表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/170

35章 意外な動物愛護者―――六百七十五年・八月(二) 




「にゃぁおん❤」「よしよし、良い子だな」


 ふわふわのタオルで全身を拭かれながら、凄く気持ち良さそうに身悶える白猫。洗われたらしく、毛並みがまだ少し濡れて貼り付いている。

 だが、それは正直些細な事だった。ミーコを満面の笑顔で膝に抱えていたのは誰であろう。中等部一のテスト至上主義者、堅物極まりないと噂の元担任(先月末で一年生が終わったからだ。二年生でも当たらない事を切に祈ろう)だった!

(う、嘘だろ。あのベーレンス先生が……?)

「にゃーお」

 気配を感じたのか、ミーコが腕から飛び出し、こちらへトコトコ。釣られて視線を移動させた本人と目が合う。

「―――何だ、お前かレヴィアタ。脅かすな」安堵の息を吐く。「教師かと思っただろ」

「ベーレンス先生、ミーコを入浴させてくれたんですか?」

「ああ。宿直室のシャワーでこっそりな」

 猫の首根っこを掴んで抱え上げ、咽喉を撫でる。ゴロゴロゴロ。

「珍しいですね。人見知りのミーコがこんなに懐くなんて」しかもこんな仏頂面に。

「見ての通り無愛想だが、昔から動物にだけは好かれるんだ。意外だろ?」

「ええ―――っ!!?」

 慌てて口を押さえた僕へ、教師は自虐的に笑う。

「評判が悪い事ぐらい知っているさ。教師共の間でも、取っ付き難いとしょっちゅう陰口叩かれてる。お前の所のアンダースンとは真逆だな」

 彼の隣に座り、当初の目的である猫缶を開ける。食事は貰っていなかったのか、勢い良く餌にがっつく。

「こいつを見ていると、クローディアを思い出すな」

「先生も猫を飼っていたんですか?」

「……親友だ。大分前に死んじまったが、今でも時々夢に出てくる」

「それは、木咲先生と住んでいた孤児院で?」

 すると元担任は目を閉じ、皮肉気に唇を曲げた。


「―――ああ、そうだ。俺とクローディア、桜、それに……あの場所で俺達は、ずっと平和に暮らしていける筈だったんだ。なのに……!」


 ガンッ!拳を芝生に叩き付けた衝撃で、ミーコと缶が一瞬宙に浮く。

「済まん。つい厭な事を思い出しちまった。お前も驚かせて悪かったな」

 硬直した彼女を撫で撫で。ふにゃー。穏やかな笑顔で謝る。

「生徒よりよっぽど好きなんですね。なのにどうして教師を?」

 動物と関わるなら獣医や調教師や、他にも色々職業はありそうなものだが。

「人のプライベートを探るな。内申下げるぞ」

 得意の決め台詞を放ち、後頭部に両手をやる。

「ああ、自分でも重々承知しているさ。人間って奴はどいつもこいつも阿呆のくせに口ばかり達者で、一緒にいるだけでドッと疲れちまう……『彼女』達を除いてはな」

 溢れ出す愛情の言葉に、厭でもピンときた。同じ孤児院出身なんだ、以前木咲先生が言っていた、ベーレンス先生の愛する人も。

「では御両親も?」

「そうだな。前も桜が言っていたが、俺達は親に好かれてなかった。お前はどうだ、レヴィアタ?」藍色の瞳が真摯に問い掛ける。「親ってのは、離れていても大事と思える物なのか?」

「少なくとも僕はそうです。実は今日も―――」

 父の訪問の話をすると、ベーレンス先生はとても眩しげに僕を見つめた。

「泣き虫なんだな、お前の親父は。だが、少し羨ましくもある……って、生徒にする話じゃなかった。済まん」

 そのまま校則を無視しドサッ、芝生に寝そべる。カッターシャツ越しでも引き締まり具合の分かる腹部に、口の周りを舌で綺麗に舐め終えたミーコが擦り寄った。

「ところで、相変わらず仲良しこよしなのかダイアンとは」

「弁当目当てで懐いているだけですよ。向こうはバーガー目的だって言うに決まってますけどね」

 僕の返答に、珍しくゲラゲラ笑う元担任。

「いやいや、違いない。だが、イチャイチャも程々にしといた方がいいぞ?奴のお父様が最近えらく心配してるからな」

「理事長先生が、ですか?」

「こら!……まぁそう言う事だ。全く、人に厄介な荷物押し付けたその口で、あの子達はデキてるんじゃないかとか。俺が知るかよ、なあ?」

「は?デキてるって……僕とロウが?まさか」

 いや。よく考えてみると、理事長先生がその発想に至っても全然おかしくない。毎日いそいそと弁当を手作りし、授業中や昼休みも大体一緒。しかも何だかんだ言って、長期休暇中も五日と空けず会っている……何処からどう見ても、立派な付き合いたての恋人同士だ。でも絶対違う!僕にはキュー先生と言う立派な女性がいるんだ!!

「そう言えばあいつ、最近やけに髪型に拘っているような」

「止めて下さい!向こうはともかく、僕にそっちの趣味はありません!!」

「にゃあ?」

「本当だってばミーコ!信じておくれよ!!」

 猫相手に反論するのを眺め、数学教師は又も心底愉快げに笑った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ