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31章 奇妙な親類達―――六百七十五年・七月(一) 




「大丈夫か、ハイネ?」「はい……」


 壬堂先輩がくれたスポーツドリンクの残りを一気飲みするも、緊張で相変わらず咽喉がカラカラだ。

「ここまで来たら、後はどれだけリラックス出来るかだぞ。もう一度一緒に深呼吸するか?」

「お菓子もう一個食べる?」

「チョコチップも美味しいよ」

 言いつつクッキー缶を開くソプラノペア。

「まだ発表まで時間がある。うちのパートナーみたいに外の空気でも吸ってきたらどうだ?」

 バスの先輩の提案に頷く。

「そうですね。じゃあ少し席を外させてもらいます」

 控え室を出ようとすると、部長が小銭を掌へ握らせた。

「ホールの玄関辺りにカフェテリアがある。キュー先生はそっちで一息入れてる筈だ」

「済みません壬堂部長、気を遣わせてしまって」

「謝るな。俺達の中一の頃は、お前よりよっぽど酷かった」ぽんぽん。「気にするな」

 見送られながら廊下に出、うろ覚えの脳内地図を駆使してロビーへ向かう。―――が、予想通り広過ぎて迷子に。気が付いて周囲を見回すと、全く見覚えの無い通路に立っていた。


「おい、ユージーン。本当に会場はこっちでいいのか?」「見事に迷いましたね。運良く従業員が通り掛かってくれるといいのですが……」


 十数メートル先、角の向こうから男性二人の声がする。どうやら僕と同じ遭難者のようだ。と、今度は後方から聞き覚えのある男女の話し声が近付いてきた。


「あら、ハイネ君。もしかしてあなたも迷子?」「ルナ小母さん!コーディー小父さんも」


 シックな白のワンピースと黒スーツに身を包んだアンダースン夫妻は、そう言ってキョロキョロと辺りを見回す。

「も、って、誰かお捜しなんですか?」

「ええ。知人の親子なのだけれど、二人共余りこう言った施設へ出向かないものだから」

「観客席で待ち合わせたんだが、案の定いなくてね。それらしい男性の二人組を見なかったか―――ああ何だ。そこにいたんですか、ルマンディ博士」

 角から現れたのは、如何にもインテリ然の雰囲気を漂わせたペアだった。顔立ちは余り似ていないが、漂う雰囲気はそっくりだ。

「やあ、アンダースンさん。今日はお招きありがとう。悪いね、到着早々迷惑を掛けてしまって」

 よく見ると、四十代後半の父親は左手首から先が無い。お陰で片側だけ袖が余っている。首からは約五センチの砂時計のペンダント。年齢以外でパッと目に付く相違点はそれぐらいだ。それ程二人は特徴が無く、且つそっくりな目をしていた。

「別に構わないわ。ユージーン君も、少し会わない間に随分大きくなったわね。もうすっかりあなたの片腕かしら、ダン?」

「ええ。大学を卒業してから、寝食を惜しんで手伝ってくれていますよ。死んだ母親に似て熱心な子で助かります」

「まだまだ父さん程じゃないですよ。僕ももっと勉強して、早く『あれ』の研究をしないと」

 親子揃って研究職なのか。一体何の専攻だろう?

「ところで、こちらの学生さんは?」

「ああ。以前電話で言っていたハイネ君だよ。彼もキューちゃんの部の一員なんだ」

「へえ、そうなんですか。―――初めまして、私はユージーン・ルマンディ。こちらは義父のダン。レイテッド先生、キューちゃんの遠い親戚……と言った所かな。決勝でシャバムに来ると聞いて応援に来たんだ。宜しく」

「こちらこそ」

 息子さん、続いてお父さんと握手を交わす。

「そうだ。キュー先生ならロビーのカフェテリアにいるそうですよ。一緒に行きましょう」

「いや、それはいいんだ」

「?」

「私達が来ている事、彼女には内緒にしておいてくれ。身内に見られていると知ったら、余計に緊張させてしまうからね」

 ダンさんは控えめに、しかしキッパリと言い切った。

 大人四人の後ろを付いてロビーまで行った所で、アンダースン夫妻がこちらを振り返る。

「ハイネ君。ルマンディ博士達とも合流出来た事だし、私達はそろそろ観客席の方へ行くわ」

「頑張るんだよ」

「はい」

 彼等と別れた僕は、チケット売り場の横のカフェへと向かった。




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