↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/170

24章 幸福の一枚―――六百七十五年・三月(二) 



 予想通り、まねきわんこの受付は混んでいた。キュー先生にフリータイム十パーセントオフ券を渡し、会計してもらう。

「二階だって。行きましょう」

 人生初のカラオケルームは二人掛けソファ二つに長テーブル、テレビだけで既にかなり手狭だ。僕は少年と奥のソファに座り、置いてあったメニュー表を広げる。

「ジョシュアは何が食べたい?」

「んーとね……おこさまランチ!」

「先公、そこのマイクと機械取ってくれ。曲の入れ方、もしかして俺しか知らねえのか?―――しゃーねーな。教えてやるから先に飯頼んどこうぜ」

「うん」

 一括でランチを注文し終えた後、まずはロウに教わりながら先生が一曲入れた。しばらくして流行曲のイントロが流れ始め、恐る恐るマイクのスイッチをONにする。


 耳馴染みのメロディーと共に、しっとり綺麗な歌声が室内に響き渡る。続いて機械を操作していた手が思わず止まった。


(上手いけれど、どうしてだろう……胸が、痛い……)

 先生はとても気持ち良さそうに歌っているのに、ずっと聴いていると何故か辛くなってくる。油断していると、涙が零れてしまいそうなぐらいに。

 曲が終わるとパチパチパチ!ジョシュアが力一杯拍手した。

「キューせんせい、じょうずじょうず!つぎはハイネおにーちゃんだね!がんばってー!」

「はぁー、やっぱり見られていると緊張するなあ……」

 出番が終わり、すーはーすーはー。

「先生の後はハードル高いな。―――ロウ、一緒に歌おうよ。ほら、この曲十八番だって前に自慢してただろ」

「勝手に捏造するなよ。しゃーねーな。先公、マイク貸せ」

「はい」

 台詞の割に意外と乗り気な様子でマイクを握り、僕にも立つよう急かす。イントロが流れ、同時に息を吸い込む。


 二人の手拍子をバックに、僕等は夢中で歌った。悉くハモった歌声は、自分で言うのも何だが本家に勝るとも劣らない。と言うか、相方が普通に上手くて吃驚だ。


 パチパチパチ!!さっきより大きな拍手を浴び、親友は恥ずかしげに顔を背けた。

「ロウ君凄い!何処かでレッスンを受けたの?」

「んな訳ねえだろ。この曲は偶々練習してるだけで」

「でもハイネ君と同じぐらいビブラートも効いてたし、発声もとっても綺麗よ。声楽部に来たら即レギュラー間違い無し」

「ヤダよ面倒臭え。生贄は優等生だけで充分だろ」

「誰が生贄だよ。ジョシュアは何を入れたの?」

 パッパッとボタンを押す少年に声を掛ける。

「んー、ママがよくうたってたきょくー。ぼく、あんまりうたってしらないんだ」

「大丈夫だよ。僕も両手で数えるぐらいしか歌えないから」

 言いつつチラッと題名を見る。歌手も名前も全然知らない曲だった。


 小さな手で僕のマイクを握り、腹の底から力強い声を出す。―――え、演歌?拳を効かせ、見事に別れた男への未練を歌い切る。


 曲と拍手が終わり、彼は丁度来たお子様ランチのオレンジジュースをゴクゴク飲んで咽喉を潤す。

「はぁ。二人に負けず劣らず上手だったけど渋い趣味ね、ジョシュア君のお母さん」

「?覚えてないの?」

「え?」

 困惑する彼女に、少年はパッ!と笑顔を作る。

「そっかぁ。でもだいじょうぶだよ。ママはもうすぐかえってくる―――そうしたらすぐにおもいだせるよ」

 確信的な言い回しに脳内が?で満たされる。キュー先生とジョシュアの母親って知り合いなのか?でも前に先生から聞いた話では、彼の母親は亡くなって……。

 不思議発言に慣れているのか、先生は然程気にせず話題を変えた。

「ねえ、私達の分の料理が来る前に記念撮影しない?ええと、携帯携帯……あ!しまった……電池切れてる。ミーコの事で気が動転してたわ。うっかりしてるなあ、私」

「なら後で送ってもらえばいいですよ、ねロウ?」

「俺の携帯で撮る気かよ!?う、そんな目で見るな……わ、分かった。けど、これっきりだからな」

 唇を尖らせつつ無骨な黒い長方体を取り出し、画面を開いてボタンをぽちぽち。

「フラッシュを焚く設定にして、と」

「ジョシュア君はやっぱり真ん中かな―――?どうしたの、青い顔して」

 先程までのはち切れそうな元気は消え去り、何処か怯えた表情を浮かべる少年。


「ジョシュア?」「―――ぼく、そのピカッてのキライ。だいっキライ」


 そう呟き、携帯を忌々しげに睨み付けた。次の瞬間、僕の方を見てバツが悪そうに唇を尖らせる。

「ご、ごめんねハイネおにーちゃん。でもホントにいやなんだ、こわいから……」

「謝る必要なんてないよ、ジョシュア。誰にだって怖い物の一つや二つ」

「そうだ!ぼく、ちょうどおしっこにいきたかったの。いってるあいだにとっててよ」

 言うなりソファを降り、ドアを潜って廊下へ出て行ってしまった。余程嫌だったらしい。

「やっぱ変な餓鬼だな。まあいい、さっさと撮っちまおうぜ」

 何故か提案者ではなく僕を中心にして親友は座り直し、伸ばした腕の先の画面を見ながら位置調整。折角なのでケージからミーコを出し、飼い主の膝の上に乗せた。


「撮るぞ」「ふにゃぁ」「はい、チーズ!」パシャッ!

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。