10章 校舎案内―――六百七十五年・十月四日(五)
「―――へえ、君はロウ君って言うのか。うん、覚えたぞ」
ジョウンさんがふんふん頷くと、親友は隣を歩く僕へこそっと耳打ちした。
「おい。このオッサンに任せて、本当に大丈夫なのか?」
「でも手帳持ってたよ。きっとこう言う振りをしているんだ」多分。
まだ明るい内から無人の廊下を歩くのは初めてだ。練習後はいつも、外の人工光が暗くなっている。何だか落ち着かない。
「あの、ジョウンさん。現場に犯人の手掛かりはあったんですか?」
「お、仇討ちだ!」
「いえいえ!僕みたいな子供が、屈強なアラン先生でも敵わなかった相手をどうこう出来る筈ありませんよ」
不謹慎に喜ぶ彼へ慌てて否定する。
「いや、やり方さえ考えれば何とかなるんじゃないか?あーでもハイネ君、魔術使えないよな?なら格段に厳しくなるなあ」
「いい大人が変な事嗾けるんじゃねえ」
本気で怒る親友。
「うん、ご尤も。……鑑識の分析待ちだけど、初動捜査の時点では特に犯人に繋がる証拠は見つからなかった。あと、レイテッド先生の財布とパスポートはリビングで発見済み。彼女が何らかの事件に巻き込まれたのは、ほぼ確定的と言っていい」
何故?どうしてキュー先生が、そんな恐ろしい目に……あ、『S事件』のSってまさか、前に学校内で聞いた、
「『Dr……スカーレット』」「っ!!?」「へえ、君等も知っているんだ。まぁ人の口に戸は立てられないから、別に驚くような事でもないか」
ジョウンさんは片眉を上げ、でも君等の年代だと、調べでもしない限り詳細は知らないだろう?と尋ねた。
「はい。あの、その人は一体何者なんです?キュー先生とはどんな関係」
「着いたぞ、オッサン」
『用の無い生徒は立入禁止』、そう張り紙された白い扉を指差すロウ。
「案内はここまででいいよな?帰ろうぜハイネ。先公共に見つかったら厄介だ」
「まあまあ、そんなに急いで帰らなくても」
言うなり彼は扉へ向けてサッ!と扇子を一振り。途端、それまでくぐもって聞こえなかった中の声が僕達の耳まで伝わってきた。




