局誘拐を止められなかった事には違いない。最悪、奴等の仲間だって誤解されても」

「だからせめてキュー先生を連れ戻そうと、昨日今日と一人で『ホーム』へ行ったんだね」溜息。「全く、一言相談すれば済む話だろ?」

 いや、そうでもないのか。もし僕から情報が漏れて、理事長先生が政府に捕まったら。

「……御免」

「何勝手に謝ってるんだよ?別に俺は親父がムショにぶち込まれようが、処刑されようが関係無え……自業自得だ」

 素直じゃないな、本当。

「で、三人はそのまま衛星二十四番へ?」

「いや、親父は残った。―――何時までも閉じ込めたままじゃ、可愛い鼠ちゃんが窒息するだろう?そう奴に言われてな」

 親友の気持ちになってみると、一生に何度も無いスリリングな夜だ。だからと言って僕に責任は一切無いぞ。

「親父は帰宅後、リムジンをガレージでなく玄関前に置いた。そして家に入る前、トランクを叩いて―――これは私達の問題だ、巻き込んで済まない、頼むからお前だけは平穏に暮らしてくれ―――って言われた」

 ふーっ。最後の秘密と共に、深い溜息を吐く。

「隠していた事は以上だ」

「待て、まだ一つ言ってないぞ?昨日の朝、あんな傍迷惑な事をしでかした原因の夢の話」人差し指を突き付ける。「もう内緒は無しだぞ?」

「あぁ……あれか。お前と似たようなもんだよ」

 頭をポリポリ。

「気付いたら二人に後ろから身体を押さえ付けられてて、手術台に固定されたお前に注射器を刺すよう言われたんだ。メアリー様の命令だ、逆らう事は赦されない、って必死の形相でな。幾ら抵抗しても鉄の塊みたいに全然振り解けなくて……針が皮膚を貫いて、のたうち回る全身に見る見る発疹が……胸糞悪ぃ夢だ」

 何処が似ているんだ!?夢の中で人を殺しておいて!大体それって言うのは悪いが、


「ほら、衝動的に安全確認に行っても仕方ない状況だろ?心配し過ぎでパンツも替えていかな」「心理学的に刺すって、性行為の暗喩らしいよ」キッパリ。「このド変態」


 僕の反撃に、暫し口をパクパクさせる親友。

「う……先にシャワー浴びる。片付けは任せた」

「はいはい」

 やれやれ、今ので少しは反省したか?にしても、隠し事があっても無くても大して変わらないな、あいつは。

(でも……アパートを出るまでの短時間で洗脳なんて、本当に可能なのか?)

 瞼に残る眩しい笑顔を思い出しながら、食器洗いのために腰を上げた。




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