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検索結果は銀の粒(1)

村に大浴場が完成して数日が経った。

ベジッタ村は相変わらず連日の雪かきに追われているが、村の空気は以前とはまるで違っていた。

白い湯気が立ち上る共同浴場の周りには、常に人だかりができている。


「いやぁ、極楽じゃったのぉ」

「シュトニックの商人が『若返りの湯』なんて噂してたけど、あれは本当だったわ」

「風呂上がりの『トーニュー』ってのが、また美味いんだよなぁ」


村人だけでなく、近隣の街や村からも風呂目当てに人が集まり始め、猫耳や犬耳のついた獣人なる種族も見かけるようになった。

みんな顔色がよく、肌ツヤも良くなり、風邪を引かなくなったという。

何より、村全体が活気に満ち溢れ、厳しい冬の閉塞感はどこかへ吹き飛んでいた。

だが、僕……クロスエイド・ベンドリックは風呂上がりのポカポカした体とは裏腹に、未だ満たされることのない渇きに、心はオアシスを求めていた。


(違う…)


夕食のテーブル。焼きたてのパン、干し肉を使ったベーコンエッグ、野菜がたっぷり入った卵スープ。

一見、朝食かと勘違いしてしまいそうになるが、農村の冬の食事にしては豪勢な方だ。

確かに十分に美味しい、文句なんてない。

それでも僕の魂(ソウル)が叫ぶのだ。


(白米が食べたいよぉぉー!!)


湯気立つ銀シャリ

黄金色に輝く卵かけご飯

甘辛いタレが絡んだ豚の生姜焼き


一度思い出した前世の記憶は、渇望となって僕を責め立てる。

だが、絶望的な問題があった。

母さんにも調べてもらったけど、この村、この国には米となる稲がないのだ。

あるのは、麦や大豆、野菜くらいなものだ。


「どうしたのクロス?」

「食欲ねーのか?」

「え? あ、いえ…大丈夫です。 ちょっと考え事を…」


ソラ姉とキッド兄に声をかけられ我に返る。

今は食事の時間。食べられることに感謝してありがたくいただかないと…


「ねぇアルフ、今のクロス…どう見る?」

「あれはまた何か新しいことを考えてる目だね。特にほら、さっきからコングが忙しなく行ったり来たりしてる。クロスの考えを1から10まで理解する知能を持つミニロボットで、村の農業改革を担うコングが反応してるってことは」

「例の穀物の話ね」

「でも今回はちょっと大きな壁が立ち塞がってるみたいだね。その壁をどうぶち壊すか…兄として楽しみだよ。」

「えぇ、本当に楽しみ。」

「何の話だ?」

「あなたは静かに見守ってればいいの」

「くれぐれもつまみ食いしないようにね。次はプリンの時より何倍も酷い目に遭うよ。」

「お、おう」







食後、僕は離れの作業スペースに戻り、机の上に白いキューブと麦の種を入れた袋を並べる。


「麦も米も似たような形をしてるから構造的にはいけるはずなんだけど…麦の遺伝子を組み替えて別の植物を作れないかな、キューブ先生」


 キィーーン!

『 …~~~~~~~… 』

『 …~~~~~~~… 』

『 …~~~~~~~… 』

『 …~~~~~~~… 』

『 …~~~~~~~… 』


「うわぁぁぁ!? 多い!多いって!!」


瞬間、頭の中に情報の濁流が押し寄せてきた。

植物学、遺伝子構造、糖質配列、環境適応データ……。

数人の学者が一斉に耳元で早口言葉を喋っているような感覚で、聖徳太子でもない限り聞き取れるわけがなかった。


「ビックリしたぁ…」

「ン? どうした主よ」

「あぁごめん、なんでもない」


僕の頭の中に流れ込んできた知識の濁流は、僕の拒絶と共に消え去った。


「マジかぁ…米関連だけであんなに知識量が必要なの…?」


ふと白いキューブを見ると


『 ………… 』


何だろう、すごいため息を吐かれたような気がする…


 キィーーン

『 …~~~~~~~… 』


今度は、非常にゆっくりとした、しかし断固たる意志を含んだイメージが送られてくる。

脳裏に浮かぶのは『紙』と『炭(インク)』。まるで、「書いてあげるから紙と鉛筆貸して」とでも言われたような気分だ。


「あ、はい……すいません」


僕は妙に人間臭いキューブの態度に恐縮しながら、言われるがまま紙と、鉛筆を作るために取ってあった木炭を投入する。


カッシャン…カッシャン…カッシャン…ペッ!


キューブから何枚もの用紙がバラバラと吐き出され、ヒラヒラと床に落ちる。


「そうか…ミニロボットの組み立て方説明書も外箱の絵も、こうやって印刷されたものだったんだ…」


僕は床に落ちた紙の資料を拾い上げる。

ソルジャーやコングの組み立て方説明書と同じく日本語で書いてある。


『稲の植物学的特徴と遺伝子構造の解説』

『麦と稲の構成成分比較チャート』

『品種改良の手引き ~魔力による遺伝子編集編~』


しかも丁寧に図解と漢字に読み仮名まで振った上でびっちり書き込まれている。

まるで前世で使っていたインターネットの専門サイトのページをそのまま印刷したかのようだった。


「えーっと…麦の配列を変えて、デンプンの構造を変えろと…それで?」


僕は食い入るように資料を読み込む。

この世界の文字は読めないけど、日本語なら話は別。加えて僕はこういう分野がどちらかと言えば得意分野らしい。

スラスラ頭に入ってくる。

専門用語は多いが注釈も時折入っているし、図解を見れば『どうイメージすれば麦を米にできるか』の答えが全部書いてある。


「…これならいけるかも…!」


頭の中を覆っていた猛吹雪は一瞬にして晴れた。

僕は麦の種に意識を集中し、資料の内容を脳内で強く、より強くイメージする。


「錬成!」


僕の手から光が溢れる。

麦の粒が粒子レベルに分解され、再構築される。

光が収まり、手をどけた袋の中には麦と似ているが明らかに先ほどとは違う種がそこにはあった。


「できた…!」


籾(もみ)だ。米の種だ。

鑑定スキルはないし、テレビで見たことある程度だけど、資料に実物の写真がちゃんと載っている。

モノクロ印刷だから色までは分からないけど、きっと間違いない。

このキューブ…相変わらず謎だらけだけどこの『検索して印刷システム』はありがたい!


「ほぉう? 書物を生成する新たな権能とな…これは興味深いのである。

もしや主の国の書物も生成できるのでは…?」


コタツの中でイリスがやる気を出していることに、僕は気づいていなかった。

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