25章 墓標での再会―――八百年・一月(四)
(本当、あの時は楽しかったなあ……)
通販の梱包作業が忙しいとかで、今日は久し振りに付き添い無しの外出だ。ゴトゴトゴト……不完全な舗装の道に、車椅子が小刻みに揺れる。
最近、よく教師時代の事を思い出す。懐かしさと切なさと……未だ埋まらない、途方も無い程の喪失感と共に。
二人と過ごす時間は、いつもあっと言う間だった。十歳も年下なのに、まるで同い年のように何でも話せる盟友達。特に―――ハイネ君。十四歳とは思えない程大人びた目をした、強くて行動力に優れた少年は……。
「あら、ヤダ……」
自家製保湿ローションを塗ったばかりの頬に伝う物を袖で拭う。彼の死を知らされた百年前に、全部流し尽くしたとばかり思っていたのに。
鼻を啜りつつ、郊外の共同墓地へ車輪を進める。―――良かった、誰もいない。こんな顔を見られたら、優しいこの国の人達の事だ。心配された上、城のリリア達へ連絡されてしまう。
衛兵の定期的な清掃で雑草一本無い歩道を行き、目的の十字架の前へ。解け残っていた雪を払い、風化しかけた墓碑銘を目でなぞる。
「今日も寒いね、ロウ君」「そうだな」「!!!?」
まさかの返事に、咽喉から危うく心臓が飛び出すかと思った。
真冬にも関わらず上半身裸の彼は、すぐ右隣の十字架の横で丸くなっていた。その姿はあの事件の時と同じ十四歳のまま。下には制服のズボンを着、丸めた詰襟を枕代わりにしていた。
「ろ、ロウ君……!?どうして、あなたはあの時私が看取って」
「だからユーレイだよ、れっきとした。ほら、ちゃんと透けてるだろ?」
眠たげに言って、ふわふわした灰色の体毛が生えた腕を上げる。確かに彼の言う通り、向こう側の岩肌がうっすら見えた。
「つーか、マジで俺が見えるのか?この間来た時から、もしかしてとは思っていたが……」
「?」
「あのさ、先公。ヒジョーに言い難いんだけど、それでも聞きたい?」
「勿論」
「死相が出てる」
「………ぇ?」
「バッチリ顔に憑いてるぞ。多分、もうそんな長くない」
衝撃の告白に、しかし口からは何故かクスクスとしか出なかった。
「やっとかぁ……もう百五十年も生きたんだもの。何時お迎えが来ても不思議じゃないよ。そっか……死にかけてるから、こうしてロウ君とまたお喋り出来たんだ」
車椅子の上で前のめりになり、元教え子を感慨深く見つめる。
―――よう。
そう言って、いつものようにフラリと訪れた彼。そして一ヶ月間、私と共にこのクオルで―――本当に色々な話をしながら、ゆっくりと逝ったのだ。
「でも長い間、一人で寂しくなかった?」
「別に」
相変わらずぶっきらぼうで、格好付けた返事だ。
「ねえ、私はすぐにそっちへ逝くの?―――ううん。今の女王のクランちゃん達が、私の誕生日にサプライズを用意しているみたいなの。だからそれまでは死にたくないかなと思って」
「何時だっけ?」
「再来週」
「さあな。俺は所詮、未練で偶々残ったただの幽霊だ。ま、運が良ければ生きていられるだろ」
「それもそうね。けど」クスッ。「幽霊になってもまだ諦めてないなんて、ロウ君らしいと言うか何と言うか」
「ケッ。悪かったな、しつこくてよ」
頬を明らかに赤らめた彼は、悪態を吐いて再び丸くなった。




