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なんでもない日

6月16日。他の人からしたら特別でもなんでもない日。

いや、正式には誕生日の人もいたり毎日のように〇〇の日と名前がつけられているので特別な日である人もいるかもしれない。

でもおそらくこの学校の中では1番私が特別に感じている日。

私は元々京都の山奥に住んでいた。そのため学校までは毎日2時間以上かけて登校している。初めの方は凄くしんどい思いをしていたが今はそこまでしんどくはない。慣れってすごい。

そんなある日、父の転勤が決まった。兵庫の上の方である。そこで家族で相談し、もう少し学校にも会社にも近いところにみんなで引っ越すことになった。

引っ越すこと自体は何回か行っているのでそこまで抵抗はない。話によるとお母さんの友達の家の近くらしい。まぁなんでもいいか。

私はいつものように早起きをして学校に行こうとすると今日くらいはお母さんが送っていくよと言ってくれたのでありがたく駅まで送って貰うことにした。帰りもお母さんが迎えに来てくれて今日から本格的にそこに住むことになるらしい。

「今日から新しい家よ!楽しみ!」

「そうだね、お母さんの友達の近くなんだっけ?」

「そうなのよ!優愛は忘れてるかもしれないけど航くんの家の隣なのよ?」

私は思わずいじっていたスマホを落としかけた。

航くん?え?ほんと?

私のお母さんと渉くんのお母さんは大親友でよく家に遊びに行かせてもらっていた。私もそれによくついて行ったのだが航くんはいつも家の近くの友達と外で遊んでいたためほとんど会うことはなかった。

ただ京都の山奥に引っ越しが決まった時にもう会いに行けなくなるからと最後のお茶会をするために航くんの家に遊びに行った日。

外はあいにくの雨だったので航くんはたまたま家にいた。

ほぼ初対面だったと思う。緊張してなかなか話せなかった私に航くんは

「トランプとオセロあるからどっちかしようぜ!どっちがいい??」

と気さくに話しかけてくれた。人見知りだった私は相手から話しかけてくれることが嬉しくてほぼ一日中色々なゲームで遊んだ。

その時の写真も実はスマホの後ろにお守り代わりに入れている。

あの日以降

「ねぇ!航くんは?また遊びたい!」

と何回もお母さんに聞いたりしてたっけ。

あれからちょうど6年か、私が初めてこの学校に登校した時名前を見つけて胸が高なったのを今でも覚えている。「1年1組41番村野航」

同じクラスだ!あの日のことを覚えてくれてるかな?

そんな淡い期待をして話しかけた時。明らかに緊張していてよそよそしい航くんがいた。

あっ、流石に私の事覚えてないよね。1回家で遊んだだけだもん。他の子もたくさん家に来ただろうし。

そこから私は話しかけたい欲をぐっと抑えて過ごしていた。

そこから半年が経っただろうか。担任の先生が席替えをすると言い出した。うちのクラスは1ヶ月に1回のペースで席替えをしていたのでいつものように後ろの席を願ってくじを引いたら1番後ろの窓際という圧倒的特等席を引き当てた。これ以上の幸せはないと喜んでいたら隣に見慣れた男の子が座る。

「あっ!村野くん!よろしくね!」

「おう!1ヶ月よろしく。」

これ以上の幸せはないと思っていたのに。毎日早起きして無遅刻無欠席のお返し帰ってきた!神様ありがとう!

よし、ここからまた仲良くなれるよう頑張るぞ!…そう意気込んでいた。

隣の席であるにも関わらずほとんど会話ができず、ペアワークやグループワークも一切なく着々と進んでいく日々。

このままだと何もできずに席替えしてしまう…!

そう焦っていたある日私は遂に風邪を引いてしまった。

あぁ私の無欠席が…でも何とかその日のうちに治して次の日に学校に行った。すると机の中に大量の紙が。配布物、そんなにあったんだ。

1枚ずつ軽く目を通していると左上にホッチキスされた3枚の紙。明らかに手書きの跡があるその紙は昨日の授業の板書のコピーだった。右上に付箋が着いている。

(余計なお世話かもしれないけど。村野)

私はそれを見た瞬間マスクで隠れた顔が綻んでしまう。

航くんが登校してきたらいち早くお礼を言おう。そう心に決めて待っていると遅刻ギリギリで航くんが走ってきた。

「セーフ!」

「アウトだ、下に行って遅刻の紙を書いて来なさい。」

「いやいやチャイムなり終わるまでに入ってきましたって!」

ぶーぶー言いつつもそのまま下に降りて行く村野くん。思わずフフッと笑ってしまった。

まぁ帰ってきたら言えるだろうと思っていたら一限ギリギリに航くんが帰ってきてまた話すチャンスが無くなってしまった。休み時間はいつものメンバーとすぐにどこかへ行ってしまうため本当に話せなくなる。そこで私は勇気をだした。

「先生、教科書忘れました」

「気をつけろよ?村野見せてやれ」

よっしゃ!これで話す機会作れた!バレないように教科書を鞄の中にしまう。

そこでこっそり航くんの教科書に感謝の文を書くと顔を赤くする航くん。え、可愛いかも。

しかしその日以降あまり話すことが出来ず席も離れ離れに、2年生以降は別のクラスになってしまった。それでも私はそのことを鮮明に覚えている。

あの日から更に3年。思わぬ形でまた話せる!と思い小躍りしてしまいたいこの気持ちを何とか抑えて平然とした表情で車を降りる。

その日は航くんのクラスに行ってちょっと話しかけようとか思ってたけど流石にそこまでの勇気は出なかった。

授業が終わりお母さんが迎えに来てくれた。

車の中で荷解きほとんど終わってないから手伝って〜と涙目になりながら運転するお母さんに仕方ないなぁと我ながら上から目線で話していた。

家に着くと新築の匂い。

「ちょっと散歩してくる!」

「ちょっと、荷解きは?」

私は玄関に鞄を置いて家の周りを散歩し始めた。隣の家を見ると「村野」と書かれた表札が。私はそれを見ると自然とガッツポーズをしてしまっていた。ハッと周りを見て誰にも見られてないことにほっとする。

10年も前のこと。周りの景色などはぼんやりとしか覚えていなかったが、ところどころ見覚えのある場所がありここで航くんは遊んでたんかなぁなんて考えているとあっという間に家の周りを一周してしまった。

流石に家の手伝いしなきゃと家に入ろうとするとワン!と犬の鳴き声が聞こえてきた。後ろを振り返ると可愛い犬が2匹家の前に来ていた。

「あっ!可愛い!」

やっぱり航くんとそのお母さんだ!

「優愛ちゃん!久しぶり!元気してた??」

「お久しぶりです!おかげさまで!」

チラッと航のほうを見ると信じられないといった顔をしていた。私が引っ越してくるの知らなかったのかな?

「ほら航、挨拶」

「え?あっえっと、初めまして村野航です。」

「なにその挨拶〜!1年の時同じクラスだったでしょ??」

1年生のときのこと忘れたのかなと少し寂しい気持ちにもなりつつなるべくいつも通りの自分でいるように振舞った。

「あっそうだったね」

「これからもよろしくね!」

実はもっと前から知ってるんだけどね!と心の中で強いツッコミを入れつつ気を紛らわすために黒いわんちゃんをめちゃくちゃに撫でた。

わんちゃんたちを可愛がっていると後ろからお母さんの声が聞こえてきた。

パタパタとスリッパを鳴らしながら玄関までお母さんが出てくると

「久しぶり〜!元気にしてたー?」

「まぁ!久しぶり!おかげさまで!」

お母さん同士の久しぶりの再会。お母さんは1度話し出したら止まらないからなぁと横で苦笑いしていると黒いわんちゃんが撫でて欲しいと足をカリカリしてくる。可愛い。

「ふう、帰るよ!」

航くんが引っ張ってもなかなか離れないわんちゃん。ふうちゃんって言うんだ。名前も可愛い。

ふうちゃんに甘えられて居てもたってもいられなくなった私は

「ねぇ、私も散歩させたい!」

思うより先に口に出てしまった。流石に断られるかななんておもっていたら航くんのお母さんは快く承諾してくれた。

ウキウキで待っていると村野くんが少し嫌そうな顔をしていた。そうだよね、帰ってきていきなり犬の散歩、しかも初めての人と一緒に行くとか絶対しんどいもんね。

「ごめん、もしかして迷惑だった?」

少しでも否定的な素振りを見せたらすぐに引こうと決めていた。

「いやいやんなことないで、俺も最近散歩行けてなかったし行こうぜ」

航くんは本当に優しい。今回はその優しさに甘えさせてもらおう。

「基本的にはリードは短く持って、ふうは特にガツガツ進むから負けないようにね、」

「うん!頑張る!」

そう言った次の瞬間ふうちゃんがリードをグイグイ引っ張って進もうとする。

これはちょっとでも気を抜いたら持っていかれる強さだ。しっかり持って離さないようにしないと。

少し歩くとさっき散歩した公園が見えてくる。2人で中に入るとふうちゃんがうんちをしだした。これって拾わなきゃだよね?

航くんにヘルプを求めると馴れた手つきで処理してくれた。

「…そんなに見るもん?」

やばい、ちょっと見すぎちゃったかも。

「あっ…えっと手馴れてるなって」

「そりゃ10年以上散歩させてますから」

「…私も将来そんな感じにできるかな」

言った瞬間口を押さえたが後の祭りだった。これだと今後も一緒に散歩したいって言ってるようなもんじゃん!

「まぁ慣れれば行けるよこれくらいは」

何とか平常を保とうとしていると意外にも航くんは何事も無かったかのように流してくれた。

ほっとするのも束の間、スマホに振動がきてチラッと確認するとお母さんから

『今日は航くんたちとご飯することになったから用意よろしくね!』

とLINEが来ていた。えっ、ほんと!楽しみ!

その後は軽く雑談をしながらぐるっと1周して私の家に帰ってきた。

やっぱりお母さんたちはまだ話し込んでいて航くんは今一緒にご飯を食べることをしらされたみたい。

「あっ優愛も航くんの手伝いしてきな!」

「はーい!村野くんちょっとまっててね!」

急いで家の中に入りダンボールの中から私服を適当に取り出す。そういえば面と向かって航くんって言ったことないよね、家の中だと割と言ってたんだけど。

私服に着替えて玄関に出ると

「航は家の中入ったよ!鍵は空いてると思うから入っちゃって!」

「あっ家の中にジュースあったと思うからそれ何本か持っていっといて」

はーいかしこまりました!もう一度家に帰り冷蔵庫を開ける。オレンジジュース、リンゴジュース、ジンジャエールなど様々なジュースが置いてあった。元から今日は豪華にするつもりだったのだろうか、その中から何本か取り出してビニール袋の中に入れる。

「お邪魔しまーす!」

それを持って航くんの家に入ると懐かしさが込み上げてきた。もちろん変わっている部分はあるが基本的な構造は同じだ。

「えーっとまずは出前か、何をどんくらい頼めばいいんや?」

リビングに行くと少し困った様子でチラシを見ていた航くんがいた。

「私マルゲリータ食べたい!!」

また勢いで話しかけてしまった。そういえばまだ制服なんだ、色々やること多かったからなのかな。

ものすごく驚かれたんだけどさっきの挨拶聞こえなかったっぽい。いきなり家に入ってきたらそりゃ驚くか。

未だに固まったままの航くんに再度話しかけると

「…他に何か食べたいものある??最悪お父さん帰ってくるし全部押し付けたらいいからなんでも選んで」

お父さんの扱いがちょっと酷い、いやでもうちもそんなもんか。

チラシを見せてもらって私の好きなように選んでいく。横からよく頼むなぁといった顔でこちらを見てくる航くん。

照れ隠しのように航くんに問いただすと

「え?いや?俺もそのくらい頼もうと思ってたし」

としっかり言質がとれた。こうなってしまった私はもう歯止めが効かない。

ピザを注文してから1回家に帰り頼まれていた荷解きをする。思っている以上に量があり大変だ。

小一時間ほど経過しただろうか。もうすぐピザが届くから航くんの家に行くよとお母さんに言われ、私も荷解きをやめて家にお邪魔させて貰った。

リビングに行っても誰もいてなかったのでどこか別の場所で食べるのかと少しウロウロしていたら偶然にも航くんとお母さん会話を聞いてしまった。

「あんた、あんなに頼んで食べきれんかったらどうするのよ」

「でも今日はパパも帰ってくるって書いてあったし大丈夫じゃね?最悪俺の朝ごはんにするわ」

「もう」

しまった。私が頼みすぎたから航くんが怒られてしまった。航くん、私のせいにしていいのに。なんで自分のせいにしたんだろう。

しばらくしてピザが届き食卓が豪華になっていく。各々が好きなジュースを開け、注いで乾杯の準備をしていると誰かが帰ってきた音がした。航くんのお父さんとお姉さんみたいだった。…お姉さんすごく美人さんだ。

先程帰ってきた2人も合わせて計6人での晩御飯。こんなに賑やかなのはいつ以来だろう。

私はというとさっきの会話が気になって全然食が進まなかった。それを見かねた航くんが気にかけてくれる。ピザを取り分けてくれてそれを頂いていると航くんはぽぽちゃんと一緒に外に出た。

今なら話せるかもとピザを食べてから航くんについて行き、勇気をだして話しかけた。そしてピザの件に関しても航くんは笑って許してくれた。

「村野くんありがとう、優しいね」

3年前と似たようなフレーズ。あの時村野くんかなり焦ってたっけ、懐かしいなぁと思い出していると

「俺なんか全然優しくないから、そんな負い目感じることないで、」

航くんは謙遜していた。絶対にそんなことない!そう思った次の瞬間にはもう言葉を発していた。

「でも村野くんはあの時…!」

「うん…??」

「いや、なんでもない、ありがとね」

これはもう自分の中にしまっておこう。そう胸に誓い私は家の中へと戻って行った。

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