34章 父との再会―――六百七十五年・八月(一)
「済まないな。半年以上もお前を放っておいてしまって」「別にいいよ父さん。僕も色々忙しかったから」
ようやくの休日を使って訪れた父と、ルナ小母さんの腕によりを掛けたランチを食べた後。船着場へ戻る傍ら、僕達は空白の十ヶ月間を埋めるように語り合った。
「お前が世話になっている先生にも、出来ればお会いしたかったんだが」
「仕方ないよ。アラン先生、夏休みは陸上部の遠征や出張で殆ど家にいないから」
「そうなのか……教職も大変だな。ところで夏休みの宿題はもう出来たのか?」
「大体ね。残りは明日友達と一緒にやるつもり」
向こうはどーせまだ全部白紙だろうし、休みはまだ二十日以上ある。焦る必要は全く無い。
「友達……か、そうか」
改札を抜けると、父の乗る定期船は既に到着していた。旅行鞄を左手に、仕事場へ帰る彼はやや気落ちした様子で笑む。
「わざわざ見送ってくれてありがとう、ハイネ。また電話する」
「父さんも無理して身体を壊さないでね。あ、そうだこれ」
僕はタッパーの入ったビニール袋を差し出す。
「オムライス。寮に帰ってからでも食べてよ」
「気を遣わせて済まん……有り難く頂かせてもらうな」
父さん、こんなに涙脆かったっけ?目頭を押さえて受け取る彼を見つめながら、ふと思う。僕と違い、初めての単身赴任で寂しいのかもしれない。
(にしてもこれぐらい喜んでくれれば、こっちも作り甲斐があるのになあ)
最近すっかり舌の肥えてきた不良学生を脳裏に浮かべ、心の中で苦笑する。
そうこうしている内に出発のベルが鳴り、父は名残惜しそうにタラップを登り始めた。途中で一度振り返り、困った事があったら何時でも連絡してくるんだぞ!今生の別れでもないのに涙声で叫ぶ。
「うん!父さんも、身体だけはくれぐれも気を付けて!!」
出入口に肉親の姿が消えるまで、僕はひたすら手を振り続けた。
見送りを終え、帰宅前に夏休み中の学園へ向かう。理由は至極簡単。今日は僕がミーコの餌やり当番だからだ。
コンビニで肉風味の猫缶を調達し、裏門から敷地内へ。運動場ではサッカー部とテニス部が汗だくで練習している。一足早く大会を終え、ほぼ休業中の声楽部とは雲泥の差だ。
「ミーコ、ご飯持って来たよ」
そう囁きながら中庭の秘密エリアへ足を踏み入れ、すぐに異変を察知した。雌猫が何時に無く気持ち良さそうにゴロゴロゴロ……と鳴く声が聞こえてきたからだ。
(遊んでいる?でも)
キュー先生は“蒼の星”へ二泊三日の出張中だし、ロウも今日は用事があると言っていた。なら、一体誰だ?
なるべく足音を消しながら、ゆっくり声の方へ近付く。そして数十秒後、俄かには信じられない光景に出くわした。




