初登校!
アラームの音が鳴る。重い瞼をゆっくりと開けスマホを見る。画面には5:30と書かれていて少しづつ頭が回りだしてくる。
「そういえば今日は柊さんと一緒に登校するのか」
事前に用意していたコップ一杯の水を一気に流し込み脳を覚醒させる。どこかのテレビか何かでやっていた朝イチに水を飲むと失われた水分を摂取することができるうえ、目も覚めるのでおすすめだと紹介されていた。俺はそれを1回試してみたら予想以上に効果を感じたので寝る前にコップを上に持って上がるのが日課になっていた。(なお残ったコップを持って降りないので母親に文句を言われるのは日常茶飯事である)
スマホをもって眼鏡をかけ下に降りるともう既に寝起きのお父さんが髪の毛ボッサボサでパンを焼いていた。
「おはよう、相変わらず早いね」
「ん、おはよう。珍しいな」
そりゃそうだ、いつもは家出る30分前に起きてカラスもびっくりの風呂に入り着替えて出るというルーティン(?)になっているので30分以上も早起きすれば珍しがるのも無理はない。
「今日は柊さんと登校するから早く起きた」
「そうか、ええこっちゃ。待たせたらあかんから早めにでーや」
はいはい、言われなくてもわかってますよっと。にしても早く起きてしまった。今から風呂に入って用意しても20分以上余る計算だ。
まぁ色々準備しますかね、風呂に入り寝癖を直し、アイロンに当てられたカッターシャツを来て制服を身に纏う。ちらりと時計を見るとまだ6時過ぎ。これでもまだ15分ほど余っている。
「せっかくなら朝ごはんでも食べるか」
普段なら時間がないのと食べるとお腹が痛くなるという理由でここ数年ほとんど食べていなかった。でも最近は3限と4限の間にお腹が空き過ぎて購買にいってパンを買うこともしばしばだ。
ただ今もそこまでお腹が空いている訳でもないのでおにぎりを作って持っていくことにした。炊飯器からご飯を取り出しラップにくるんではい完成。さすがにそれだけだと味気ないので昆布のふりかけでも持っていこう。いや決して混ぜ込むのがめんどくさいからではない。決して。
お弁当袋におにぎりを2つ詰めて鞄の中に入れると時計は6時15分を指していた。そろそろ行くかと思って靴を履き、外に出ると家の前に手ぐしで前髪を直している柊さんが立っていた。
「村野くんおはよう!」
「柊さんおはよう、ごめん待たせちゃった?」
「ううん!今来たとこ!行こ!!」
俺らはバス停までゆっくり歩いていった。走れば2分くらいで着くが歩けば5分程度かかる。
ちらっと柊さんの方を見ると何か話題がないか探しているような、そんな焦った表情をしていた。
そりゃ思春期の、しかも付き合ってもないのに一緒に学校に行くとか気まずい以外何者でもないよな。と思って昨日頑張って調べた話題の振り方を思い出して
「今日何時に起きたん?」
とありきたりすぎる質問を投げかけた。
「今日はねー、4時半!」
4時半????今は別にテスト期間でもないんですよ?起きる時間おじいちゃんやん。いや、正確にはおばあちゃんか。柊さん絶対いい歳の取り方するよなぁってまてまて今俺とんでもなく失礼なこと考えてないか?
「4時半ってはやすぎん?睡眠時間足りてる?」
「んー、でも休日は起きたら半日経ってたとかザラにあるよ?」
「それってあんまり良くないのでは…」
「あはは…昨日はたまたまだから!」
とかいう俺も昨日寝たのが日付回って結構経ってからだったと思う。人の事は言えないからこれ以上この話題を広げるのはやめておこう。カウンターパンチ、怖い。
バス停について少しするとバスが来た。財布から定期を取り出してタッチする。そういえば柊さん定期はどうしてるんだろう。流石にまだ作れてないのかな?
ふと後ろを向くと同じように定期でタッチしていた。そんな俺の心配なんて無用だった。
バスの中に入った時俺は少し戸惑ってしまった。本来であれば1番前の運転手の後ろに座るのだが今回は柊さんも一緒だ。流石に柊さんのことをガン無視していつもの場所に座るのははばかられるため後ろの2人席に座った。
よいしょっと隣を見ると柊さんが、座っている?あれ?いや普通か、俺が変に意識しすぎなんよな。周りに空いてる席しかないのにわざわざ隣座るのも別に普通だもんな。バスの中では流石に話さないか、また歩く時に何話そうかな…とか考えているとしばらくして肩に感触を感じた。
えっ…と声がでかけたが何とか押し殺しチラッと横を見ると柊さんがもたれかかって寝てしまっていた。いやいや結局眠いんじゃねーか。
え?というかそれよりこれどういう状況?こんなことがあっていいんですか?俺にやけてないかな、やばい温もりが俺の心臓を早める!少しでも体を動かそうもんなら柊さんの睡眠を邪魔してしまう。
できるだけ意識しないように見慣れすぎた外の景色をみて気を紛らわしていた。バスに揺られ15分、循環バスなので直行したらもっと早くつくのだがバス停を巡らないといけないのでこのくらいの時間がかかってしまう。
ようやく駅に着いて降りていく人達から生暖かい目を向けられつつゆっくり柊さんを起こそうと
「柊さん、もう着いたよ」
とそっと話しかけると思ってる以上に熟睡しているのかなかなか反応がない。一応まだ人もいるので少し小さな声でもう一度話しかけるとビクッとした反応と何が起きているか分からないような顔をしていた。
「おはよう、もう着いたよ」
「ふぇ?あっ…ありがと…」
周りを見ればもう俺ら以外に残っている人はいなかった。柊さんは慌ててバッグを持って出て行こうとした。俺も降りるか〜とふと下を見ると可愛らしいケースのスマホが落ちていた。慌てすぎでしょ…と少し苦笑いしつつそれを拾いバスから降りた。
「柊さん、スマホ忘れてたよ」
「えっ!あっ!ありがとう!」
ん?スマホの裏になにか写真が挟んである。小さい子どもの写真だ。柊さんはごめーん!といいながらスマホを手に取った。あれは幼なじみか何かかな。聞いて勝手に傷つくのも嫌なのであまり考えないことにした。
バスから降り、改札を通っていつもの様に1番前の車両に行く。やばいいつもの電車のくせが。
俺がいつも乗っている電車は通勤ラッシュ真っ只中の電車だ。真ん中の車両に乗ればそれこそぎゅうぎゅうになって辛い思いをする。なのであえて一番前まで歩いて乗ることでかなり空いているどころか座ることもできたりする。なので俺らはいつも1番前に集合しているのが暗黙の了解みたいになっていた。柊さんは不思議そうに着いてきて1番前まで来ると
「ここ好きなの?」
と聞いてきた。柊さんに説明してなかったなぁと反省して説明するとなるほどねっ!今日は座れるといいね!と笑顔でこちらを見てきた。朝から柊さんの笑顔を見てしまった。誰かに刺されるかもしれない。いやそれすらも受け入れてしまえるほどの僥倖。
少しして電車が来た。開いた時に思っているよりスッカスカで驚いた。そりゃいつもより早く電車に乗ったらラッシュから外れるか。チラッと柊さんを見るとやったねっ!と小さく言われた。可愛すぎる。。
2人用の席に着いてスマホをいじろうとしたら柊さんが単語帳を開いて勉強し始めた。
(これが成績いい人との差か)
とか思いながら俺も今日の朝テストの勉強を始める。電車で勉強とかいつぶりや?いや、試験前は意外としてたか。焼け石に水どころか鉄板に水滴やったけど。鞄の中から単語帳を取り出して勉強しようとすると
「私に気を遣わないでスマホとかいじってていいんだよ?」
柊さんが小声で少し申し訳無さそうに話しかけてきた。
「いやいや、俺もぼちぼち勉強せんとやばいから」
たかが朝テスト、されど朝テストだ。もちろんこの中から期末のテストに出てくる可能性は十分にある。範囲のページを開いて勉強していたら
「英単語はまず単語から意味が分かるようになったら大丈夫だから、日本語から英語はとりあえず後回しでいいよ!」
「あいあいさー!頑張るます!」
フフッと小さく笑う柊さん。その横顔を見るだけで俺のモチベーションがみるみる上がっていく。2人で黙々と勉強していたら乗り換える駅まで来ていた。
電車から降りてさあ乗り換え…と思っていたら見たことある顔が1番前の電車に乗っていた。
(まつたくなんでおるんや)
電車の端の方で爆睡しているまつたくを見つけ俺はひたすら困惑した。とりあえず同じ場所から入るのはまずい、
「柊さん、こっちから乗ろ」
「えっ、う、うん」
半ば強引に別の車両に移動し電車に乗り込む。幸いにも席は空いており俺らはまた2人で座ることができた。
「いつもやったらこんなに空いてないんやけどな〜」
そう話題を変えながらなるべく気づかれないように振る舞う。
「…そうだね結構空いてる」
やっぱり誤魔化しきれないか…?次の別の話題を必死に探していると
「いつも一緒に来てる八谷くんたちは今日はいないの??」
しまった、八谷とまつたくは柊さんと同じクラスなの忘れてた。いつもあのグループで登校してたらそりゃ憶えてるか。
「今日はいつもより早く家出たからな、ちょっと後の電車に乗ってるやろ」
「えっ…ってことは今日は八谷くんたちに断って一緒に登校してくれたってこと…?私が昨日お願いしたから…」
「いやっえっと、そのいつも一緒に行ってるわけじゃないで?別の時間に行く時ももちろんあるし、」
「で、でも…」
「ほんまに大丈夫やって、それに親になんて言われようと一緒に行くかどうか決めるのは俺やし。今日は一緒に行きたかったからさ。」
もちろんいつも行っているメンバーで行くのも楽しい。でもそれ以上にせっかく柊さんと仲良くなれるチャンス、逃す訳には行かない。
「…なら良かった。」
少し安心したような表情を浮かべる柊さんに俺も胸をなでおろす。
そこからはお互いに勉強しながら最寄り駅に着いた。
「結構長かったね。」
「せやなあ…しかもこっからまたちょっと歩かなあかんし前よりは不便になってるんちゃうん?」
「そうかも。でも前と比べたら通学が楽しいから全然嬉しい!」
そうニコッと笑いかけてくる柊さんを俺は小っ恥ずかしくなり直視出来なかった。
降りてからまつたくに遭遇するかもと思ったのだが先に行ってしまっていたので正直安心した。
(あいつは結局なんではよ来たんやろ。)
またいつか聞こうなんて考えていると先に進んでいた柊さんがこちらを振り向き
「ごめん、こっから行き方わかんないや」
そう少し舌を出して笑っていた。
「かしこまりました。ここからが俺の役目ですので」
そう執事風にチョケていると柊さんもなにそれと微笑んでいた。
歩きながら勉強するのもなと思い単語帳をしまおうとすると
「あ!せっかくだし問題出してあげる!範囲はえーっと」
「え?いやいいのに」
「せっかくならいい点数取って欲しいし!勉強してたの見てたからね!」
実のところをいうと柊さんの隣に座っているという事実だけでなかなか頭に入っていなかったのであまり答えられなかったのだが、それでも柊さんは優しく教えてくれた。
学校に着くまでにはポツポツと人はいるものの知り合いには遭遇しなかった。顔が広くないのはこういう気に役に立つ。
「じゃあ私こっちだから!朝テスト頑張ろうね!」
そう手を振って自分のクラスに入っていった柊さんに小さく手を振り返して自分の席に着いた。
(これで低い点数とったら柊さんに顔向けできない…!)
1時間目の準備なんて放ったらかしで黙々と勉強していると
「おはよー!村野が勉強してるなんて珍しいな」
「うっせ、俺だってやるときゃやるんだよ」
「おお!遂に勉強に目覚めたか!お前も一緒に東大目指そう!」
「そこまでじゃねーよ」
同じクラスの吉中と林にそう茶化されながらも勉強を進める。
そしてチャイムが鳴り担任の前田先生が朝テストをもって入ってくる。
「今回から補習あるから〜平均マイナス1点以下ね」
「えー!」
「聞いてないっすよ先生ー!」
「だって言ってなかったもん。はい、机の上は筆記用具だけねー!」
みんながブーブーと文句をいっているがこの中で本当にやばいのは数人だけだろう。まぁ本来であればその中に俺も入っているのだが。
「じゃあ制限時間は5分ね!スタート!」
みなが一斉に紙を表に向ける。
うん。いつも通りのテストだ。下線部の単語の意味を次の四択から選択する問題7問。
日本語の文章から英語に直す時の虫食いで四択が2問、記述式が1問の計10問だ。
いつもの俺なら最後の問題は当然わからず、9問中四択を何問当てられるかの勝負や!といい2〜4点をウロウロしていただろう。しかし今日はいつもと一味違う。
よくバレーボール選手がスパイクを打つ時にブロッカーとレシーバーの位置ががよく見えることがある。それを「ゾーン」と言うが今の俺がまさにそれ、答えが俺を丸して!と強く願っているようにさえ見えてくる。
最後の問題のスペルが少々心配だが8点は固いだろう。タイマーが鳴りテスト終了と同時に相互採点をするのだが俺の横の女子はかなり優しい。
「どうする?採点自分でやる?」
と小声で言ってきてくれるが
「いや、大丈夫。山崎も大丈夫…いや俺が心配するまでもないか」
山崎はオッケー!と指でOKサインをつくり交換をする。すると山崎から珍しそうに俺の答案を見ている。
それもそうだ。いつもは俺と同じところがある方が心配になると言われるほどなのでほとんど答案が一緒であればそりゃ驚きもする。
模範解答が帰ってきて採点をすると相変わらず山崎は満点。俺は最後の問題こそ少しスペルミスがあるものの9点と補習を回避出来ていた。
ほっと胸を撫で下ろしていると
「凄いじゃん!勉強したん?」
「まぁちょっとな、たまたま今回から補習あったみたいやし助かった」
これは柊さんにも後で感謝しないとなぁと考えていると
「村野お前!!やったな!やったんだな!卑怯者!」
俺の答案を横取りして発狂している大野に
「フッ…すまんな。俺はそろそろ馬鹿キャラ卒業の時期だと思ったんだ。」
「くっそぉ俺も隣が山崎やったらなぁ…」
そう言って悔しそうに俺の答案を見ている。ちらっと吉中の方を見ると小さくピースをしていた。鬼かお前は。
「はーいじゃあ回収しまーす!後ろから前に送ってきてー!」
前田先生の合図で大野も渋々席に戻る。いやいや朝からいい点数取れるとは気分がいいですねぇ。さーてと一限の準備でもしますか…やっば古文の宿題やってくるの忘れてた。
その後しっかり当てられ見当違いの答えを言ってしまい、周りにゲラゲラ笑われ先生も呆れてしまっていた。まだまだ馬鹿キャラ脱却の道は遠い。トホホ…。
昼休み、食堂から帰ってきて自分の席を見ると今日の朝テストと結果が返却されていた。平均は7.9点。みんな勉強してるんやなぁ。
気分がいいから陽キャ軍団のサッカーに混ざってこようかなぁなどと考えているとたまたま柊さんがうちのクラスにきて友達と話していた。
(話しかけに行くか?でも引かれたら余裕で死ねるしなぁ)
諦めて廊下のロッカーから教科書を取り出し5限の用意をしていると、
「点数高かったじゃん!補習回避だね!」
まさか話しかけられるとは思っていなかったのでかなりビクッとした後振り返るとピースしている柊さんがいた。
「柊さんのおかげだよ、ありがとう」
「いやいや!私は何もしてないから!これからも頑張ろうね!」
そう言い残し柊さんは自分の教室へ帰っていく。
俺はウッキウキになりながらグラウンドへ走っていった。




