62章 熱夢―――六百七十五年・十月七日(一)
夢を見た。昔の友達の夢だ。
一時期住んでいた社宅の近くには、狭いけれど遊具の揃った公園があった。そして彼、ポチはそこに長く棲み付いているようだった。
僕等は毎日一緒に過ごした。ポチは老齢で足腰も弱く、散歩も殆どしなかったけれど、僕の話にいつも頷いてくれた。時々水道で身体を洗ってあげると、嬉しそうに顔を舐めてくれもした。
―――でも、とうとう別れの日はやってきてしまった。
僕は父に最初で最後のお願いをした。けれど彼は困った表情を浮かべ、首を横に振るばかり。今考えればその判断は適切だ。ポチはもう環境の変化に、僕等の放浪生活に耐えられる年齢ではなかったのだから……。
何時の間にか景色が変わり、現在住んでいる部屋に移動していた。ベッドの向こうには丸くなったポチが、灰色の塊が佇んでいる。多少縮尺がおかしい気もするけど、これはきっと夢なんだ。
「ごめんね、ポチ……」
あの時もっと強く抵抗していれば、何か変えられた気がずっとしていた。少なくとも、君を孤独なまま死なせずに済んだ筈なのに……。
手を伸ばし、昔のように毛に触れる。温かい。きっと天国では餌を沢山貰えているんだろう。そう思うと少しだけ救われる気がした。
「―――ずっと」
ふるふる、毛玉が動く。
「ずっと傍にいるから、もう泣くな」
優しい言葉に包まれ、安堵した僕の意識は再び途切れた。
そして別な夢を見た。
―――お食べなさい。主に愛されし仔等よ。
後光で真っ黒なシスターが、彫刻のように完璧な掌を差し出した。その先にいた幼い三姉妹が順番に手を伸ばし、次々と包み紙を開く。
―――ありがとう、シスター。
口々に礼を言う彼女等に、影となった使徒は微笑みながら告げた。
―――礼など要りません。運命の赤はあなた方を選んだのですから、と。




