38章 罰と礼―――六百七十五年・九月(二)
「人を巻き込むなよ。新学年早々、僕まで目を付けられたじゃないか」
お陰で式の退屈は回避出来たが(勿論皮肉だ)、代償に半時間正座で担任の説教を聞く羽目になった。しかも放課後、特別教室棟への渡り廊下の掃除付き。更に諸悪の根源である悪友は、ただでさえ五冊ある宿題のペナルティを三冊も増やされた。
―――二-Aへようこそ。最初に言っておくが、俺は他の先生方と違ってテストの成績に関しては厳しいぞ。まぁそこの馬鹿共含め、元一-B組は既に嫌って程知っているだろうがな。
一年の教室とほぼ同じ構造の二-A。その教壇に立ったベーレンス先生は、開口一番そう忠告した。僕が思うに、この挨拶さえ改善すれば少しは好かれるのではなかろうか。イケメンで頭の回転も早く、何より動物好きなんてかなり高得点だ。
―――それとダイアン。今年の体育祭、競走系は全部出場しろ。俺は去年みたいなギリギリの勝負は好かん。担任命令だ、いいな?
それから僕を睨み付ける。
―――駄犬の世話は任せたぞ、レヴィアタ。しっかりやらんと内申下げるからな。
いたいけな生徒を堂々脅迫って、この学校は本当に一体どうなっているんだ!?
そんな訳でホームルーム後、僕等は箒と塵取りを手に現場へ直行した。今日は半休で弁当も持っていないので、昼はいつも通りハンバーガー屋へ行くつもりだ。ついでにドリルの一、二冊も片付けよう。担任から与えられた期限はたったの一週間。しかもどうせ家では一切やらないだろうから、更に制限時間は厳しい。
「なあハイネ、お前と俺との仲だろ?半分それっぽくやってくれ」
「筆跡でバレバレだよ。大体全然字が違うじゃないか。おまけにそんなにやらせる気か?」
「スペシャルバーガー頼んでもいいからさ。興味あっただろ?」
「……シェーキーも付けてくれるなら、善処しなくもない」
「よっしゃ!流石我が心の友!」
まぁ手伝いはこれが初めてでもない(春休みの時は結局七割近くこっちがやらされて、提出時に担任から殺意込みで思い切り睨まれた)。更なるとばっちりを受ける前に手を打っておこう。但し前回同様、手伝いがたった五十パーセントで済む保証は殆ど無いに等しいが。
箒で落ち葉を掃き、塵取りでビニール袋へ入れる。夏季休暇中一度も掃除していなかったらしく、集めても集めても中々綺麗にならない。流石罰なだけはある。
「大体、何で僕を巻き込んだんだよ?」
「いいじゃんか別に……あれ、誰か気付いてたか?」
「さあ。多分大丈夫だと思うけど」
あれだけ騒いで目立ったんだ。たかが教師一人の居眠りなんて、仮令見つかっていたとしても忘れ去られたに決まってる。
(でも意外だな。てっきり毛嫌いしていると思ってたのに)
手段はともかく、その愛情は素直に評価に値する。
「やあ二人共、御苦労様」「あ、理事長先生」
近くで見ると、目の下にはうっすら隈が出ていた。スーツからはコーヒーの香り。どうやら眠気覚ましに濃い奴を飲んできたようだ。
「はは。罰に居残り掃除とは古典的だなあアダ、ベーレンス先生は」
「昨日はお楽しみだったのかよ、オッサン。まだ目が虚ろだぞ?」
「いや……少し野暮用で徹夜してしまってね。昔は平気だったんだが、矢張り年には勝てないな」
辺りを見回しながら口元に手を当て、控えめに欠伸。
「でも大分綺麗になったね。感心感心」
「いえ、当然の事をしているだけですから」少なくとも親友は。
理事長先生は微笑み、鼠色の頭の頂に腕を伸ばす。息子は振り払わなかった。
「―――助けてくれてありがとう、ロウ。嬉しかったよ」「止めろよオッサン、気色悪ぃ」
ぶっきらぼうに言いつつも、満更ではない様子で撫でられる。
手を放した父親は、もう片手に持っていた金のラベルの平たい黒箱を差し出す。
「私からのお礼だよ。後で皆で食べなさい」
「餓鬼じゃあるまいし。やる」
「わっ!?」
投げ付けられた拍子に、中からカラカラ音がした。どうやらチョコレートのようだ。パッケージから推察するに結構高そう。先輩方に貰ってばかりも悪いし、偶にはお裾分けしよう。
再度息子と視線を交わし、じゃあ邪魔したね、頑張るんだよ、ナイスミドルは颯爽と校舎へ戻って行った。




