検索結果は銀の粒(2)
翌朝
僕は家族と従魔たちを集めた。
「これより稲作を始めます!」
「「いなさく?」」
「この村の新たな食文化をもたらします。そのための作物を育てるんです!」
ポカーンとしている一同の顔を無視して僕は続ける。
「クロス、今から育てるってことは冬の間も育つ種類なのかい?」
「いいえ、稲は春に植えて秋に収穫するものです。通常通りやっても育ちません。
でも、イリスがいれば問題ありません。」
「どういうこと?」
「これだけ寒くても離れの中が寒くないのはコタツとお風呂だけじゃないんです。
イリスが寒がりだからしれっと離れ…もとい作業小屋がすっぽりおさまるサイズの防寒用結界を張ってありまして」
「それをちょっと拡張して、畑も覆ってしまおうと?」
「正解です。ってなわけでイリス」
「うむ。まだ見ぬ書物のためである、とっとと始めるぞ」
イリスが手を掲げると、小屋だけを囲っていた半透明の薄い魔力の膜が畑の方へと伸び、先程まで寒かった畑の周りはもう春が来たのかと勘違いするほど、完全に冷気を遮断した。
「ドラゴンの結界をこんな風に使うなんて…結界ってそれこそドラゴンのブレスを防ぐために使う魔法の代表例みたいな魔法なのに…」
「兄君よ、ドラゴンが全員戦いに明け暮れておるわけではないのだ。いちいち決まった形に固執しているようではいかに我がドラゴンといえど寒空で凍死するがオチであろうよ。」
「そうだった…イリス、寒さに弱いんだっけ」
「それじゃあコング、頼むね」
『♪』
コングがキンキンに冷えた地面を一瞬で耕し直し、井戸の魔道ポンプをフル稼働させて水を引き込んで即席の田んぼにする。
そして種籾を植える。もちろん冷たい水の中に入るのは御免なのでコングにお任せ。
「メープル、ある程度育ってきたら管理をお願いね」
『ラジャッ…!』
そして3日後
「「「 実ったぁ~~!! 」」」
「うん。やっぱりおかしい」
畑に広がる金色の穂は、確実に麦とは別物の存在感を放ち、どこか懐かしい香りを漂わせていた。
「ほう…これがイネとかいう穀物であるか、同じ穀物の類でありながらまだ見ぬ美食の元とは…興味深いのである!」
「おっ、イリスも分かるドラゴンだねぇ。この稲から採れるお米こそ、この村の食の文明を1段も2段も高みへ昇らせるんだ!」
「ふむふむ! 我はもう主の思う美食をすぐに食べたいのである!
さぁ、さっさと脱穀するのである!」
「待って待って! 稲は数日乾燥させないといけないんだ」
「そんなもの、主の錬金術で一発であろう? のぉ、あ~るぅじぃ~?」
「わ、分かったから…。それでは、気合い入れていきましょうか!」
「「「 おーー! 」」」
「「「「 コケー! 」」」」
『オーー!』
麦の時に要領を得ている僕たちに、イリスとコッコたち、メープルを加えて超効率で脱穀作業と袋づめ作業を進めていく。
1つ、2つと米袋が並び、袋の中には銀色に輝く小さな宝石が詰まっている。
「お米だ…! ついにお米を食べられるんだ…!」
「さぁ、早速食べようぞ主!」
「いや、まだだ。」
「なぬぅ!? まだ食べれぬのか!」
「焦らない、焦らない。最高の初物を最高の美食へと進化させるために、最高の調理をしないと。」
言いながら、アイテム袋から取り出したのは羽釜。
稲が育っている間に米の炊き方、料理のレシピ、ご飯に合うおかず、いっぱいキューブに教えてもらった。
あとは僕の錬金術でそれを再現するのみ。
ボウルで米を研ぎ、研いだ米と水を羽釜にいれ、魔道コンロに火をつける。
『はじめチョロチョロ、中パッパ』の呪文に従って炊き上げる。
「そ、そろそろよいではないか…もう食べようぞ…」
『!!』
『!!』
蓋へ手を伸ばすイリスだが、その間にソルジャーとコングが割って入り、銃と鍬を向ける。
「ハイ、スミマセンデシタ」
『イリス…マテ…ハウス』
「ハイ」
しばらくすると蓋の隙間から白い湯気が勢いよく吹き出し、おこげの混じった香ばしくて懐かしい匂いが漂い始めた。
「できた!」
早速、お昼ごはんだ。
家族を呼ぶ。テーブルの上には人数分のお椀と、メスのコッコたちが産んでくれたありがたい卵。
そして…
「クロス、この茶色いのはソースかい?」
「そうです。醤油といって、米と相性がいい万能調味料です。」
「ショーユ…」
「なぁクロス、こっちの卵はゆで卵か?」
「いいえ、それは生でご飯に割ってかけるんですよ。」
「生で食うのか!?」
「お腹を壊さないようにちゃんと処理はしてありますよ。」
「そうか…お前が言うなら大丈夫か」
心配と困惑の声をあげる父さんをよそにお椀にご飯をよそい、渡していく。
釜から立ち上る湯気が甘く優しい香りを部屋中に広げる。
米の一粒一粒が立ち、眩く光を反射する。
それはまさに、銀シャリと呼ぶに相応しい輝きだった。
自分の分をよそった後、中央に窪みを作る。
そこに卵を割り落とし、醤油をひとまわし。黒い雫が銀シャリと黄金の黄身に絡み、視界からもうおいしさが伝わってくる。
「シンプルにして究極の料理、卵かけご飯です。騙されたと思って、よーく混ぜて食べてみてください。」
僕がやったのと同じように恐る恐る白米に卵と醤油を降臨させていく家族たち。
「……んッ!?」
アルフ兄の目がカッ!と見開かれる。
「……甘い!」
「飲み物……? いや、噛むと旨味が……!」
「この黒い汁! しょっぱいだけじゃなくて、すごいコクがあるわ!」
「卵が生なのに全然臭くない! むしろ濃厚で……!」
静寂は一瞬。あとは猛烈な咀嚼音だけが響いた。
ガツガツガツッ!
「おかわり!」
「我もじゃ! パン派の我だが、これは認めざるを得ん!」
「クロス、この『コメ』ってやつ、もっとないのか!?」
あっという間に空になる羽釜。
僕も一口、TKGを口に運ぶ。
懐かしい味。求めていた味。
自然と涙がこぼれた。
「うぅ……これだよ……これが食べたかったんだよぉ……」
ベジッタ村に「米」という新たな主食が爆誕した瞬間だった。
だが、この平和な昼食の時間は、一通の手紙によって破られることになる。




