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51章 資料室の異邦者再度―――八百年・二月(二)




「で、今度は何を調べに来たんだい?小さな国の小さな女王陛下」


 二度目ですっかり慣れた厭味を聞き流しつつ、書棚に突っ込まれた事件資料の時系列を遡る。

 ズズズ……ラントの曽祖父の啜るコーヒーと、古いインクの匂いが鼻腔を交互に刺激する。

「六百七十五年前後、ある音楽女教師が巻き込まれた事件について。―――うん、多分これだね」

 一際分厚いファイルを引き出し、パラパラ捲る。横から彼も覗き込んできた。

「『S事件』、か。すると女教師と言うのは、キュクロス・レイテッド……息災かい、彼女は?」

「今の所は。でも」ぱらっ。「とうとうお迎えが来ちゃったみたい」

「そうか……あれからもう百二十五年か。長く生きたね。彼の―――ハイネ・レヴィアタの望み通りに……」

 その名前は幼い顔写真と共に、事件経過の文面に何度も登場した。お婆ちゃんの出来の良い教え子にして、勇敢な―――『Dr.スカーレット事件』の、一番の被害者として。

「僕が言えた義理ではないが、どうか手厚く看取ってあげて欲しい。彼女にはもう……誰も身内がいないんだ」

「まあ一世紀軽く余って生きていればね」

 沈黙の中、ページを捲る音だけがしばらく響く。一度コーヒーを継ぎ足しに行った彼が、戻って来て尋ねた。

「ところで、以前の資料は役に立った?」

「まあね」良し、読了。「生憎まだ治療中だけど」

 妹の話では、想定通り芳しくないらしい。かと言って、現時点で他人に出来る事はほぼ皆無。今は一人で立ち向かわせるしかない。

「治療?では、矢張り彼は」

「まさか」

 やんわり否定し、頭に入れたばかりの資料を棚に戻す。白いカーネーションの花言葉は、尊敬と純愛。成程。あの武芸者、相当お婆ちゃんを大切に想ってくれていたらしい。ならば見送る私達も、精々その気持ちに応えるとしよう。





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