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44章 冬空の下―――八百年・二月(一)




「女王」「ん?」


 振り返った先にいた賢狼フィジスは、険しい顔付きで冷たい地面に座る。

「宮廷魔術師の事で、少し相談がある。―――最近、彼女が一人で頻繁に墓地に赴いているのを知っているか?」

「女性の後を付けるなんて良い趣味してるね、フィジス」

「ち、違うぞ!誤解するな。儂はただ心配で様子を……」

「ふーん」

「止めてくれ、貴女の邪推は本気で得体が知れぬ」焦りからか、前脚で顔をガシガシ撫でる。「―――墓に語り掛けていたのだ、ずっと。あれは危険な兆候だ。若しや、あちらに取り込まれかけているやも」

 ああ、成程。道理で最近ニコニコする頻度が高かった訳だ。

「そう言う事もあるよ。お婆ちゃん、もうすぐ百五十歳だもん」

「心配ではないのか、貴女は?」怪訝に問う。「家臣の健康の事だぞ」

「だからって、動かない椅子に縛り付けてなんておけないでしょう?立派な老人虐待だよ、ね、ボビー?」

「くぅん」

 近しい種族の同意に、そこまでは儂も言っておらぬ、弁解する。

「流石にこれ以上寿命が伸びるとは思わん。だが、ああも話を弾ませている所を目撃してしまうと……」

「秘密の一つや二つあるよ、誰でもね。―――そう深刻な目をしないでよ。分かった、機会を見つけて一度話し合う」下世話な獣め。「それでいいんでしょ?」

「ああ、宜しく頼む」フンフン鼻を動かし、「さて、心配事も片付いた。穴倉で寝直してくるとしよう」

 無責任な狼の王は、そう呟いていそいそと小雪のちらつく帰路を歩き去った。




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