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キラキラ光るネオン街の脇の筋を入る。
檜山の隣には着飾った女性が寄り添っている。檜山が慣れない様子で身じろぎするのを、隣の女性は反対に慣れた様子で彼の腕を取り、意味ありげに見上げた。
どの建物に入るか2人は決めかねているのか、ピンクのネオンの立て看板の陰に潜んだまま動かない。
檜山は時刻を確認しつつ、すっかり縁遠くなった界隈を行き来する男女をぼんやりと眺めていた。
いずれ目玉がピンク色に染まってしまいそうだ、と数度瞬きをした時だった。
「……?」
ふと既視感に囚われる。
檜山たちの横を通り過ぎる2人組。片方はオーバーサイズ感のするパーカーのフードを目深に被って俯き、もう片方は見覚えしかない。
──五十嵐。
佐伯の本のカバーデザインをした、あのいけ好かない男だ。
そこまでなら檜山も見て見ぬ振りをしただろう。彼のプライベートなど知りたくもない。
ただ彼の連れている相手は、明らかに周囲の視線から隠れようとしている。背はそれなりにあるようだが、未成年か法的にアウトな存在か。正体がわかればいくらか溜飲を下げることはできるかもな、とは思い直す。
ただ檜山には引っかかるものがあった。一瞬見えた横顔の、鼻頭。
見覚えがあるのだ。
ちょうど、桜並木を歩いた時の、その横顔に──
「あっ、ちょっと!」
女性の腕を振り解いて、檜山は物陰から飛び出した。
「おいっ」
「……っ!?」
突然のことで目を剥く五十嵐を後目に、檜山はパーカーの人物──佐伯の腕を掴んだ。
「何してんだよ」
「ひ、檜山……?」
佐伯は目を白黒させて狼狽している。いち早く我に返った五十嵐が檜山に詰め寄った。
「檜山君か。こんなところで奇遇じゃないか」佐伯を背中に隠すように割って入る。「でもキミ、無粋じゃない? 何をしてるかだって、そっちも大概だと思うけどね?」
五十嵐は檜山の背後にいる女性に視線をやる。檜山は小さく舌打ちして眉を顰めた。掴んだ手の中で、佐伯の腕の筋が、檜山を拒むようにぐりぐりと動いているのを感じる。
「俺のは事情が違う」
「へぇ、事情ねぇ? こんな場じゃあ見苦しい言い訳にしか聞こえないな。それが通るとお思いで?」
ねぇ、と今度は周囲に視線を投げた。通行人らの怪訝な視線が集まり始めている。
檜山はまたも、今度は強く舌打ちして、
「……来い」
と強引に佐伯の腕を引いた。
「えっ、うわっ」
そのまま五十嵐と女性のいる場所から離れていく。2人の背後に「どういうことよ」と狼狽える女性の声が聞こえる。檜山は心の中で彼女に詫びた。
「あらら。強奪か」
五十嵐は彼らのうしろ姿を呆れ顔で見送った。佐伯を取り返す気は起きなかった。
「はぁ。ようやくヴィランの役目が果たせたみたいだな。面倒に巻き込まれるのはもう懲り懲りだよ、先生」
大きくため息をついて踵を返す。周囲の視線は痛いが、あとであの2人に借りを返してもらえればいい。
「!」
不意に腕が強く引かれ、物陰に連れ込まれる。背後に感じた不穏な視線の主が、怒りを露わに五十嵐に詰め寄った。
「あとで事情を聞かせてもらうからね」
「あ、はい……」
どうやらこれには逃げられないようだ。檜山への貸し1つ、と五十嵐は星の見えない夜空を仰いだ。




