↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
49/58

崩れる常識、つながる想い(3)

ベンドリック家の客間

シルバスの案内で通されたエレオノーラは、おんぶしていた少女をソファへ降ろした。


「悪いなシルバス、手紙も出さずに突然押しかけて」

「気にすんな。 フローラも陛下がお前を差し向けて来る頃だと踏んでたからな。

元モルヴァイン家の兵士たちや、元調査団の研究員のことだろ?」

「それもある。だが、私の本当の目的は、この方だ」


エレオノーラはゆっくりと毛布をめくり、少女の隠れた顔や黒く固まった腕や首筋を見せる。


「魔石化…だな。 胸の紋章からして陛下の末の娘さんか?」

「ルネッタ・グランディア王女殿下。 御息女ではなく国王陛下の御令孫、つまりは孫娘にあたる。

王都のあらゆる手立てを尽くしたが、進行を遅らせるのが精一杯で、本来ならここに辿り着くことすら困難な状態だ。

…正直、王都に戻ることは叶わない。 この村で看取ることも陛下は御覚悟の上だ。」

「魔石化…石化とは訳が違う原因不明の奇病だって話は聞いたことがある。

だが、どうしてこんな状態の子をあの人は…」

「それは、お前の腕だ。 治らないと診断を受けた後遺症をどういう訳か治し、シュトニックの戦いでお前はあの時と変わらぬ闘いをできるまで回復していた。

お前の腕を治した『奇跡』がこの村にあるならと、藁にもすがる思いで連れてきたのだ。」

「なるほどな、事情は分かった。 まぁどうにもならない訳でもないとは思うが…」

「本当か! ならば教えてくれシルバス」

「落ち着けエレン。 今その本人が外出中でな、戻ってから話した方が早い。」


コンコンっ

控えめなノックが響いた。


「あ…噂をすればだな。 いいぞ」


「失礼します。 お茶をお持ちしました。」

「おう、気が利くな」


入ってきたのは先ほど村の中心部にいた『珍妙な集団』の先頭にいた『普通の少年』だった。

彼はお盆に何やらティーカップ3つとティーポットを乗せ、そーっと両手で持って入室する。


シルバスの息子は置かれたお盆のティーポットを傾け、手際よくカップに注いでいく。


「どうぞ。」

「あぁ、ありがとう」


カップを配り、スッと立ち上がる。


「それでは僕はこれで。」

「待て。 ちょっとお前に関する話が」

「ごめんなさい父さん、今から共同浴場に納品の準備しないといけないんで、用事なら母さん経由でお願いします。

あ、ごゆっくりどうぞ」


そう言って、彼はシルバスをかわして、ドアの前で一礼し退室して行った。


「お前のところはマイペースだな。」

「まぁな。 先が思いやられる。」


シルバスとエレオノーラが話している間に、ルネッタは動く右手を伸ばし、カップを手に取ろうとした。


「殿下、お待ちください。 出されたものをすぐ口にするのはよくありません。 私が毒見をしてからに…」

「…いいえ、必要ありませんわ。 このお茶からは怪しいどころか、とても温かくて信じられる不思議な力を感じますの…」


ルネッタは震える右手でカップを持ち上げ、ゆっくりと口に運んだ。


コクっ…と一口飲み


「おいしい…」


さらに一口。ゆっくりとだがその一滴すらも味わうかのように、また一口、さらに一口と、身体に流していった。


「…っ!!」


ルネッタの瞳から、大粒の涙がボロボロと溢れ出した。


「殿下!? やはり毒が…っ、シルバス、貴様!」

「ま、待てエレン! クロスがそんなことをするはずがっ!」


剣の柄に手をかけたエレオノーラと、その手を押さえようと身構える2人だったが、次の瞬間、信じられない光景を目にすることになる。


ルネッタの体が光り出し、頬を覆っていた黒いマダラ模様がまるで春の雪解けのようにサラサラと光の粒子となって肌から抜けたのだ。

それだけにとどまらず、首元、左腕、見えていないが両足も。

彼女の命を蝕んでいたあの黒いマダラ模様も連鎖崩壊するように光の粒となって消え去り、本来の乳白色の肌が次々と露わになっていく。


「温かい… 痛いのがっ、どんどん無くなって…消えていきます…!」


ルネッタは涙を流しながら、両手の指をグーパーさせる。

王都の最高位の魔法や医学が束になっても進行を遅らせることしかできなかった奇病が、たった今、跡形もなく消え去ったのだ。


「……」

「……」


エレオノーラとシルバスは完全に言葉を失い、自分たちが石化したかのように固まっていた。

沈黙を破ったのはシルバスの深く、長く、そしてなお深いため息と、その後に廊下に向かった怒鳴り声だった。


「クロォォォォス!! ちょっと戻ってこぉぉぉぉい!!」




数分後、ビクビクしたクロスエイドにシルバスは問い詰める


「正直に言え。 お前、紅茶に何入れた」

「何って普通の紅茶ですけど…メープルが精錬したハチミツと、すりおろした生姜です。」

「そ、それだけか? 他に何か変なもんを入れたとか」

「お客さんに出す紅茶で他になに入れろって言うんですか…」

「とんでもない効果の薬草とか入れたんじゃないのか!?」

「母さんがおいしいって言って最近飲んでるから、女性の口に合うかなって作っただけですよ…

紅茶に薬草なんて入ってたらとても飲める味じゃないですって」

「そ、それもそうだな…」


(事実、彼が入れたのは普通の食材。 それも王都でもご夫人の間で人気だという美味しく風邪の予防にもなるというハニージンジャーティー。)


一度頭に血が昇って逆に冷静になったエレオノーラは自分の分の紅茶を飲んでみる。


(特段入っているものは普通の食材で風味だっておかしくない。 どちらかといえば私も好きな味だ)


「シルバス、治ったものはしょうがない。 彼を責めるのは何というか…」

「分かってる。分かってはいるが…」


シルバスを引き寄せ耳打ちするエレオノーラ。

合図をするわけでもなく2人は深呼吸をし、気を取り直した。


「坊や」

「は、はい」

「驚かせてすまなかった。 あまりにも美味しすぎて無用に騒ぎ立ててしまったようだ。」

「エレン、その言い訳は無理が…」

ドスっ

「いてっ…そ、そうなんだよ! 怒鳴りつけて悪かったな、クロス」

「あ、いえ…お口にあったようならよかったです」


最大の懸念事項があまりにもあっさり解決し、その手段がただの紅茶だった事実は変えようもなく、それで咎めるのは明らかにお門違いであった。

こうなってしまった以上、仕事の話に戻らなければならない。

そう割り切って話を切り出そうとしたその時…


バァァン!

ドアが乱暴に開け放たれた。


「主ぃぃぃ! いつまでこんなところにいるのであるか!」

「うわぁっ イリス!?」


乱入してきたのは先ほど庭にいたドラゴンの少女だった。


「我はもう待てぬ! 早く次の『漫画』なる奇跡の書物の次号を出すのである!

あんな終わり方で主人公の兄が死ぬなどありえんのである!」

「わ、分かった! 行くから離して! すみません、僕はこれで~…」


少女は有無を言わさず小脇に抱えて連れ去っていった。


クロスエイドの退場とともに再び静寂が訪れる。

開け放たれたドアと、エレオノーラの口は開いたまま閉じることはなかった。


「そういうことだ。 分かったろ」

「シルバス…あの坊やとドラゴン少女について聞かせてもらおう。ゼロからだ。」

「あぁ。 村の発展も、シュトニックの回復薬も、イリスの件も、お前が求める答えは全部アイツにある。

エレン、常識をぶっ壊される覚悟はあるか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。