歓迎パーティ
「せーのっかんぱーい!!」
お母さんの音頭で始まったパーティに俺はオレンジジュースを片手に顔を思いっきり引きつってしまっていた。どうしてこうなったのか。
事の経緯は数時間前に遡る。
俺は予想外のお隣さん、柊優愛に会った時、家の中から
「優愛?ちゃんと手洗いうがいしたの??」
とエプロン姿のお母さんらしき人がひょこっと顔を覗かせた。
そこからはもう想像通りである。お互いのお母さんが爆テンションで手を取りあって話しだした。お母さんは話している最中にもう片方のリードを俺の方に渡してきて目線で指示をする。
はいはい家帰って脚拭いたりしたらいいんでしょ、俺は無言でそれを受け取り柊さんのお母さんに軽く会釈しややぎこちない感じで家に歩いていった…と思ったら片一方のリードが果てしなく重い。え?と振り返るとふうたが柊さんにべったりでなかなかはなれないのである。
「ふう!帰るよ!」
そう引っ張ってもなかなか動かない。ふうたってこんなに初対面の人に懐いたっけ。そう手こずっていると
「ねぇ、私も散歩させたい!」
と目をキラキラさせてこちらを見てくる柊さんと目が合った。やばい可愛すぎる。必然的に上目遣いになっているのも相まって可愛さに拍車をかけている。
「行っといで!今日はちょっとコース短かったしこの子らもまだ歩き足りないんやろ」
「えー!ええの?そんなうちの子のわがままなのに」
「大丈夫大丈夫!航、リードの持ち方とか色々教えてやりな」
「え?うん」
思わず返事をしてしまった。いやいやいやまてまてどうなっている。俺の拒否権は?ってかこの状態で2人きりにさせる?ただでさえ俺の心臓筋肉痛やのに。
そんな風に考えていたら柊さんから不安そうな目でこちらを見てくる。
「ごめん、やっぱり迷惑だった…?」
やばい、おそらく俺の顔があまり良くなかったのを見て眉を下げてしまっていた。
「いやいやんなことないで、俺も最近散歩行けてなかったし行こうぜ」
緊張の中何とか言葉を紡いでOKの胸を伝える。柊さんは満面の笑みで立ち上がり渡したふうたのリードを受け取る。
「基本的にはリードは短く持って、ふうは特にガツガツ進むから負けないようにね、」
「うん!頑張る!」
ふうたはいつにも増してテンション高めでずんずんと先に進んでいる。
やばい、今柊さんと一緒に散歩している。これは果たして現実なのだろうか。意外にもどこか冷静に散歩している自分もいる。いや緊張しすぎて頭が真っ白になっているだけか。
少し歩いていると小さな公園が見えてきた。2人で中に入るとすぐふうが地面を匂い出す。
「村野くんこれ…」
「あっオッケー任せて、」
ふうがうんちしたのを見て俺はバッグの中からビニール袋を取り出す。その中に手を突っ込みうんちを拾いひょいっと中に包む。それを見て柊さんは興味津々といった様子でこちらを見ていた。
「…そんなに見るもん?」
「あっ…えっと手馴れてるなって」
「そりゃ10年以上散歩させてますから」
「…私も将来そんな感じにできるかな」
「まぁ慣れれば行けるよこれくらいは」
ふうたのおかげで…(?)少しずつ会話もできるようになってきたので思い切って聞きたかったことを聞いてみることにした。
「柊さんって隣が俺の家だって知ってたん?」
「うん!ちょっと前には知らされてたよ!これからよろしくねって今日言おうと思ってたんだけど言いそびれちゃった」
ごめんねっと小さく謝ってくる柊さん。だから今日ちょっと視線感じたのか。やはり俺のセンサーは間違っていなかった、あと仕草がいちいち可愛い。
「この子らも色々やったしもうそろそろ帰ろっか」
「うん!今日は楽しかった!ありがとう!」
そう話した瞬間ぽぽがおしっこをしだした。相変わらず空気が読めない子。
家に帰るとまだ親同士で喋っているのを見て2人で苦笑いしていた、いや何をそんな話すことあるねん、こちとら20分くらいは歩いとったぞ。でもまあマダムどうしのお喋りはこんなものか。
「帰ってきたからこの子ら脚拭いとくな」
「あ!ちょっと!今日の晩御飯さ、引っ越して来てくれたんだしせっかくならってことでうちの家でみんなで食べることになったから色々用意しといて」
「…はい??」
おいちょっと待て俺はまだ隣に柊さんが引っ越してきたことを飲み込めていないんだぞ。ちょっとは俺の心臓をいたわってくれ。
「出前にピザ頼んどいて!あとジュースとか色々なかったか確認もよろしく!」
「あっ優愛も航くんの手伝いしてきな!」
「はーい!村野くんちょっとまっててね!」
まてまてまて話がトントン拍子で進みすぎでは??結局俺はまず何したらいいんだ??思考停止状態で固まっている俺の足にカリカリとした感触。そうやな、まずはこの子らにおやつあげんとな。
脚を拭いて興奮状態の2匹に喧嘩にならないようにボーロを少しだけあげる。本来ならもう少しあげるのだがもうすぐご飯の時間だしまぁこんなもんだ。
「えーっとまずは出前か、何をどんくらい頼めばいいんや?」
「私マルゲリータ食べたい!!」
「うわっ!!びっくりし…た?」
そこには女神が立っていた。上は白いパーカーの前に可愛いくまさんのプリントがされていて、下はデニムパンツでスタイルの良さがより際立っていた。まさか柊さんの私服姿を拝めるとは…我が生涯に一片の悔い無し…
「村野くん…?大丈夫?」
柊さんの私服姿に見とれていると心配そうに声をかけられた。危ない、つい天使と言いそうになった。
「…他に何か食べたいものある??最悪お父さん帰ってくるし全部押し付けたらいいからなんでも選んで」
「いいの!やったぁ!じゃあ、これでしょ、これでしょ、あっ!これも好き!」
(思ってるより柊さんって結構食べるんだ)
「あっ!今絶対よく頼むなぁって考えたでしょ!!!」
「え?いや?俺もそのくらい頼もうと思ってたし」
「そう?ならあとこれも!」
いやまだ頼むのかよ。
最終的にM6枚にL2枚、サイドメニューも2品いき食卓には大量のピザが並べられた。
「すごいすごい!パーティだね!」
「せやな、なかなかの大盤振る舞いや、あっパパ帰ってきた。」
時刻は夜の8時前、柊さんの家から持ってきてくれたジュースも一緒に乾杯しようかと思っていた矢先に家の鍵が空き、ただいまーと声が聞こえてきた。
「こんばんは〜お邪魔してます〜」
「あぁ!いえいえ!ゆっくりなさってください〜」
「え!ピザあるやん!ってわぁ!こんばんは!」
いやお姉ちゃんも一緒に帰ってきてたのかよ。今日は大学遅かったんかいな。
俺には4つ年上のお姉ちゃんがいる。いつもはほのぼのとしているがたまに毒舌でよそ行きとそうでない時のギャップが凄い。つまり今はよそ行きフェイスだ。
「手洗ったら席ついて。もうそろそろ乾杯するよ。」
「はーい!」
そして今に至る。テレビにはこの時間のバラエティを適当に流していて各々好きなピザをとってガヤガヤと楽しそうに会話に花を咲かせていた。そんななか1人ポツンと行儀よくピザを食べている柊さんがいた。
「柊さん?遠慮せず好きに食べてええんやで?」
「あっありがとう。えーっと…」
「このピザ美味かったで、いる?」
「あっ欲しい…かも」
「ん、お皿ちょーだい」
「あ、ありがとう」
柊さんからしたらこの6人のうち身内は1人だけ、しかも引っ越して来て直ぐにこのガヤガヤだから疲れたのだろうか。さっきまで意気揚々と食べたいピザを選んでいた時とは大違いだ。
正直自分もそこまで大人数でガヤガヤするのは好きではない。そのため親戚の集まりなどでもすぐに別の部屋に行ったり寝たりしているのだが今回ばかりはそうではなかった。
今柊さんのお母さんは俺のお母さんとお父さんと楽しそうに話している。お姉ちゃんは無心でピザを頬張っている。いやどんだけ食うんだよ、ちょっと前までダイエットがどうこう言ってたじゃねぇか。
もしここで俺が自分の部屋に行こうもんなら本当に柊さんは1人になってしまう。何か話すこととかないかなと考えているとぽぽが外に行きたいと窓をカリカリしだした。
「あーはいはいちょっと待ってね」
玄関に行き外の電気をつけてからぽぽを外に出した。うちの家の庭は完全に閉まっていて窓を開けても外に出れないような設計になっているのだ。そのためぽぽやふうがトイレをしたいときも外に出してあげるだけでしてくれるのでかなり楽である。(まぁ庭のあちこちにうんちが転がっている可能性があるのが玉に瑕だが。)
普段ならぽぽを外に出すだけだが今日はワチャワチャしているのもあって外の空気を吸うために俺も一緒に外に出た。
まだ6月だと言うのに蒸し暑い。ピザが届くまでに自分も急いで制服から私服に着替えたのだが長袖長ズボンはやらかした、だからといって寿司屋の大将のように腕まくりするのもなぁと考えていると後ろから
「暑いね〜」
と声をかけられ思わず振り返るとそこには柊さんが立っていた。
「そうやね、ってかピザは食べんでええの?」
「もう結構頂いたし、お姉さんが物凄い勢いで食べてたから…」
あのバカ姉貴…ちょっとは人様に配慮して食べろよ…苦虫を噛み潰したような顔をしていると
「あの…ごめんね?」
「ん??何が??」
「いやっそのピザ頼みすぎたのをお母さんに言われてるの聞いちゃって」
「あー、、聞かれてたんだ」
お母さんたちの話が終わってピザの注文を終えたと報告しに行くと頼んだ数に少しだけ小言を言われてしまったのだ。まぁパパも帰ってくるし最悪明日の朝俺が食べるよと言ってお母さんもそこまで強く咎めたりはしなかったのだがまさか聞かれていたとは。
「実際に俺も勢いであのくらい頼んだと思うしへーきへーき!」
なんなら姉がもうほとんど食い尽くしてしまっているかもしれない。お姉ちゃんさっきはごめん。グッジョブ。
「村野くんありがとう…優しいね」
思わず柊さんの方に振り向いてしまった。まさかそのフレーズを言われるとは思っていなかったからだ。少々、いやかなり恥ずかしくなったがここで何も言わないのもおかしいと思ったので
「俺なんか全然優しくないから、そんな負い目感じることないで、」
「でも村野くんはあの時…!」
「うん…??」
「いや、なんでもない、ありがとね」
そう言って柊さんはリビングに帰っていった。あの時…?何かが引っかかるのだが全く思い出せない。俺なにかしたっけな、、、
俺がリビングに帰った時にはもうぼちぼち帰ろうムードになっていた。お姉ちゃんはたらふくご飯を食べたあと眠いからという理由でもう上に上がったらしい。赤ちゃんか。お父さんもそこそこ飲んでいて顔が赤くなっていた。おいおい勘弁してくれよ。
「そういえば優愛ちゃんは学校の行き方分かる?」
何優愛ちゃんって言ってんだよクソジジイ。柊さん、いや柊様だぞ。二度と間違うな。
「はい!一応行き方は調べたので大丈夫だと思います」
「航、あんた明日優愛ちゃんと一緒に学校行ってあげな。行き方くらいわかるでしょ」
舐めないで欲しい。いくら学力底辺の俺でも3歩進んだら忘れる鶏じゃねえんだから3年も同じ通学路通ってたら幼稚園児でも覚えるわ。
「ほんと!それなら助かるわ!航くん、明日はよろしくね!」
「よろしくお願いします」
柊さんまで頭下げなくてもいいのにとか思いつつあー了解っすと軽い感じで流そうとしたら
「じゃあまた時間とかmineするね!あれ、繋がってなかったっけ?」
「繋がってない…かな」
「じゃあ繋がろ!QRコード出すから読み取って!」
おいおいまじかよ急展開きた!!!お袋感謝するぜ!って俺のアイコン変なのにしてないよな?っとあぶねえぽぽとふうのツーショットだ
柊さんのは…めっちゃ高級そうなお皿やな、ご飯好きなの伝わってくるわ…とりあえず何かスタンプでも送っとくか
犬の可愛いよろしくですっ!スタンプを送ったらうさぎ2匹がお辞儀してるスタンプが送られてきた。なにこれ可愛い。まだ何か送ろうかなとか考えていると
「じゃあまた!夜遅くまでありがとう!久しぶりに喋れて楽しかったわ!おやすみ!優愛行くよ〜」
「はーい!村野くんもおやすみ!」
「おーおやすみ」
そう言って帰ってしまった。くそうもう少し話したかったのに…とか考えていると
「航、片付け手伝って。あーちゃんもう寝たしパパも酔っ払ってるから」
うぃーす。まぁmine交換の立役者やし?ここは大人しく従っときますか。これで貸し借りなしやから!さーて何から片付けようかな……あれ?ピザは??
片付けも終わり風呂も入ってゴロゴロしていると一通の通知が来た。
『今日はありがとうね!楽しかった。ところで明日なんだけどいつも何時くらいに出るの?』
やはり好きな人からのmineはいつにもまして嬉しいものだ。そう、たとえその返信に気を取られやっていたゲームがゲームオーバーになってしまったとしても。
『俺も楽しかった、ありがとう!普段は6時45分のバス乗って行く』
とここまで書いてハッと思い出す。待てよ?このままだとアイツらに一緒に登校することバレるんじゃね?いやまぁずっと応援してくれていたしいずれは言うつもりなのだが昨日の今日で色々勘ぐられるのはめんどくさい。
ここは逆にいつも何時くらいに学校着くのか聞こう。そこから逆算して行けばいい感じにズレるはずだ!
『柊さんはいつも何時くらいに学校着くの??それに合わせて乗るバス変えるよ、』
質問に質問で返すのもどうかと思ったが仕方ない。返事が来るまでスマホゲーのデイリーでもこなそうかななどと考えていると速攻で返事が帰ってきた。
『私はいつも8時前くらいには着く感じ!でも乗る電車が違うからちょっと変わるかも?』
早い、いつも俺らは始業の8時25分の5分前に着くくらいだから30分弱ほど早く行っていたらしい。
また乗る電車の種類によって学校までの距離が変わる。
柊さんは近い側の電車を使っていたから路線が変わると学校から駅まで遠くなってしまう。それも加味すると6時20分くらいのバスに乗るのが妥当だと思い乗り換え諸々調べた。
そしたら通勤ラッシュの影響もありスムーズに乗り換えができ、8時前くらいに着けそうなダイヤを見つける。
『なら6時20分のバスにしよ!乗り換えもスムーズにできそうだし』
『わかった!ありがとう!じゃあまた明日ね、おやすみ』
それとペンギンが寝ているスタンプが送られてきた。いちいち可愛いスタンプだ。俺もおやすみスタンプを押してアラームを5時30分にセットしてから寝る。いや普通に考えて寝れるわけがなかった。
今日という激動の1日もう忘れることはないだろう。何十回と寝返りを打ってようやく眠りについた。




