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力と想いは表裏一体(2)

子供達が一通り雪合戦や雪だるま作りを堪能し、領主邸の前の雪が踏み固められた庭で、アルフレッドとエレオノーラが向かい合っていた。


「エレオノーラ様、一つ質問ですが、盾を使用してもいいでしょうか?」


アルフレッドの問いに一切の躊躇なくエレオノーラは頷いた。


「もちろんだ。 王都の騎士団でも、学園の生徒でも、盾の扱いは必須技能の一つ。 盾は剣士にとって第二の剣とも言える大切なスキルだからな」

「ありがとうございます!」


アルフレッドが構えたのは分厚くて、黒っぽい以外は不自然な点がない、ごく普通の丸い木製の盾のようだった。


「先手は譲ろう。 全力でくるといい」

「いきます!」


アルフレッドは大地を蹴り、正面から真っ直ぐに斬りかかる。

だが、歴戦の騎士団長であるエレオノーラはその単調な太刀筋を簡単に木剣で受け止め、軽く弾き返した。


「踏み込みは悪くないが、単調だ! 正面からの力押しでは体格と経験に勝る相手には押し切られるぞ。 工夫しろ!」

「分かっています! なら遠慮なく、『総力戦』でいきます!」


エレオノーラの一声にアルフレッドの口角が吊り上がり、弟妹たちが『ズルフ兄スマイル』と呼ぶ、悪巧みの笑みが浮かぶ。


低い姿勢をとり、盾の面をエレオノーラに向けるように構え直し、再度駆け出す。


戦法を切り替えたことを認識し、それに見合った構えを取るエレオノーラだったが…


カチッ…!!

盾の裏から微かに、何やら機構音がなった。

カッ!!!


「なっ!?」


盾の表面に取り付けられた留め金具だと思っていた出っ張りが、突如として強烈な閃光を放ったのだ。


(目眩し…! そうか、あの坊や特製装備ということか!)


視界を奪われた隙を狙い、木剣による追撃がくる。

長年の勘に従い、振るわれた木剣を防ぎ止め、大きく後ろに跳び退く。


アルフレッドは木剣による追撃を仕掛けてこない。

彼は剣ではなく盾を、それも面ではなく側面を向けるような独特な構えを取る。


ヒュンッ! ヒュンヒュンヒュンっ!


「ぬぅっ!?」


視界が回復し始めたエレオノーラは、音の正体を確かめる間もなく、木剣で叩き落とす。

自分の顔横を通り過ぎるものを掴み取る。

手に残っていたのは20センチほどの長さの細い棒切れ。


(これは矢…? あの盾…弓を小型化して仕込んでいるのか!)


エレオノーラは内心舌打ちをしつつ、飛んでくる矢を捌きながら視界の回復を図りつつ、距離をつめる。


(弓ってあんなに連射できるものだったか…!? どういうカラクリを仕込んだんだ!)


「次は私から行くぞ!」


先ほどの閃光に警戒しつつ、エレオノーラは一気に踏み込み、アルフレッドと木剣同士をぶつける。

圧倒的な剣筋に負けたアルフレッドの木剣はその手を離れ、体勢が大きく崩れる。


「ここまでだ、少年!」


寸止めし、決着を言い渡そうとしたその時だった。


プシューーーーーーーッ!


「煙幕…!」


盾の中央から大量の水蒸気が吹き出し、真っ白な霧に包まれ、またも視界が完全に遮断される。


「確かに厄介だが、甘い!」


(気配と魔力反応を探せば…)


「そこだ!」


持ち前の鋭い気配察知で対象の位置を特定したエレオノーラは迷いなく木剣を突き出した。


しかし、手応えは軽かった。

当たった瞬間、アルフレッドの形をした気配の主は陽炎のように揺らぎ、黒い魔力の霧となって足元の黒い何かの下へ溶け込んだ。


「はっ!?」


気配の主はアルフレッドではなく、彼の気配に溶け込んでいた漆黒の忍者型ミニロボット『ブラックシャドー』の影分身(デコイ) だった。


「ちっ! 君にも相棒となる存在がいたとはな!」


気配が消えたアルフレッドへの警戒の構えを取ろうとした瞬間、足元にいるままのシャドーは影を伸ばし、エレオノーラの影と結びつく。


「…!? 体が…動かない…!?」


影縛りの術。完全に動きを止められたエレオノーラの死角からアルフレッドが煙幕を突き破って現れる。


このままでは負ける。


「…炎よ!」


咄嗟に木剣へ炎を纏わせる。

ゴォォォ!と燃え上がる炎が光源となり、周囲の影の輪郭を乱し、シャドーの術を強制的にかき消す。


体の自由を取り戻したエレオノーラは、飛び込んできたアルフレッドを盾ごと蹴り飛ばし、強引に距離をとった。


「ガハッ!!」


強力な蹴りを喰らい、アルフレッドは柔らかい雪の上に転がる。

数秒の沈黙。 水蒸気の煙幕が晴れ、息を切らしたまま黒焦げの木剣を構えるエレオノーラと、雪まみれで転がったアルフレッドの姿が現れる。


「………ハッ」


我に返ったエレオノーラは、自分が剣の稽古で、子供相手に、あろうことか『蹴り』を使うという大人げない手段を使ってしまったことに気づいた。


「す、すまない少年!! 怪我はないか!? 咄嗟の事とはいえ、加減をすることができなかった。」

「い、いえ…盾で直撃を避けられたので、平気です。」


雪を払いながら、足跡のついた盾を拾い、シャドーを肩に乗せて立ち上がる。

エレオノーラはホッと胸を撫で下ろし、真っ直ぐに彼を見据えた。


「素晴らしい戦術だった。 その仕掛け、モリモリの盾を使いこなす柔軟性と、黒い人形との見事な連携…私の意表を突くには十分なポテンシャルだ。

ただ、状況が変わった後の足捌きがついていけてない。 そこを詰めれば学園でもトップクラスになれるだろう」

「あ…ありがとうございます! 勉強になりました!」


的確なアドバイスを受け、アルフレッドが一礼する。

そこへ、縁側で観戦していたシルバスが呆れたような顔で歩み寄る。


「お前が剣の稽古で魔法と蹴りを使うとはな。 情報戦とミニロボ付きのハンデがあったとはいえ、流石に大人げないんじゃないか?」

「面目ない…しかし、あの盾の仕掛けには初見殺しにもほどがある。

閃光に隠し弓、煙幕の3点セットだと? というか木製なのに私の本気の蹴りでもヒビすら入っていない。

…坊やの特製だろうが、思いつく機能を複数仕込むとは、さすがに恐ろしい発想と技術だな」

「そうだな。 だがエレン、あれでもオレがクロスに言って威力を大幅に下げさせた訓練用なんだぜ?」

「…は?」


エレオノーラが固まる。


「調整前の光は今の倍は明るかったし、中に仕込んだボウガンとかいう機械式の弓は一本で鉄の鎧を大破させる威力でもちろん連射式。 煙幕だって今回は水蒸気だけだったが、設計上はコショウや唐辛子の粉末が一緒に噴き出す『超催涙仕様』だからな」

「なっ!?」

「いや…な? 元々、村の兵士は狩人たちが兼業でやってただろ?

そこにモルヴァインから正規の前衛兵が加わったから、どっちのスタイルでも対応できる汎用装備として、今クロスが試作してるところなんだよ」


エレオノーラの顔面から、サァーーっと血の気が引く。

ただの黒くて厚手なだけの丸い木の盾。 それが相手の視力や呼吸器を殺し、蜂の巣にする凶悪な兵器だというのか。


(今回は12歳の兄が稽古で使ういわば『オモチャの延長』程度の威力だったからよかったものの、もしあれが『調整前』の最大威力で実際に配備されたら、戦闘の理論が根本から覆ってしまう。そんな装備の兵士が100人もいたら…下手すれば騎士団すら一瞬で無力化されかねない…!)


「まぁ、木を構成するあれこれを弄ったカーボンなんたらっていう、炭の強化版を加工できるのがクロスだけだから、そもそも量産できるかすら分かってないんだけどな」


あっけらかんとしたシルバスの言葉を聞いても、エレオノーラの顔色は優れないままだった。





一方その頃…縁側では、知的好奇心が刺激されたルネッタが魔眼で解析を行なっていた。


「なるほど、持ち手の親指に当たる部分に主となる起動スイッチがついているのですね」

「そうです。 それぞれの指が来る位置に仕込んだスイッチから指を離して、メインスイッチを押し込むことで、対応した機能を使うことができるんです。

人差し指ならコンパウンドボウ、中指ならフラッシュ、薬指と小指なら煙幕に対応しています。」

「あら? 人差し指、中指、薬指と小指…薬指と小指は別々に対応してませんの?」

「薬指だけを動かそうとすると小指か中指も一緒に動いちゃうことがあるので、誤作動防止のためにも薬指専用のスイッチはないんです。

あと動作確認をするには、僕の手では小指のところまで指が届かないというのも、制作上の事情としてありまして…」

「そういえば身体は7歳ですものね…納得の事情ですわ。」

「あ、そうだ。 あとであの盾に仕込んだコンパウンドボウやその改良前のボウガンの実物をお見せしましょうか」

「ぜひ!」


血の気が引けた戦いのプロとは対照的に、危機感のない制作者であった。

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